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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第五十一話




「ルシア……」


 数日前のあの日、馬車ごと攫われたルシアをレオナルドは文字通り命懸けで追いかけた。


 そして、レオナルドはルシアの隣で剣を振るい、共に戦った。

 あの時、確かにレオナルドはルシアの隣に並び立ったと感じたのだ。


 ……それが、今……再びルシアの存在が自らの手から滑り落ちようとしている。


「何か御用があればお呼び下さいませ。」


 自分が居ては話の邪魔になるとアストルが一言残して立ち去る。

 閉まった扉の音が、レオナルドにはやけに遠く聞こえた。


「どうか、ご心配なさらないで、レオナルド様。

 私には、私の役目があります。

 そして、その役目はレオナルド様を、そしてこの国をお守りすることに繋がると考えています。」


  ルシアはレオナルドの真っ直ぐな瞳を見つめ、微笑んだ。

 その笑みには、レオナルドへの深い信頼と、そしてルシア自身のノワールとしての使命感が宿っていた。

 

 ……だが、ルシアのその信頼と使命感が、レオナルドにはまるで燃え盛る炎のように映った。


 ルシアはあまりにも潔く、あまりにも強く、そしてあまりにも……自分の命を軽んじているように見えた。


「……っ……」


 レオナルドはルシアの強い決意に、一度口を開けたが音を発することなく閉じた。

 レオナルドの心は、ルシアを危険に晒すことへの恐怖と、彼女の揺るぎない覚悟への尊敬で揺れ動いていた。

 しかし、尊敬だけではこの胸を焼くような焦燥は収まらない。


「(……私は……また、繰り返すのか……?)」


 レオナルドの脳裏に、あの幼い日の記憶が鮮烈に蘇る。

 監禁された薄暗い場所で、差し込んだ一条の光。

 自分を庇って鮮血に染め上げたあの小さな背中、弱々しく閉じていく瞳。


 ……あの時、レオナルドは誓ったはずだ。


 二度と彼女、ルシアをこんな危険な目に遭わせない、と。

 だが、今……ルシアは自ら進んで、より深い闇の中へ足を踏み入れようとしている。


 焦燥か、怒りか……言いようのない感情が混じり合い、レオナルドの瞳から理性が抜け落ちていく。


「いかせ、ない……」


「え……?」


  レオナルドは、絞り出すような声で呟いた。


 その声は、執務室の空気を震わせるほど、低く、そして切実だった。


「レオナルド様?」


  ルシアは、訝しげに眉をひそめた。

 レオナルドは俯かせていた顔を上げ、その苛烈な光を宿した瞳にルシアを捕らえる。


 その瞳は、まるで獲物を追い詰める獣のように、静かで激しかった。


 レオナルドはルシアの戸惑いに構うことなくルシアの両腕を掴んだ。

 ルシアを掴んだレオナルドの手は、決して乱暴ではない力ではある。

 しかし、絶対にルシアを離さないという気持ちが表れていた。


「ルシア、私は貴女の願いを、想いを応援し、叶えることが出来るように手助けをしたいと思っている。」


 真っ直ぐにルシアを見詰めたレオナルドがゆっくりと口を開く。


「だが、同時に、いや……それ以上に思うんだ。

 貴女を危険な目に遭わせたくはない。

 貴女に傷付いて欲しくない。」


「それ、は……」


 戸惑うルシアを自嘲するように表情を歪ませたレオナルドは言葉を続けていく。


「ルシア、私のこの想いを押し通すならば、貴女の想いを否定し、無視することとなるだろう。

 しかし……貴女の想いを無視することになろうとも、貴女を安全な場所に閉じ込めることが出来るのならば……。

 例え……この腕で貴女を鎖に繋ぎ、閉じ込め、何処にも行くなと懇願することになろうとも……」


 ルシアを掴むレオナルドの手に力がこもり、ギラついた瞳の光は増していく。


「……私は……そうするだろう……。

 貴女を失うくらいならば……その方がマシだ。」


 レオナルドの言葉は、普段の理知的な彼からは想像もできないほど、荒々しく、そして剥き出しの執着に満ちていた。

 彼の瞳はルシアだけを映し、まるで彼女の存在をすべて吸い尽くすかのような熱を帯びている。


「……っ……」


 ルシアは、レオナルドの変わりように、息を呑んだ。


 レオナルドの瞳の奥に宿る、狂おしいほどの独占欲と、底なしの愛情を感じ取り、全身が粟立つ。

 それは恐怖とは違う、抗いがたい引力のようなものだった。


「レオナルド、様……?」


  ルシアの声は、震えていた。

 普段の冷静な彼女からは想像できないほど、動揺している。


 レオナルドは、ルシアの震える声にも構わず、さらに顔を近づけた。

 彼の吐息が、ルシアの頬にかかる。


「私には……貴女が自分の命よりも、その『役目』とやらを優先しているようにしか見えない。

 貴女が、自ら危険に飛び込もうとしている。

 そんな貴女を、どうして黙って見送れようか。

 そうは思いませんか、ルシア……?」


 レオナルドの声は懇願するように、あるいは命令するように響く。

 ルシアの腕を掴む手に、さらに力が込められる。


 まるで、ルシアがすぐにでも目の前から消えてしまうと恐れているかのようだった。


「私は貴女の覚悟を、理解しているつもりだ。

 貴女が、どれほどこの国と王家を想っているかも。

 だが……その覚悟が貴女自身を危険に晒すのであれば、私はこの身を犠牲にしてでも、貴女の行く手を阻む」


「レオナルド様……わたし、は……」


 レオナルドの言葉は、ルシアの胸に深く突き刺さった。

 彼が自分をこれほどまでに深く想い、慮ってくれている。

 その純粋で狂気にも近い愛情に、ルシアの心は大きく揺さぶられた。


「私は貴女に私の隣にいて欲しい。

 この世のどんな危険からも隔離し、護りたい。

 貴女が、私が選んだ唯一の存在だからだ。

 だから……頼む、ルシア。

 今回の件は、私に任せてはくれないか……?」


 レオナルド声には、これまで一度も聞いたことのないほどの切実な響きがあった。

 レオナルドの普段の「ヘタレ」な姿からは想像もできない、剥き出しの激しい執着と愛情。

 それは、ルシアの心を激しく揺さぶり、彼女の心に新たな感情の波紋を広げていた。


「…………」


 ルシアは、レオナルドの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 レオナルドの言葉の全てが、彼女の心を震わせている。

 ……しかし、同時にルシアの中には、ノワールとしての使命と、この国を護るという揺るぎない覚悟があるのだった……。




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