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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第六十六話



「寒くはありませんか、ルシア?」


「はい、大丈夫です。

 レオナルド様、我儘を言ってしまって申し訳ありません」


「いえ……。

 (少しだけ、少しだけだ!

 私は紳士なのだから、婚前前の女性に!

 例え婚約者であろうとも!

 絶対にふらちな真似はしない! 絶対に、だ!)」


 様々な葛藤があったものの、少しだけと己に言い聞かせたレオナルドはルシアを自室へと促した。


「……執務室は入ったことがありましたけれど、レオナルド様の自室は初めてです。」


「自室と言っても、寝るだけの部屋みたいなものですから……」


 興味深げに目線を彷徨わせるルシアに、レオナルドは苦笑してしまう。


「その気持ち、私もわかります。

 姉さまは気に入った家具などに合わせて部屋を整えるんです。

 でも、私の部屋はベットと机があるくらいで……。

 姉さまにもっと飾り立てても良いのよ、と心配されたことがあります。

 ただ、部屋を飾り立てると言われてもよく分からなくて。」


 レオナルド様も私と同じですね、とくすくす笑うルシアにレオナルドも笑ってしまう。


「ふふ、ルシアが私と同じで良かった。

 私の部屋を見てルシアに面白味のない男だと思われるのではと心配だったのです。

 ……ああ、そうだ。

 婚姻後の私とルシア、二人で使用する部屋も準備する必要があるのか……?」


「あ……そ、そうですよね。

 こ、婚姻したら……二人で、一緒に過ごす部屋が……あぅ……はい……」


「いや!その、無理強いするつもりは決して有りませんが……出来れば、二人の部屋も有ると嬉しいな、と……」


「嫌では有りません!

 わ、わたしも……、レオナルド様と一緒に過ごせる部屋、ほしいです……」


 それぞれに考えて婚姻後のことを考えて頬を染めるルシアとレオナルド。


「二人で……その、部屋の調度品などを考えて、少しずつ揃えて行くことも楽しいかもしれませんね。」


「ふふ、そうですね。

 急いで揃えるよりも、二人で話しながらゆっくりと揃える方が素敵ですね」


 ルシアとレオナルド、二人で過ごす部屋を想像してクスクスと笑いあう。


「今日の園遊会も色々有りましたが……ルシアは、あのバ、ではなくフィリップ王子の言葉に傷付いていませんか?

 あんな輩の言葉にルシアが傷つく必要も、不安になる必要も、全く無いことを断言しますが。」


「えー……まあ、まったく気にならないと言うと嘘になりますが……。

 でも、それよりも……レオナルド様にフレイヤ様を下賜すると言う言葉の方が……嫌だったと言いますか……

 (はっきりとは言えないけれど……レオナルド様の隣に私以外の女性がいるのは嬉しくないというか……。

 ……なんか……やだ……としか言えない……)」


 歯切れの悪いルシアの言葉にレオナルドは瞳を瞬かせる。

 気まずげにレオナルドから視線をそらすルシアの様子は己の感情が分からずに、途方に暮れているように見えた。


「(それは……)」


 初めての感情に戸惑うルシアを前に、レオナルドの心は喜びが満ちる。


「それは……嫉妬ですか、ルシア?」


 ルシアへと尋ねるレオナルドの声はどこまでも優しく、そして甘かった。

 ルシアがレオナルドをやっと異性として認識してくれたことへの実感、そして喜びが宿っていた。

 

「嫉妬……?私は……」


 戸惑うルシアの手を、レオナルドはそっと取る。


「私の心に、ルシア以外の誰かがいるのを嫌だと感じてくれた。」


 レオナルドはルシアの手を握り、心より嬉しそうに、幸せそうに微笑んだ。


「それは、私をルシア以外の誰かに奪われたくないから。

 私の隣にルシアが居たいと、貴女以外に愛情を向けないで欲しいから、ではないでしょうか?」


「あ……確かに、そうかも……えっ?!

 わ、私……嫉妬していた……?」


 自分がフレイヤに対して嫉妬していたという事実に驚き、何故か慌てふためくルシア。


「私も、ルシアと同じです。」


「え……?」


「ルシアの隣を誰にも譲りたくない。

 貴女の瞳に私以外の異性が映ることも、正直に言えば面白くありません。

 ……殿下との関係も、嫉妬しています。」


「レオナルド様が、嫉妬ですか?」


「やはり気が付いていなかったのですね。

 私は貴女が考えている以上に、嫉妬深い男だと思いますよ。」


「レオナルド様も嫉妬なさるのですね……」


「……あのですね、ルシア……いえ、やめておきましょう。

 貴女相手だと毒気が抜けてしまうというか……。

 ルシアを前にすると本当に調子が狂ってしまう。

 貴女が政敵では無いことが心より喜ばしいですよ。」


 まるでレオナルドは嫉妬も何もしない聖人君子か何かだと思っているのかと、ルシアへ問い掛けたくなる。

 だが、それを深掘りするとレオナルドは碌なことにならない気がした。


 藪をつついて蛇を出す必要はないのである。


 なぜ政敵……?とキョトンとした表情のルシアにレオナルドは苦笑してしまう。

 とことん自分はルシアに弱いのだとレオナルドは改めて自覚してしまった。


 そして、ルシアをジッと見詰めていると、一つの頼みごとが頭をもたげる。


「……ルシア、お願いがあります」


 真っ直ぐにルシアの目を見つめ、レオナルドは真剣な声音で言った。


「貴女の背中の傷を、私に見せてはくれませんか?」


 突然の申し出にルシアは驚き、目を瞬かせるのだった。


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