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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第四十六話



 ルシアを乗せた馬車は劇場の賑わいから離れ、王都の裏路地へと猛スピードで突き進んでいく。

 ガタガタと激しく揺れる車内で、ルシアは必死に体勢を保っていた。


「(どこへ連れて行かれるのかしら……?

 ノワールとしての役割を果たすためにも、可能な限り情報を引き出したいけれど……)」


 ルシアはドレスの裾をたくし上げ、いつでも動けるように準備を整える。

 馬車の窓から外を覗くと、闇夜に紛れて複数の影が馬車を追走しているのが見えた。


 ……彼らもまた、ただの追跡者ではないのだろう。


「(……統率された動き。

 オペラへ行くことを事前に察知していた可能性は低い。

 突発的な犯行とすれば、素人に毛が生えた程度ではここまでスムーズに事を運ぶのは困難。

 それに……こんなに派手に動ける相手を長が見逃すとは思えない……。

 ならば……長は私を何かの餌として使用した?)


 自分の持っている情報の中でルシアはどんどん仮説を立てて行く。


「(おそらくは……ん?)」


 その時、後方から激しい馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。

 追い上げるように徐々に大きくなる蹄の音は、明らかに追走していた影とは違う。


「(……うそ……!?)」


 ルシアは、まさかと思いながら窓の外を見た。

 暗闇の中、一筋の光のように、馬を駆るレオナルドの姿が見えた。


「(レオナルド様……!? なぜ、ここに……!)」


 ルシアの瞳に驚きと、そして強い心配の色が宿る。

 レオナルドは王国の重鎮だ。

 こんな危険な場所に、彼が来るべきではない。

 ルシアはレオナルドの無茶に、胸が締め付けられる思いだった。


「ルシア! 無事ですか!」


 レオナルドの声が夜闇に響く。


 その声には焦りと、そしてルシアを心底心配する気持ちが溢れていた。

 ルシアはレオナルドの顔を見て、思わず涙が滲みそうになるのを必死で堪えた。


「レオナルド様!

 私は大丈夫です!

 でも……!なぜ、このような危険な場所に……!」


 ルシアが答えると、レオナルドは安堵の表情を見せた。

 しかし、その表情はすぐに引き締まる。


「このままでは危険です!

 ルシア!私が合図したらすぐに飛び降りてください!」


 レオナルドはそう指示すると、馬車の御者台へと飛び移ろうとした。

 しかし、御者はレオナルドの動きを察し、馬車を急旋回させる。


「レオナルド様っ!」


 バランスを崩しそうになりながらも、レオナルドはなんとか馬車にしがみついた。

 その瞬間、追走していた影たちが、一斉に馬車に襲い掛かってきた。

 彼らはレオナルドを狙って剣を振り下ろす。


 「っ……!」


 レオナルドは片手で馬車にしがみつきながら、もう片方の手で腰の剣を抜き放った。

 キン、と鋼の音が夜闇に響く。

 レオナルドの剣はまるで生きているかのように、襲い来る影たちの攻撃を捌いていく。

 その動きは優雅でありながらも、一切の無駄がない。


「(すごい……レオナルド様……!)」


 ルシアは公爵の淀みない剣捌きと、隙のない動きに内心で驚いていた。

 普段のヘタレな姿からは想像もできない、圧倒的な強さ。

 それは、まさしく王国の白薔薇を冠する公爵に相応しい姿だった。


 しかし、敵の数はあまりにも多い。


 レオナルド一人では、いつか限界が来るだろう。

 ルシアは、ノワールとしての本能が告げるまま、行動を開始した。


「レオナルド様! 私に背後を任せてください!」


 ルシアは馬車の扉を勢いよく開け放つ。

 そのまま馬に乗っている敵の一人に向かって飛び出した。

 走行中の敵目掛けて飛び蹴りを食らわし、馬から引きずり落とす。


「なっ!?」


 敵がルシアの予想外の参戦に驚愕の表情を浮かべる。

 その隙を逃すことなく、ルシアはスカートの中から伸縮性の金属棒を取り出した。


 キンッ、カキンッ!


 二人の敵の剣を受け流し、その体勢が崩れたところを金属棒で正確に打ち倒す。

 その動きは、伯爵令嬢のそれとは思えないほど洗練されていた。


「この女、ただの伯爵令嬢じゃねえぞ……!」


 敵の一人がそう呟き、警戒の眼差しを向けた。

 しかし、彼らはルシアがノワールであることまでは知らない。

 彼らが知っているのは、「伯爵令嬢は騎士の家系である母親の血を引いている」という表面上の情報のみだった。

 ルシアが母親譲りの実力者であるという認識は、彼らの警戒心を強めたが、彼女の真の素性を見抜くには至らない。


「レオナルド様!」


 ルシアは奪った馬に跨り、馬車にしがみつくレオナルドへ向かって叫んだ。


「此方へ飛び乗って下さいっ!」


「わかった!」


 レオナルドは迷うことなくルシアの言葉に応え、馬へと飛び乗ると同時に馬車の連結部分を破壊した。

 馬車が急な角度で向きを変え、追走していた敵を巻き込んでいく。


「(さすが、レオナルド様……!)」


 ルシアは自身の意図を正確に読み取り、瞬時に対応したレオナルドに感嘆する。


 二人の視線が交錯した。


 そこには互いを信頼し、困難に立ち向かう「共闘者」としての確固たる絆が生まれていた。



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