第六十九話
レオナルドとルシアが勘違いされた公爵邸の騒がしい朝から、月日はあっという間に過ぎ去った。
アストルが口外することは無かったが、使用人たちからの意味ありげな視線にレオナルドとルシアは頬を染め合うこととなった。
「ルシア、すまない……思っていた以上に皆がその……誤解しているようだ……」
「……私は……レオナルド様とのことを、こんな風に誤解されることは……嫌ではありませんよ」
「えっ……ルシア、それはどういう……?」
「ふふ!秘密です!」
意味ありげな微笑みをマリーナ達から向けられる度にルシアは赤面することになったが、嫌な気持ちはしなかった。
レオナルドは、アストルやハロルド達から「想いが通じ合って良かったですね」と祝福されることとなる。
満開だった冬薔薇が散り、寒い冬は終わりを告げ、暦の上では春となった。
そして、とうとう……貴族の子息たちが通う学園の卒業式が執り行われる運命の日が訪れた。
「とうとう……この日が来ましたね、ルシア。」
「レオナルド様……」
二人はこれから起こることへの緊張、そして……覚悟の宿った瞳で頷き合う。
「レオナルド様、今宵は三日月でしょうか?
満月でも、三日月でも……隠され続けた真実を照らし出してくれるかしら?」
「どうでしょうね?
全ては陛下のお心次第では有りますが……少なくとも、今宵で決着をお付けになる為に動かれていましたから。」
貴族の子息、令嬢達が期待と緊張を胸に抱いて出席する卒業式後の舞踏会。
綺羅びやかで美しい王城の広間で開かれる舞踏会。
それこそが、卒業した年若い彼らが王国の貴族達へ成人したと披露される大一番なのだ。
「ルシア、もし一つだけ分かることが有るとすれば……」
「有るとすれば?」
「私と貴女の婚約が正式な物となったことでしょう。」
「ふふふ……そうでした。
すでに結果が出ているとは言え、本来ならば今宵が賭けの最終日になるはずでしたね。」
アニエス側妃のお茶会で決定的なものになったとは言え、もしかしたら今日まで二人の婚約は結果が出ていなかったかもしれなかった。
「笑いごとでは有りませんよ。
私にとっては死活問題でしたから。」
「ふふふ……すみません、レオナルド様。
でも、レオナルド様の隣にいる今が幸せ過ぎて、賭けのことなんて忘れていました。
……あら?レオナルド様、顔が真っ赤ですわ。」
「……ルシアが可愛過ぎて、困ります……!
そんなに嬉しいことを言われたら……舞踏会を欠席したくなる!」
「えっ?!
ダ、ダメですよ!
出席するってお返事してますし、それ以外にフレイヤ様のことも頼まれてますから!」
「分かっています。
分かっていますが、男心は複雑なんですよ。」
「それは……恋する乙女心ではなくて……?」
「……恋するという点だけは認めますが、乙女では有りません。」
まるで掛け合いのような気やすい会話を交わせるまでの関係となれた二人。
どちらともなくルシアとレオナルドは笑ってしまう。
「……ルシア、今宵の貴女も美しい。
あの夜も言いましたが、まるで夜の女神のようです。」
レオナルドは、鏡の前で夜空のような濃紺の生地、ブランシュ公爵家を示す白薔薇を飾ったドレスを纏ったルシアの額にそっと口付けた。
「ありがとうございます、レオナルド様。
レオナルド様も……とても素敵です……!
その……お揃いの色と意匠は嬉しいですけど、照れちゃいますね。」
レオナルドもまた、ルシアと同じ濃紺の生地に白薔薇の意匠を飾った燕尾服を纏っていた。
「ルシアに余計な虫が近付いては困りますから。」
照れてしまうと頬を染めるルシアの可愛らしさに、心の底から余計な男が寄って来ないかレオナルドは心配だった。
「レオナルド様、私が言うのも変かもしれませんけれど……。」
真剣な表情で心配だと語るレオナルドへと、ルシアは微笑む。
「今宵、私はノワールとしてではなく、レオナルド様の婚約者として隣に居たいと思っています。」
「ルシア……ありがとう。」
ルシアとレオナルドは強く頷き合い、王国の命運がかかった終幕の舞踏会へと向かうのだった。




