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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第三話


「え?お父様?

 それ、は……決定事項なのですか……?」


 家族一同が揃った朝食での一幕。

 父の発した一言が私にとってはすべての始まりだった。


「「「はあぁぁぁぁっっ?!」」」


 私の手から滑り落ちたフォークがカランっと小さな音は、家族の絶叫に掻き消えてしまった。


 そう!

 どうして《《こう》》なったのかは一時間ほど前に遡る。





※※※※※※※※※※





 日が変わる前には帰宅できた我が家。

 さっさと水浴びをしてホコリを洗い流し、飛び込んだベット。


 眠りが深かったのか、いつも通りの時間に目覚めた私。

 表面上は貴族ではあるものの、自分のことは自分ですることが幼い頃から当たり前だった。


「うん、可もなく不可もなく!

 いつも通りの顔色、体調不良も感じないっと!」


 鏡の前で毎朝恒例の身嗜みと体調チェック。

 少しの油断が大きな失敗に繋がったら目も当てられないもの。


 体調管理は重要項目です!


 朝食と夕食は出来るだけ家族皆で食べるという習慣のため、自室を出て一階へと向かう。

 そうすれば、二階に自室のある兄弟に会うのは当然の帰結でしょう。


「おはようございます、姉様!

 今日は良い天気ですよ。」


 父譲りの癖っ毛を直しつつ自室より出て来たフローリアンが可愛らしい笑顔を私へと向けてくれる。


 うん、寝癖が有ってもやっぱりフウは可愛い。


「おはよう、フウ!

 本当に良い天気ね。

 そうだ!

 あとで一緒に森を走り込み(さんぽ)しない?」


「良いですね!

 天気が良いと気分が乗りますから!」


 天気にも恵まれた日の走り込み(さんぽ)って、頬に感じる風がすごく気持ちいいから大好きっ!


「おいおい……お前らのは散歩じゃなくて走り込み、つまり訓練じゃん。

 自分から進んで訓練とか、マジ怠いわー……」


「おはようございます、ギル兄様。

 森を軽く走る程度ですから訓練と言う程のものではありませんよ?」


 背後より聞こえた気怠げな声。

 振り返れば予想通りの人物がいた。


「まー走るのは嫌いじゃねえけど……オレはどっちかと言うと頭脳派なの。

 頭を使うお仕事の方が繊細なオレには向いてんのさ。」


 フウよりも癖っ毛な頭を掻きながら、気怠げな様子で欠伸をする兄。

 怠惰な所が多少有るけれど、その頭脳はピカイチな我が家の跡継ぎ、名前をギルバート。


「眠そうですね、兄さん。

 宜しければ兄さんもご一緒に……あ、すみません。

 そう言えば兄さんは体の節々が痛いと仰っていましたね。

 (寄る年波には勝てないとぼやいていた軟弱者が、僕の可愛い姉様との散歩にケチつけるないでくれる?

 姉様が散歩って言ったら散歩なんだよ。

 怠いならさっさとベッドに戻れよ、万年鳥の巣頭。)」


「……おー……可愛い妹のお誘いならば兎も角、なぁ?

 女装が似合う可愛い(ヤロー)の頼みで老骨に鞭打つ気にはなれんな。

 まっ!ルシアに誘われてもお兄ちゃんはお仕事が有るからまた今度なー。

 (その軟弱者相手に引き分けに持っていくことが精一杯の青二才(ぼーや)がよく吠えるねえ。

 大好きな姉様(ルシア)に、その真っ黒な性格を見せてやりてえなあ?)」


 ニコニコと笑顔で談笑しているようにも見える……見えるよね?

 言葉を交わしている(ギルバート)(フローリアン)の間に見えない火花が散っているような……?

 しかも、矢羽根が飛び交っているし……。


「えーっと……兄様、フウ、その矢羽根は二人専用ですよね?

 家族用の方を使用してくれると私にも分るんだけど……」


「ルシアには矢羽根じゃなくて普通に話すから問題ねえ」


「姉様には任務以外で矢羽根なんて使いたくないです!」


 素敵な笑顔で返す二人へ「えー……」と抗議の声を出しつつも、一応引いておく私。

 

 隠密の任務の中で暗号化された喋り方?呼気音?を矢羽根と言うけど……

 今の兄様とフウの矢羽根って家族用でも、任務用でも無いのよね……。

 言うなれば、兄様とフウ用の矢羽根って感じだから暗号化されたものを解読できない私には内容が分からないのよね。


 二人の交わしている矢羽根の内容は気になるけど……ね?

