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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第二十話



「レオナルド様!

 雲一つない青空で気持ちいいですね!

 まさに乗馬日和ですわ!」


 純白の優美な駿馬に跨ったルシアは、弾んだ声でレオナルドへと話しかけた。

 ブランシュ公爵家の広大な敷地を前に、彼女の目は輝いていた。


 普段の屋敷での淑女としての生活とはかけ離れた、自然の中での活動にルシアの心は踊っていたのだ。


「こんなに喜んでもらえて、貴女を誘ったかいが有りました。」


 レオナルドはルシアの笑顔を見て、心から嬉しく思った。


「(あんなにも生き生きとしたルシアの笑顔は初めてだ。

 アストルの助言に従って正解だった!)」


 ルシアの心からの笑顔を見るたびに、レオナルドの心臓は高鳴っていた。


「ルシア、こんなにも美しい青空の下で貴女と過ごせる私は幸せ者です。

 貴女の笑顔は、この青空よりも眩しい。」


「はい!

 私もこんなに美しい青空の下で乗馬が出来て幸せです!

(相変わらず公爵は大袈裟ね。

きっと、あの過大な褒め言葉は公爵の癖だわ。)」


 レオナルドは素直に喜びを言葉にしたが、ルシアは彼の言葉を「お世辞」だと解釈していた。

 

 雲一つない青空が広がるブランシュ公爵家の広い敷地内の一角。

 晴天にも恵まれた二人は、心ゆくまで乗馬を楽しむことになった。


「それにしても……ブランシュ公爵家って広いのね……!

 こんなにも走り回っても、庭の一部に過ぎないって……本当にビックリだわ。」


 ルシアは、ブランシュ公爵邸の広さに驚いていた。

 まさか乗馬できる場所まであるなんて!と。


「(公爵が乗馬に誘ってくれた時には驚いたけれど……ふふ!

 久しぶりにたくさん馬に乗れたし、すごく楽しい……!)」


  そう、事の始まりは数日前の夕食の席だった。


 アストルの助言を受け、レオナルドは慎重にルシアに話を持ちかけた。

 ルシアにも一目で分かるほどに、落ち着かない様子だったレオナルドからの誘い。


「その、ルシア。

 もしも、良ければなのですが……私と一緒に乗馬など、如何でしょうか…?」


「乗馬、ですか?

  公爵様が乗馬をされるとは、意外でした。」


 ルシアはレオナルドの誘いに純粋に驚いた。


 レオナルドは王城にいるか、屋敷内の執務室にいるイメージがあったからだ。

 ルシアの脳裏には、書類の山に囲まれたレオナルドの姿が浮かんでいた。


「はい、如何でしょう?

  私も昔はよく乗馬を楽しんでいたのですが、最近は忙しくてなかなか機会がなくて。

 そんな時に、ルシアが乗馬が好きだと聞いたのです。」


 レオナルドは、あくまでも「ルシアの趣味に合わせた」という体で話を進めた。

 もっとも……実際にはアストルからルシアが乗馬を好むと聞き、急遽計画を立てたのだ。


「アストルより屋敷に飾っている白馬の絵が気に入っている様子だと聞きました。

 屋敷内で乗馬ができますし、本物の馬が怖いならば遠目に眺めることも出来ます。

 それに、外で食事をすることも気分転換になるかと。」


 レオナルドは、ルシアが無理をする必要がないことを強調した。

 何故ならば、レオナルドの心はルシアに嫌われたくないという一心でいっぱいだったからだ。


「敷地内で乗馬ができるのですね……!

 素晴らしいですわ!

 私、乗馬は大好きなんです!」


 ルシアは、興奮して身を乗り出した。

 レオナルドの言葉に偽りがないと信じ込み、純粋に喜んでいた。

 ルシアの瞳は余程嬉しいのか、まるで子供のようにキラキラと輝いていた。


「良かった。

 久しぶりに休みが一日取れましたので、ルシアが嫌でなければ一緒に過ごしたいと思っています。

 あ、私との乗馬が嫌でしたら何か別のことでも……無理強いするつもりは一切ありませんから。」


「乗馬が良いです!

