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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第四十七話



 馬を駆りながら、ルシアとレオナルドの共闘が始まった。


「(くそっ、この女、ただの伯爵令嬢じゃねえ!)」


 影の男の一人はルシアの流れるような動きを見て、彼女がただ者ではないと確信した。


「はあっ!」


 レオナルドへ手綱を預けると、敵の馬へと近付いたその瞬間。


 ルシアはドレスの裾をはためかせながら、敵の馬へと飛び移る。

 躊躇なく敵を蹴り落とし、その馬を奪った。


「なんなんだっあの女はっ?!」


 敵の男達はあくまでも公爵の婚約者、騎士の血筋の伯爵令嬢としか教えられていない。

 リンダス帝国の手練れ達も、まさか公爵の婚約者がノワールの一人だとは夢にも思わなかった。


 それゆえに、ルシアの戦闘術は彼らがこれまでに遭遇したどの騎士や傭兵とも違って見えていたのだ。


 そんな敵の動揺をよそに、ルシアは馬上で身を翻す。

 敵から奪い取っていた剣を逆手に持ち替え、後方から迫る別の敵へと向かった。


 ルシアの剣は舞うようにしなやかで、美しかった。


 敵の攻撃を紙一重でかわしながら、細腕から繰り出される剣は正確に相手の急所を突いていく。


 敵の剣が振り下ろされる直前、ルシアは馬の鞍に体を預け、その勢いを利用して一瞬で剣の間合いに入り込む。


「っ……!」


 敵の腹部に剣の切っ先を当て、一瞬の均衡の後、ルシアは男を馬から突き落とした。


 一方、レオナルドは、ルシアの背後を護るように、次々と襲い来る影たちを力強く斬り伏せていた。

 レオナルドの剣は相手の剣を正面から受け止め、その剛腕で弾き飛ばしていく。


 キン、キン、カキンッ!と金属音が夜の闇に響き渡る。

 レオナルドは、まるで壁のようにルシアの前に立ちふさがり、敵を寄せ付けなかった。


「ルシア、油断するな!」

「はい、レオナルド様も!」


 二人の視線と声が重なり合う。


 レオナルドの力強い剣と、ルシアのしなやかな剣。

 彼らの動きは、互いの存在を完璧に補い合い、夜闇に咲く二輪の薔薇のように、美しく、そして力強く舞った。



 ……しかし、敵の数はまだ多い。


 その時、夜空に一筋の風が吹き抜けた。

 風に乗って、甘やかな香りがルシアの鼻腔をくすぐる。


「(この香り……ヴィオレッタ姉様!?)」


 ルシアは直感した。

 そして、その風が運んできたのは、香りだけではなかった。

 どこからともなく、細い、しかし鋭利な針が数本、襲撃者たちの首筋に吸い込まれるように突き刺さった。


「ぐっ……!?」「な、なんだこれは……!?」


 針を打たれた男たちは、一瞬にして動きが鈍り、力が抜けたようにへたり込む。


「クソッ……!」


 残りの敵たちは戦況が不利とみて踵を返そうとするが……


「逃がすわけないだろう、雑魚」


「ヒギィッッ?!」


 闇から溶け出るように現れた青年が振り下ろした鈍器が、敵の手足を叩き折る。

 

「さっさと処置して運びなよ。

 姉さまを危険にさらしたんだから簡単に死なせて溜まるか。」


 吐き捨てるように呟かれた命令に従うように、次々と闇から隠密たちが飛び出し、倒れた敵たちを闇の中へと引きずり込んでいく。


「なっノワールだとっ?!」


 ノワールの出現に動揺する敵の隙を逃さず、ルシアは残りの襲撃者を無力化する。

 レオナルドもまた、最後の敵を剣の柄で打ち据え、地に伏せさせた。


「ルシア、怪我はありませんか?」


「はい、レオナルド様。

 レオナルド様のお陰で私は怪我一つありません。」


 戦闘が終わると同時にレオナルドがルシアへと向き直り、必死な面持ちで安否を尋ねる。


「ルシア、貴女が無事でよかった……」


 怪我一つ無いというルシアの返答にレオナルドは、胸を撫で下ろす。


「でも、レオナルド様……今後は私などのために危険な真似をなさらないで下さいませ。

 ……レオナルド様は、この国にとって必要な御方。

 私は替えのきく伯爵令嬢でしかありませんから……」


「ルシア、それは私に貴女を見捨てろと言うことですか?」


 瞳を伏せて悲しげな様子で呟いたルシア。

 その言葉はレオナルドの琴線に触れてしまった。


「貴女は何かを勘違いされていませんか?」


「レオナルド様……?」


 困惑した表情のルシアを不機嫌そうな面持ちで見詰めながら、レオナルドは言葉を続ける。


「確かに伯爵令嬢の代わりなど幾らでもいるでしょう。

 しかし、それは私も同じです。

 ブランシュ公爵の代わりも、政務官としての代わりも、用意しようと思えばいくらでもいる。」


「レオナルド様っ!」


 咎めるような声音でルシアがレオナルドの名を呼ぶ。


「ルシア、貴方も、私も、この世界に唯一人の存在だ。

 役割や肩書を替わることは出来ても、私達自身の代わりなど他には居ないと思いませんか?

 少なくとも、私は貴女を失うくらいならば、共に死ぬ道を選ぶでしょう。」


「っ……!」


 死ぬ、と語るにはあまりにも優しいレオナルドの微笑みにルシアは反論の言葉を失ってしまう。


「ルシア……」


「レオナルドさま……」


 二人の視線が交わり、どちらともなくゆっくりと距離が縮まっていく。


「ルシア、私は貴女のことを「ルウ姉さまっ!ご無事ですか?!」


 ルシアへと真剣な眼差しで何かを告げようとしたレオナルドの言葉は再び遮られてしまうのだった。

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