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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第七十三話



 フェリクス皇太子の堂々たる登場は、広間を深い沈黙へと突き落とした。

 その沈黙を破ったのは、狼狽したフィリップだった。


「姉上が……双子……?!

 だが、なんで突然現れた輩が皇太子なのですかっ?!」


「王女が双子なんて情報は……?!」


 ヴェルト侯爵の言葉に貴族たちだけではなく、フィリップとクラリスもまたも驚愕と恐怖に顔を歪ませる。


 周囲が驚く中でアニエス側妃は、眼尻を吊り上げて憤怒に駆られていた。


「皇太子ですって……?!

 どういうことですか、陛下?!

 そのような能力も何も分からぬ輩に皇太子を名乗らせるなど……!

 それにっ!あの時、陛下はおっしゃったではありませんか!

 王位を継ぐのはフィリップだとっ!!」


「お前は、何を言っているのだ?」


 エドワード王は、心底不思議そうに首を傾げた。

 まるで駄々を捏ねる子供か、分かり合えない敵同士か…。

 少なくとも、エドワード王のアニエス側妃に向ける眼差しは冷え切っていた。


「ああ……もしや、お前は先日のお茶会の時のことを言っているのか?

 それならば愚かしい事この上ない。

 余は、その者を皇太子にするなど一言も申してはおらぬ。」


「そんな……!」


 エドワード王の言葉に絶句し、顔色が蒼白になるアニエス側妃。

 そんなアニエス側妃を冷たく見下ろし、エドワード王は決定的な言葉を続けた。


「第一、なぜ王家の血を、余の血を継がぬ輩が王位を継げるというのか?

 それこそ道理が通らぬではないか。」


「え……何を仰ってますの……?」


 アニエス側妃は、エドワード王の言葉が理解できず、まるで幼子のようにきょとんとした表情を浮かべた。

 エドワード王と己の間に産まれたと心から信じているアニエス側妃の何も分かっていないと一目で分かる表情。

 そんなアニエス側妃の顔から、フィリップへとエドワード王は視線を移す。


「もう一度告げよう。

 お前の産んだその者は、余の息子ではない。

 余の血を一滴たりとも継いでおらぬ。

 お前が不貞を働いた相手との子なのだからな。」


「な、何を仰っているのですか……父上?

 私は、父上の子で、王子……」


 フィリップは信じられないとばかりにエドワード王の顔を見上げる。

 その瞳は懇願と混乱に満ちて揺れていた。


「ヴェルト侯爵、説明してやれ」

「御意」


 冷め切った声音のエドワード王の命令を受けたヴェルト侯爵が進み出て、その重たい口を開いた。


「王妃殿下が亡くなられた直後より、公式の記録に第一側妃と国王陛下が寝室を共にされた記録は一切ございません。

 フィリップ殿下の生年月日から計算すると、陛下との間の子ではないと公的かつ医学的に証明できます」


 淡々と事実だけを述べるヴェルト侯爵。


「嘘よっ?! 嘘ですわっ?!

 デタラメを言わないで下さいましっ!!

 公式の記録に残っていないのは致し方ないことです!

 だって、あの頃の陛下は毎晩のように人目を忍んで私の寝室にいらっしゃったではありませんか?!」


 アニエス側妃は青ざめた顔で、悲鳴のような声を上げた。


「私を愛していると、夜が来る度に陛下は優しく囁いてくださったではありませんかっ!

  私と過ごした愛の日々を忘れてしまったのですか?!

 私だけを愛していると、あの女や宰相のせいで普段は私の側に寄り添い、愛を囁くこともできぬ、と……そうおっしゃったではありませんか!」


 アニエス側妃は引きつった、歪んだ笑みを浮かべ、十七年間信じ続けた愛を、己にとっての真実を叫ぶ。


「愚かという言葉ですらお前には足りぬな。」


 エドワード王は、心底軽蔑する眼差しを向けたまま、アニエス側妃へと冷酷に真実を突きつけた。


「己が息子には簡単に禁薬を使用するというのに、自分に幻惑剤を他国の間者が使用しないとでも思ったのか?」


 ヴェルト侯爵が、エドワード王の言葉を補完するように事実を淡々と告げる。


「第一側妃の部屋より幻惑剤の痕跡は十数年前より見つかっております。

 そして、第一側妃を惑わせ、利用したのはリンダス帝国の間者だと確認済みです。

 ……アニエス、お前はは陛下と思い込んで、間者との間にフィリップをもうけてしまったのだ」


 ヴェルト侯爵の、いや父親のトドメの一言にアニエスは絶叫を上げ、その場に崩れ落ちた。


「愚かの極みなり。

 アニエス!お前はっ!

 お前は緑の薔薇の家紋を賜りしヴェルト侯爵家の令嬢として骨の髄までもっと厳しく叩き込むべきだった!」


 崩れ落ちたアニエスを前に憤怒すらも生温いヴェルト侯爵の怒声が響く。


「"国民のためならば青き血を持つものはいつも一つなり"

 この建国当初より伝わる言葉を知らぬとは言わせぬぞ!」


 王命を執行したヴェルト侯爵の普段は穏やかな雰囲気からは想像もつかない、血を吐くような慟哭が広間に響く。


「……本来ならば、十七年前のあの時、お前の首を叩き落としっ!

 一族郎党全ての者達の首を並べ!

 我が首を叩き斬り、陛下へと差し出すべきだったのだ!」


 ヴェルト侯爵は顔を真っ赤に染め、血の涙を流しそうな勢いで叫んだ。


「剣を手に持ち、お前の息の根を止めようとした私を慈悲深い陛下が止めたのだ!

 愚か過ぎるお前などの為に私を、我らが緑の薔薇の一族を失う訳には行かぬ、と!」


 地獄の鬼も裸足で逃げ出す形相で、怒りで髪を逆立てたヴェルト侯爵は言葉を続ける。


「側妃となったお前の側仕えの者達だけでは説明がつかぬ愚行の数々。

 必ずやお前を利用している存在があると賢明なる陛下はお考えとなり……お前と不義の子を囮として使ってくださる事となったのだ。」


「おと、り……私は、囮……?」


「……子は親を選べぬ。

 その女の罪はその女のもの。

 ゆえにセレスティナと同等の教育を与え、全てが終わったあとは貴族の一人として生きることを許す予定だった。

 ……結局、蛙の子は蛙だったが、な。」


 愕然とするフィリップの問いかけにエドワード王が答えた。


「万死に値する咎人が、アルカンシエル王国を守るための礎になれるならば!

 何を迷うことがある!

 その上、このっ!

 この愚か者を育てた老いぼれの私に!

 陛下と亡き王妃様の至宝とも言える、双子の片割れを、フェリクス殿下を信頼して預けて下さったのだ!

 この命、この忠誠、この血の全ては、陛下と、そして皇太子殿下を初めとしたアルカンシエル王国へと捧げる!

 我らが緑の薔薇の一族は、末代に至るまで己の心を捨て!

 ただ、ただ、王家と王国のために尽くすものとなったのだ!」


 ヴェルト侯爵は、自らの娘の裏切りと王の計り知れない慈悲に対する贖罪を公衆の面前で叫び、深々と地に額を擦りつけた。


 広間を覆う貴族たちは、エドワード王の十七年間にわたる冷徹な計略、ヴェルト侯爵の壮絶な忠誠、そしてアニエス側妃の狂気の愛の結末。


 その全てに、もはや言葉を失っていたのだった。




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