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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第四十一話



 王城内にある一室。


「クラリス、どういうことなのかしら?」


 第一側妃のために与えられている王城の一角。


 アニエス側妃は豪華な調度品に囲まれながら、不機嫌そうにティーカップを傾けていた。


「どうして答えないの?

 お前の耳には木くずでもか詰まっているのかしら?」


 アニエス側妃の目の前には、クラリスが震える表情で立っている。


「もう一度だけ聞いてあげるわ。

 フィリップが陛下よりお叱りを受けたとは、一体どういうことなの、クラリス。

 貴女は、フィリップを王位に就かせるために、私に協力すると言ったでしょう?」


 アニエス側妃の声は冷たく、明確な苛立ちを含んでいた。

 クラリスを射抜くような鋭い視線に、彼女は震える声で答える。


「申し訳ございません、アニエス様。

 しかし、あのブランシュ公爵が、まさかあそこまで介入してくるとは……。」


「ブランシュ公爵など、所詮は王家の犬。

 私の計画を邪魔するなど、許されることではないわ。

 リチャード様が、あの程度のことでフィリップを叱るなど……」


 苛立ちを隠せないアニエス側妃にとって、フィリップ王子の王位継承こそが自身の悲願だった。

 そして、そのためならば、手段を選ばない覚悟でいる。


「(リチャード様が私を……フィリップを愛してくださらないのは、全てあのアナスタシアのせい。

 あの女さえいなければ、私が正妃としてフィリップを王位に就かせることができたのに……!)」


 アニエス側妃の脳裏には亡きアナスタシア王妃の顔が浮かび、彼女への憎悪を燃やし続けている。


「クラリス、もう良いわ。

 これ以上、無駄な行動は控えるように。

 私が直接手を打つことにするわ。」


 アニエス側妃が冷たく言い放つと、クラリスは小さく震え、深々と頭を下げた。


「はい、アニエス様。

 では、私はこれで……」


 クラリスが静かに一歩を踏み出し、部屋を出ようとした、そのときだった。


「待ちなさい、クラリス。」


 背後からかけられた冷たい声に、クラリスはびくりと肩を震わせる。

 ゆっくりと振り返ったその横顔を、アニエス側妃は手にしていた扇で鋭く、そして容赦なく叩きつけた。


「きゃっ……」


 小さな悲鳴をあげ、床に倒れ込んだクラリス。

 クラリスの髪をアニエス側妃は乱暴に掴み上げる。


 無理矢理にアニエス側妃の方へと向けさせられたクラリスの顔は、あまりの衝撃に真っ青だった。

 アニエス側妃は憎しみに歪んだ顔でクラリスを睥睨し、冷たく吐き捨てる。


「役立たずが。」


 アニエス側妃の言葉に、クラリスの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 怒りに任せてアニエス側妃は、クラリスを掴んでいた手をそのまま横へと力任せに振り払った。

 ブチブチと音を立ててクラリスの髪がちぎれ、アニエス側妃の手の中に残る。


「きゃっ……!あうぅ……」


 手の中に残ったクラリスの髪を、アニエス側妃はつまらなそうに床に捨てた。

 再び小さな悲鳴をあげて倒れ伏したクラリスを、アニエス側妃は氷のような冷たい眼差しで見下ろした。


「…………」


 しかし、すぐに興味をなくしたかのように視線を外すと、優雅にソファーに腰掛ける。


「……しつれい、いたしました……」


 クラリスは悲壮な決意を顔に滲ませながら、震える体で立ち上がり部屋を後にした。


「…………」


 アニエス側妃は、静かに考えを巡らせる。


 王の怒りを鎮め、フィリップ王子の立場を回復させる。

 そのためには……まず、あのシュバルツ伯爵令嬢ルシアという存在を正しく測らなければならない。


「(変人と名高いシュバルツ伯爵の娘……。

 その母親は、王国騎士団の上位を簡単に打ちのめす実力の持ち主と聞くわ。

 あの娘も、母親譲りの騎士的な武術に長けていると予測できるわね。

 だけど、それだけではないはず……)」


アニエス側妃の瞳に、邪悪な光が宿る。


「(あのルシアという娘はブランシュ公爵にとって、どれほどの価値があるのかしら?

 ただの婚約者?

 それとも弱みとなる存在なのか……?

 その価値を知るには、一騒動起こすのが一番早いわ。

 あの娘の実力と、ブランシュ公爵の反応。

 どちらも、この目で確かめなければ……)」


 アニエス側妃は、王宮の侍女に命じた。


「シュバルツ伯爵令嬢ルシアを、私のお茶会に招待しなさい。

 …………極秘裏に、ね。」

 

 ルシアを自分の手中に収めることで、フィリップ王子の立場を有利に進めようと画策していたアニエス側妃。

 ルシアがブランシュ公爵と婚約していることは、彼女にとって障害ではなかった。

 むしろ、公爵家とシュバルツ伯爵家、そして王家を繋ぐパイプとして、ルシアを利用できると考えたのだ。


「それと……クラリスの飼い主にも一報を。

 飼い犬の不始末は飼い主が責を負うものでしょう。」


 外見だけを見れば美しい貴婦人の微笑み。


「私のささやかなお願いごとを叶えてもらいましょう。

 そう……お茶会の前に一度、ね……」


「かしこまりました」


 アニエス側妃の内心を知る侍女にはわかる。

 その微笑みに隠された静かで、激しい狂気を……。


 その頃、ブランシュ公爵家ではルシアが兄弟達との再会し、レオナルドへの心の変化を自覚し始めていたのだった。



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