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その令嬢、隠密なり〜白薔薇の公爵は黒薔薇の令嬢へ求愛する〜  作者: ぶるどっく


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第十六話



 煌めく豪勢なシャンデリアに照らされるダンスホール。


 華々しく着飾った淑女達のドレスの裾が、美しい音色に合わせて広がる。


 その光景は色とりどりの花が咲き誇るかのようだった。


 そんなダンスホールの中央にレオナルドとルシアはいた。


 ヴァイオリンやピアノが織りなす調べに合わせて、二人は軽やかなダンスを披露していた。


「……ルシア、私は貴女に誠心誠意謝りたい。」


 レオナルドが深刻な……いや、死にそうな顔で謝った。


「先程は不愉快な思いをさせて申し訳有りませんでした。

 貴女に不快な思いをさせたことを心の底から謝ります。

 あの一件は私の不徳の致すところです。」


 レオナルドは、ルシアを真っ直ぐに見つめて懺悔するように言った。

 その声は、心なしか震えているようにも聞こえた。  


「その……レオナルド様のお噂は色々と聞き及んでいました。

 何と言いますか……何時かはあのような事もあるかもしれないと思って覚悟していましたし……。

 むしろ、今回は私がレオナルド様のお役に立てたのならば幸いですわ。」


  ルシアは、今回の一件はあくまで「隠れ蓑」としての役割を全うしたという認識だった。


 何故ならば、もともとレオナルドの過去の噂は耳にしていたのだ。

 このような修羅場に遭遇することも想定の範囲内だった。


「そ、そうですか……」


  レオナルドにとって、クリスティーヌを含めて他の女性など社交辞令での付き合いでしか無かった。

 ずっと心を揺らされたたった一人の女性を探していたレオナルド。

 そのため、社交辞令の相手でしか無い者達に欠片の興味も無かった。


 自慢の美貌や肉体を前にしても、レオナルドの瞳は道端の石ころを見る温度と変わりなかった。


 そのため、プライドを傷付けられた女性達が尾びれ背びれをふんだんに着けて流した噂の数々。

 その事実無根の噂が女好きのブランシュ公爵の始まりだった。

 興味の無い女達が流した噂など気にもとめ無かったレオナルド。

 しかし、今回のことで噂を放置していたことを心底後悔していた。


 そう……噂を甘く見て放置していた自分の過去の行いが、ルシアに恋多き男という誤解を与えているのだから。


「私の方が謝らねばと思っていました。

 レオナルド様の意向を確認せずに、私が前に出てしまって申し訳有りませんでした。」


 ルシアは公爵の立場を考慮し、自分の出過ぎた真似を謝罪した。


「そんな事は有りません!

 ルシアがまさか対峙して下さるとは思わず……その、不謹慎かもしれませんが……嬉しかったです。

 ……貴女が私のために怒ってくれたことが、何よりも……」


 心底嬉しいと微笑むレオナルドの笑顔に、ルシアはドキリとする。


 レオナルドの頬はほんのりと赤みを帯び、その瞳は喜びで輝いていた。

 レオナルドの普段は凛々しい雰囲気が鳴りを潜め、可愛らしさを全面に押し出したそのギャップにルシアはクラリとした。


「(顔がいい人って得だ!

 やっぱり公爵の顔面力は心臓に悪い!

 はぁ……公爵が顔面をフルに使えば、隠密の仕事って無くなるかも知んない…… )」


 ルシアはレオナルドの放ったギャップに内心でそう思った。


「私の存在がレオナルド様のお役に立てて嬉しいです。」


 彼女はまだ、レオナルドの言葉の裏にある真意に気づいていなかった。

 それどころか、レオナルドが喜んでいるのはルシアが良い仕事をしたという点だと思っていた。


「……どうされました?

 少しステップが乱れたようでしたが……?

