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〈松葉食ひムーミントロール冬眠る 涙次〉



【ⅰ】


カンテラだ。みんな俺のお喋りを聴いてくれ。俺は* カンテラ外殻の中で考へ事をしてゐた。何だかんだ云つて灯油を補給すると頭がしやつきりする。考へ事つてのは、「魔界健全育成プロジェクト」ぢやないが、經営のスリム化について(俺には事務所の主としての體面がある)。昨日尾崎一蝶齋の見せた態度が氣になつてさ。尾崎は俺にかう云つたんだ。「ルシフェルはアドヴァイザリー・スタッフと云ふ事だが、俺の立ち場はだうなる? ** 俺は特別顧問だ。同じ事務所にアドヴァイザーは2人要るまい」-俺はかう答へた。「魔界の事はルシフェルに、人間界の事はあんたに訊くさ」-それに對して尾崎、「ふん、氣に食はんな」と云ひ棄て、ぷい、と事務所を出て行つてしまつた。



* 前シリーズ第129話參照。

** 前シリーズ第44話參照。



【ⅱ】


じろさんはかう云ふんだ。「尾崎は、實質、役に立つてゐない。奴が事務所を拔けても、構はないだらう?」-「だけど、俺としては、上総くんとの繋がりは切りたくないんだ。前回のヤマだつて、色々助けて貰つた(前回參照)」-「上総くんは社で、*『今週のカンテラ一味』つてコラムを担当してゐる。謂ふなれば、持ちつ持たれつ、ぢやないか、我々とは」-「うーむ。尾崎は所謂『いゝ感じ』のおやぢなんだがなあ。惜しいな」。さうかうしてゐる内に、尾崎の解雇は決まつてしまつた。俺は、尾崎が「グレて」魔界に身を賣つたりしないか、心配だつた。



* 前シリーズ第94話參照。



【ⅲ】


と云ふのも尾崎、一度【魔】に利用された前歴がある。* ザ・コブラつて【魔】だ。あの時も、大分すつたもんだしたものだ。魔界は俺逹と「プロジェクト」の腐心に依つてかなり縮小した。が、まだ親ルシフェル派の【魔】逹が殘つてゐる。と、こゝからは今日の話。「南無Flame out!!」俺は實體化した。尾崎が帰つて來たからだ。然も、ロボット番犬タロウに盛大に吠えられつゝ。尾崎は苦しさうだつた。これはまた【魔】にやられたな。俺は差し料、傳・鉄燦を拔いた...



* 前シリーズ第117話參照。



※※※※


〈滿天星が紅葉枯れ葉と移る時俺の心が燃え盛る時 平手みき〉



【ⅳ】


「ま、待つてくれカンさん。1日考へた挙句、俺にはこゝしか帰るところがないつて氣付いたんだ」-「然しあんた、【魔】に取り憑かれてるぢやないか!」尾崎は案の定、ルシフェル奪還を目論む親ルシフェル派の【魔】逹に唆され、躰を奪はれた。だが、心は人間の儘。魔道にすつかり墜ちた譯ではなく、帰巢本能のやうに何とか事務所まで辿り着いたのだ...


さて、斬るか、然らずんば、彼の面目を保つてやるか。



【ⅴ】


その時、じろさんが俺の耳元で囁いた。まるで【魔】のやうに-「カンさん、斬るんだ。ルシフェルを取るか、尾崎を取るかの瀬戸際だぞ!」-俺の中で冷徹な計算が働いた。周囲に女・子供、動物逹がゐないのを確かめると(と云つても、君繪には直ぐにバレてしまふだらうが-)、ゆつくり、傳・鉄燦の刀身を、尾崎のそつ首に押し当て、その儘引き下ろした...



【ⅵ】


上総くんには事情を連絡した。「さうですか... 殘念ですが、これが師匠の命數だつたのでせう」-これから俺逹は、杖を突いた尾崎の亡靈に着き纏はれる事だらう。尾崎の存念はまだそこら中に居殘つてゐる。これも、歳月が何とか片付けるべき問題の一つだ。俺は、心なしか、尾崎蘇生の手段を探り始めた、自分に気付いた。嫌はれ者には、手を差し伸べる。ルシフェルの一件が皆に浸透した後の課題が、一つ増えた。俺はまたしても、カネにならない人斬りをしてしまつたやうだ。カンテラ咄、お仕舞ひ。



※※※※


〈400話だあれも知らない冬語り 涙次〉



と云ふ譯で、累計第401話めをお送りしました。讀者に、「殘酷な」と云ふ良心がある事、切に祈りつゝ、今回を締め括りたいと思ひます(この項永田)。さらば尾崎一蝶齋!! では。

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