 ぜひ乗馬でお願いします!

 私、乗馬は得意なんです! 」


 レオナルドが別の選択肢を提示しようとした瞬間、ルシアの声がそれを遮った。


「あっ、すみません……はしたない真似を……」


  ルシアは慌てて謝ったが、レオナルドは嬉しそうに微笑んだ。


「いえ、気にしないでください。

 貴女が喜んでくれるならば、気合を入れて準備をしておくように伝えておきますね。

 ルシアの腕前、楽しみにしていますよ。」


 ルシアが自分の誘いを心から喜んでくれたことが、レオナルドには何より嬉しかった。


 そして、彼女の「乗馬は得意」という言葉に、レオナルドの顔に満面の笑みが浮かんだ。




 ……そう、そんな流れがあっての今なのだ。


 ブランシュ公爵家の敷地内に設けられていた乗馬コースを散策したルシアとレオナルド。


 レオナルドは、ルシアの乗馬技術に目を見張った。


 ルシアは馬を巧みに操り、風を切って疾走する。

 その姿は、まるで自由な風の精霊のようだった。


 ルシアが乗馬を楽しんでいる間、公爵はわざとゆっくりと馬を進め、ルシアが思う存分駆ける姿を堪能していた。


 ルシアが楽しそうに笑うたび、公爵の心は温かい光で満たされた。



 そして、満足が行くまで走り回ったルシアとレオナルド。


「ルシア、そろそろ昼食にしましょう。」

  

 ルシアとレオナルドは、昼食を青空の下で食べる予定だ。

 ピクニック形式で、公爵家の料理人が腕によりをかけた豪華な食事が用意されていた。


「レオナルド様っ!

 外で食べるための食事とは思えぬ程にキラキラな感じ……でも、美味しそうです……!」


 銀食器が太陽の光を受けてキラキラと輝き、色とりどりの料理が食欲をそそる。


「 あ、このサンドイッチ、具材がすごく豪華ですね!

  こっちはパイでしょうか?

  ああ、デザートもこんなにたくさん!」


「(わ、笑っては駄目なのだろうが……目を輝かせるルシアが可愛すぎて口元が緩んでしまう……!)」


 普段の真面目な雰囲気とは違い、まるで子供のように全身で喜びを表すルシアに口元が緩むレオナルド。

 慌てて赤くなりかけた頬と緩んだ口元をレオナルドは手で隠す。


「うわあっ!

 レオナルド様!

 この林檎はウサギさんですよ!

 とても可愛らしいですね。」


 ウサギの形に切った林檎を見つけ、ルシアは感嘆の声を漏らした。


「可愛すぎて食べるのがもったいないです……!」


「(……可愛らしいのは貴女でしょう……!)」


 目を輝かせてウサギさん林檎を見つめるルシア。


 レオナルドはそんなルシアの反応を微笑ましいとばかりに笑顔で見つめる。


「す、すみません……はしゃぎすぎてしまいました……」


「いえ、気にしないで下さい。

 ルシアの素直な褒め言葉の数々を聞けば、料理人達も喜ぶでしょう。」


 レオナルドの視線に気が付いたルシアは湯気が出るほどに顔を赤く染めた。


 それからは、何気ない会話を交わしながら食事を進めていく。

 レオナルドは、ルシアの普段見せない無邪気な一面に触れ、彼女への愛情を深めていた。

 

「以前より気になっていたのですが、ルシアは運動がお好きですか?

 今回の乗馬もですが、武術も習得されているようですから、体を動かすことがお好みですか?」


 デザートを楽しむルシアへとレオナルドは何気なく問いかける。


「…………(えー……っと、どうしましょう……?)」


 ルシアはゴクンと美味しいケーキを飲み込んだ。


 チラリとレオナルドを伺えば、その瞳に宿るのは純粋な興味の光だった。


「(何かを探っている……訳ではなさそう。

 もしかして……ノワールの一員だということを自己申告させたい……?)」


 ルシアはレオナルドの真意が分からず、何と答えることが正解かを悩む。


 だが、悩むルシアの心とは裏腹に、レオナルドはルシアのことをもっと知りたいと考えているだけだった。



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