 顔が少しだけ赤いようですし……もしや熱が有るのでは……?」


 レオナルドは心配そうにルシアの額に触れようとする。


 その手がルシアの額に触れる前に、ルシアは慌ててそれを制した。

 レオナルドの手が触れる前に、サッと顔を逸らす。


「いえっ、その……久しぶりに大きな夜会に参加したので、ちょっとだけ疲れたのかもしれません。

 慣れないドレスとコルセットも着ておりますので……」


  赤くなった頬をごまかすように、ルシアは微笑み返す。

 コルセットの締め付けによる疲労は事実だったが、公爵の真剣な眼差しに動揺したことも、また事実だった。


「貴女に不愉快な思いをさせた私のせいですね……こんなにつらそうな顔をさせてしまって。

 ちょうど曲も終わりますから、いったん休みましょう。

 そして、出来るだけ早く帰れる手筈を整えます!

  貴女の体調が最優先です。」


 レオナルドは真剣な表情で断言した。


 その表情には、ルシアを心から気遣う気持ちが溢れていた。

 

「そ、そんなに大袈裟です!

 少し休めば大丈夫ですから……。

 それに、王家主催の宴を途中退席することは公爵家のためになりませんもの。

 皆様、私と公爵閣下の婚約を公に発表したばかりですし、注目されているはずです。」


「……しかし……いえ、公爵家云々は構いませんが、貴女の立場もある。

 婚約後の初めての社交の場です。

 今後のことも鑑みれば……最後まで参加する事が無難では有ります……」


  ルシアの言葉に渋々と言った様子で頷く公爵だったが、急にダンスの足を止める。

 二人のダンスを優雅に終えようとしていたはずなのに、突然の停止にルシアは戸惑った。


「え、え?

 まだ曲が流れて……レオナルド様?」


  ルシアは戸惑った。

 周囲の視線が、再び二人に集まってくる。

 貴族たちの間には、小さなざわめきが広がっていた。


「無作法は承知の上です。

 この程度の事で傷付き、倒れる公爵家では有りませんよ。

 王家とて、私の私的な事情を咎めることはないでしょう。」


 ザワリと揺れる雰囲気と、数々の視線を感じる。


 レオナルドは、ルシアの手を強く握り、その瞳を真っ直ぐに見つめた。

 彼の表情は、先ほどの情けないヘタレ犬の顔から一転、獲物を狙う獅子のように真剣だった。


「そんなものよりも、貴女のことを最優先に大切にしたいという私の我儘です。

 申し訳有りませんが、私の我儘に付き合って頂けませんか?

 貴女の疲れた顔を見るのは、私には耐えられない。」


 レオナルドは、真剣な眼差しでルシアを見つめる。

 その瞳にはルシアへの深い愛情と、彼女を労る気持ちが溢れていた。


 ルシアはレオナルドの言葉と表情に、今度こそ戸惑いを隠せなかった。

 レオナルドの言う「我儘」の意味がわからなかった。


「(……どうして……?

 どうして……隠密だと、隠れ蓑の立場の女を……。

 これでは、まるで……まるで、愛する女性へ接しているかの、ような……?)」


 それは……ルシアの心を深く揺さぶるものだった。


「……えっと……ありがとうございます、レオナルド様。

 レオナルド様がそこまで仰ってくださるのなら……」


  悪戯が成功したように嬉しそうに微笑むレオナルドに、内心の動揺を隠してルシアも微笑み返す。


 その仲睦まじい様子に、周囲の貴族たちは再びざわりと揺れる。


 数々の女たちに囲まれ、受け身に返していたレオナルドが、初めて女性のために自分から動いた。


 婚約者と上手く行っていないという噂は嘘だったのだ。

 レオナルドがルシアに心底惚れ込んでいるという事実が、貴族たちの間で瞬く間に広まっていった。



 ざわりざわりと小さく囁く声を無視して、二人はダンスの輪を離れていく。

 ホールの隅にある休憩スペースへ向かおうとしたその時だった。


「ブランシュ公爵!」


 そんな二人へと声を掛ける者がいた。


 ルシアは嫌な予感をヒシヒシと感じた。

 それまでは微笑んでいたレオナルドの表情が一瞬で掻き消えた。


「ブランシュ公爵!」


「これは、これは……」


 消した感情の上に微笑みの仮面を着けて、レオナルドは新たな厄介事に向き合うのだった。


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