8 フォンを狙い続けた黒幕
国王がフォンを本当の息子だと思っていない可能性を指摘した。
国王がアウラ王妃とフォンを見て、フンと鼻を鳴らす。
「夫婦間のことを子どもに話すものでもなかろうが。アウラとの間に子を成すよう言われたものの、ほとんどできなかったのは誰よりもアウラが知っておろう」
アウラ王妃がわなわなと震えて声を上げる。
「いいえ、国王陛下。グラジオ様。私はあなた様以外と通じたことはございませんわ!」
「知れたことを。足しげくトゥーンベリの別邸に通っていたことを我が知らぬと思うたか」
(ん?)
まさかここで自分の家の名前が出るとは思わなかった。けれど、それなら逆に、なんの不思議もない。母と王妃は親友だ。
「トゥーンベリと我はともに祖父に似た故、子の外見ではわからぬとでも?」
「世迷いごとを! 日々親友に支えてもらわねば耐えられなかっただけですわ! あなた様はいつも一度眠った後に、深夜に起きてきてはあの女の名を呼びながら私を求められたのですから!」
(うわあ……)
そのあたりに行き違いがありそうだと思ってはいたけれど、さすがにドン引きだ。
アウラ王妃が、目を白黒させている国王に言いつのる。
「早く子を成せるようにと、あなたが用意させていた香……、夢うつつの時に効果を発するそれに、思う相手を見せる幻覚作用があることはご存知ありませんでしたの?
それを知った私がどれだけ泣き明かしていたのか……、あなたはまるで興味がなく、まったく気づきもしなかったのでしょうね」
「その点は、相談相手だったわたくしのお母様に裏を取っていただければよろしいかと存じますわ」
「うむ……?」
フォンが一歩前に出る。いい笑顔だ。
「時代の進歩っておもしろいよね? 父上。最近、こんな魔道具が開発されたのを知ってる? 血を一滴ずつ垂らすことで、血縁関係があるかわかるんだって。僕だけだと信用できないなら、ここにいる全員と試してみる?」
フォンの付き人が、準備した魔道具を台車で運びこんでくる。平たい箱のような形の魔道具が4つ乗っている。
フォンがそのうちのひとつのフタを開ける。小さな針が2本飛び出していて、上から見るとその間に丸いくぼみがある。
フォンと王妃がそれぞれ針に指を刺す。血が一滴したたって、くぼみに向かって線を描き、中央が青く変わった。
「青が親子、緑が兄弟、赤はそれ以外なんだって」
打ち合わせてあった通り、自分とフォン、ニゲラとフォンも同じように指を刺す。
自分とフォンは赤。当然、直近の血縁関係はない。
ニゲラとフォンは緑。間違いなく兄弟だ。
ここまでは、事前に試した結果と同じだ。これだけで、もうフォンの出自を疑う余地はなくなっている。
「こんな感じなんだけど、父上も試してみる?」
フォンが光をまとったようにキラキラしている。
国王は石化したように固まっていて、反応がない。
「グラジオ様?」
王妃から責めるように名を呼ばれ、国王がビクッとした。一気に威厳が消えた気がする。
全員の目がある中で、しぶしぶといったていで国王も針に指を刺す。もちろん、結果は青。親子以外の何ものでもない。
「以上が、わたくしが解きたかった国王陛下の思い込み、2つの大きな誤解でございます」
再び最上級の礼をとる。これで自分の役割は終わった。内心でホッと息をついた。
ニゲラが前に進み出る。
「父上。拙は父上に確かめねばならぬ」
「うむ?」
すっかりしおれた国王が生返事をした。ニゲラが構わずに続ける。
「フォンを、我が弟を、母の仇の子と誤認し、あるいは父上の子ではないと誤認していた父上が、フォンの暗殺を企て続けていたということで間違いなかろうか」
それが、自分たちが至った結論だ。
もっとも、今回誘拐されたフォン自身が、あの離れの屋敷で国王の声を聞いていた。
「そもそも存在してはならなかったこのマガイモノは、アウラが別邸から戻り次第アウラの前で処分する。それまでは無理にでも生かしておけ」と。
そこから遡って推理を補完しているから、それほど外れてはいないだろう。
国王がわかりやすく頭を抱えた。
「……大きく言えばその通りである」
息を飲んだ。予想通りだったとはいえ、実際に肯定されるのは苦しい。
フォンの手をとって、恋人つなぎで指を絡ませ、しっかりと握る。フォンからも力がこもった。
「父上。僕を監禁していたの、ニゲラ兄様の母上がしばらく軟禁されていた建物だよね? それも関係あるの?」
あの場所は、一時的に異国の姫君と国王の接触を断つために用意された檻だったそうだ。
「……どこから話すべきか……。……どこまで話すべきか」
国王が逡巡する。外見はフォンの方が似ているが、空気感はニゲラの方が似ているだろうか。
固唾を飲んで、続く言葉を待つ。