 また新しい矢羽根を覚えることって面倒だから、既存のものを使用してくれないかな?


「あらあら……うふふ……

 朝から私の可愛い妹を困らせるのはやめてくださる?」


「うわっ?!

 ヴィオ姉様!

 後ろから抱きついたら危ないですよっ」


「あらぁ……驚かせちゃったかしら?

 でも、怒った顔も可愛らしくてよ。」


 音も無く忍び寄り、背後から私を抱き締めた人物。

 蠱惑的な微笑みと緩く波打った長い髪が特徴のナイスバディな美女。


「「……ヴィオレッタ姉さん」」


 苦虫を噛み潰したような兄様とフウ。

 うん、二人は姉様が苦手だもんね。


「うふふ……ルシアを困らせてはいけないわ、お二人さん。

 …………試したいお薬は五万とあるのよ?」


「「すみませんでした!」」


 示し合わせたように頭を下げる兄様とフウに対して「よろしい」と艶やかに美しく微笑む姉様。


 流石は長子だけ有って、姉様が居るだけで纏まる私達。

 そうすれば、最初から合わせていたように揃って私達四人が進み出す。

 姉様を先頭に、両親の待つ食堂へと向かえば……


「おやおや、四人揃って食堂に来るなんて仲良しだねえ」


 食卓に座り、モノクルを磨きながら、目尻を下げる一見すれば穏やかな父。


「ヴィオレッタ、ギルバート、ルシア、フローリアン。

 二階での喧騒が此処まで届いていました。

 家屋内で騒ぐものでは有りません。

 騒ぎたいならば外へ行きなさい。」


 ピシャリと言い放つのは頭から足の先まで、髪の毛の一筋に至るまでキッチリと整えた母。

 元より切れ長の目を更に細める母の顔には、大きな一文字の傷が刻まれている。


「イザベラはね、"とても元気が良くてお母様(ママ)は嬉しいわ。でも、狭い部屋の中で騒いで怪我をしては大変よ。お外で元気いっぱい遊びましょうね"と言ってるよ。」


「違います。

 確かに元気が有ることは良いことだと認めます。

 しかし、背の君、私の言葉を勝手に翻訳しないで下さい。」


「背の君ではなくて、いつものようにロデリックと呼んで貰えると嬉しいよ。」


「………………」


 眉間にシワを寄せる母の冷たい眼差しも何のその。

 穏やかな笑みを浮かべながら「麗しの妹背の君に見つめられると照れてしまうね」等と返す父。

 しかし、その穏やかな雰囲気はすぐに霧散し、飄々とした笑みを浮かべる父。


「さて……食卓につきなさい、家族達よ。

 朝食(ていじほうこく)を始めよう。」


 父の鶴の一声で、私達は一斉に食卓につき、背筋を伸ばす。


「(このガラッと変わるお父様の雰囲気……。

 相変わらずの切り替えの速さに戸惑うこともあるけれど、流石は一族の長。

 何百年以上も受け継がれている隠密家業(ノワール)を背負い、纏め上げる方。

 私ももっと精進しなくては……)」


 穏やかな父親としての顔は既に無く、何処か怜悧な……いや、策士とでも言うのだろうか……?

 この国中に糸を張り巡らせ、国内外問わずにすべての情報を吸い上げ、精査し、策略を巡らせる。

 国王へ奏上する際には事の真相すらも解き明かしている隠密(ノワール)の長。


 ……なんて事を思っている間に定時報告は終わり……


「ああ、そうだった。

 言い忘れるところだったよ、ルシア」


「はい、お父様。」


「ルシア、ちょっと婚約してきて欲しい……ブランシュ公爵と。」


「「「「………は?」」」」


 兄弟全員、異口同音。

 唐突な父親の言葉をすぐには理解できなかった私達。


「え?お父様?

 それ、は……決定事項なのですか……?」


「おやおや……もう一度言うよ、ルシア。

 ちょっと結婚してきて欲しい……ブランシュ公爵と。」


「「「はあぁぁぁぁっっ?!」」」


 そう、此処で冒頭に戻るのである。




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