7 ニゲラとのお茶会にフォンが来た
フォンを王太子の座から引きずりおろす。それはイコール、第一王子のニゲラが王太子になるということだ。他に兄弟はいない。
(問題はニゲラ様の人となりですわね)
フォンへの私的な復讐によって国が荒れては元も子もない。本当にニゲラについてもいいのか。それを見極める必要がある。
フォンとはそれなりに一緒に遊んでいたから気心が知れているけれど、ニゲラはこちらから一方的に見かけてきただけだ。ミドルネームを知っているのも王族は公開されているからに過ぎない。
秘密裏に話すための都合伺いをすると、ことの他すぐに返事があった。
(人となりを見て、大丈夫そうなら王太子になりたいかを暗に確認して、力になりたいとお伝えして……、味方だと思ってもらえたら姉様のことも聞けるかしら)
ニゲラは去年、フォンと一緒に生徒会の見習いに入っていたはずだ。
そんなことを考えながらメイドのミズキに手配を依頼する。
高等貴族学舎の寮は、共有スペースを挟んで男女のエリアに分かれている。お互いに異性のエリアには入れない。魔道具によって管理されていて、違反すると停学もありえるそうだ。
そのため、ニゲラとのお茶会には共用エリアにある共同学習室を借りた。社交も学びに入るため、お茶会の部屋としても使える場所だ。
普通の声量なら外には聞こえないけれど、大声を出せば聞こえる作りになっている。
一般的には付き人が先に入って用意を整えるのだが、ミズキは自分の護衛を兼ねているため、一緒に部屋に入って準備を待つ。手伝いたい気持ちもあるけれど、貴族の子女としては手を出さないのが礼儀だ。
約束の時間ちょうどに、部屋の扉が叩かれた。
ホストの負担がないように、約束より早い時間に訪ねてはいけないのが暗黙のルールで、ちょうどか少し遅れるのが正しいとされている。礼儀通りの来訪だ。
ミズキが扉を開けると、ニゲラが付き人を伴って入ってくる。ニゲラと同じ黒髪の、壮年の男性だ。
「アリサ嬢。この度はお招きにあずかり光栄だ」
「わたくしこそ、お越しいただけて光栄ですわ、ニゲラ様」
笑顔で答えた直後、そのまま表情が固まった。後ろから、招待した覚えがない相手が爽やかな笑みで顔を出す。
「僕も一緒していいかな? ニゲラ兄様の許可はもらったんだけど、アリサ嬢は僕が一緒なのはイヤ?」
「フォン様……」
この場にフォンが紛れるのは果てしなく困るけどイヤとは言えない。誰が聞いているかわからない場所だし、ニゲラからも変に勘ぐられると困る。ヘタに断ったらフォンへの復讐もしにくくなるだろう。
思いつつ、抵抗はしてみる。
「今日は2人分しか用意しておりませんので……」
「拙も一度はそう言ったのだが」
「うん。だろうと思って、1人分は持ってきたから問題ないね」
(問題ありますわ!!!!!)
思いっきり言いたいのをぐっと飲む。
「お気遣いありがとうございます」
ちゃんと公爵令嬢らしく笑えているだろうか。
フォンの付き人である白髪のシャキッとした老人が台を押して入り、手際よくセッティングする。学舎では入手が難しい生菓子が並んだ。
(おいしそう……って、違いますわ! あれはフォン様ご自身の分ですわよね?)
「もしよければ、僕が用意した分はアリサ嬢へ。急に来たことへのお詫びにはなるかな?」
「そ、そうですわね。そうおっしゃられるならお言葉に甘えますわ」
じゅるり。全部おいしそうだ。
(食べものに罪はありませんものね)
ついわくわくしてしまいながら、フォンとニゲラが席につくのを待ってから座る。
「では、改めまして。フォン様、ニゲラ様、本日はありがとうございます」
こうなってしまったからには仕方ない。フォンがいる場で王太子関係の話をするわけにはいかないし、姉様のことも聞けない。
仕方ないのだ。仕方ないから、おいしいお菓子をおいしくいただくしかない。
(ニゲラ様の人となりだけでも観察できればいいかしら)
生徒会メンバーで集まる時には、あまり前面には出てこない感じだ。お茶会で素が見られるといい。
思いつつ、視線はおいしそうなケーキに吸い寄せられてしまう。