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追放令嬢の妹には復讐の才能がない! そして復讐相手は愛が重い  作者: 亞月こも
第3章 告白と決意、重なる思いとすれ違う関係
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6 フォンとの学舎祭で、ある真実を知る


「あっはっは!」

「笑いごとではありませんわ……」

 ウルヴィからフォンに引き渡されてすぐ、ウルヴィから食べさせられすぎてもう入らない話をしたら、フォンがおかしそうに笑った。


「だって、アリサの第2、第3の胃袋まで埋めつくすなんて、なかなか常人にはできないから」

「わたくしの胃袋は元々ひとつですわよ?! 牛ではないのですから」

「うんうん、そういうことにしておこうかな」

「しておくもなにも、わたくしをなんだと思っていらっしゃるのですか……」


 軽口を叩きながらも、心臓はうるさい。

 立ったまま話している距離が、お茶会や生徒会の時よりもずっと近い。


「じゃあ、神学科の出しものじゃなくて、校内散歩とかの方がいいかな?」

「はい。そうさせていただけるとありがたいですわ」

 学舎祭が開催されているエリアから外れるようにして歩きだす。

「僕も、人が作ったものを一緒に食べるより、僕が作ったものをアリサに食べさせたいからね。学舎祭が終わったらまたお茶会をしようか」

「ありがとうございます……?」


(ん?)

 引っかかったのは、その時にはもうニゲラとの関係が変わってフォンとのお茶会はできないかもしれないと思ったから、ではない。それ以前のところだ。


「待ってくださいませ。フォン様が作ったもの、ですの……?」

「あれ、言ってなかったかな。アリサとのお茶会のお菓子は僕が作ってるんだよね」

「え」

(ええええええっっっ!!!!!)

 叫びそうになったのを内心にとどめた自分を褒めたい。


「フォン様が? お作りになっていらっしゃるのですか? あのおいしいケーキも、ムースも、クッキーも、マシュマロも?????」

「うん。きみの反応を見て、毎回少しずつ改良していくの。実験みたいで楽しいから、僕の趣味かな」

「驚きましたわ……」

 生徒会長もやって首席の成績で、武芸でもトップクラスで、あれだけの研究をして、いったいどこにそんな時間があるのだろうか。


「ご負担ではありませんの?」

「なんで? アリサの体が僕の作ったもので構成されてるなんて、めちゃくちゃ嬉しいんだけど?」

「はい?」

 なんか想定の斜め上の理由が返ってきた気がする。


「人の体って、食べたものを取り込んで作り替えられていくじゃない? 皮膚は1ヶ月、血液は4ヶ月でぜんぶ入れ替わるんだって。

 だから、今もアリサの中に僕があるってこと。ふふ。学舎に来て本当によかったと思ってるよ」

 フォンはいい笑顔で何を言っているのだろうか。そう思うのに、胸の奥が熱い。


(わたくしの中にフォン様が……)

 ただ言葉で概念を与えられただけなのに、体が彼に染まって作り替えられていく感じがする。

 返す言葉が見つからない。





▼  [フォン] ▼



(んんんんん?????)

 エマが赤くなって黙りこんでしまった。


(待って、何このカワイイ反応……)


 祭りの空気に当てられて、つい普段から思っていることを漏らしてしまった。何を言っているのだと笑い飛ばされると思っていた。

 全面的に受け入れられた感じがして、どうしようもなく手に入れたくなるのをぐっとこらえる。


 彼女の姉(ウィステリア)を自分の元から逃した時に決めたのだ。絶対にエマを巻きこまないと。そのためにはすべてにフタをして、学友以上の関係にはならないと。

 決めているのに、彼女のそばにいると簡単に揺らぐ。


 愛しくて目を離せないでいると、チラリと視線が向いた。目が合うと、はにかんだように前に戻される。

 カワイイしかない。どうしろというのか。

 神隠しというものがあるのなら、彼女と2人で隠されてしまいたい。そうなれば何にもはばからずに……。

 そんな不毛な思いで頭が沸いてしまって、言葉が見つからない。





▼  [ハイド] ▼



(んーーーー?????)

 遠目にもわかるくらい、ただ歩いているだけの2人の空気が甘ったるい。


(アレでお互いに隠しているつもりなのでしょうか)


 手のひとつでもさっさと握ってしまえばいいのに。そう思うのに、どちらからも距離を変えようとする様子がなくてもどかしい。

 愛というものを知りたかった。けれど、遠巻きにヤジウマになるのも楽しいかもしれないと思い始めている。安全圏から眺めているというのはなかなか優越感がある。


「神学科の方には行かないのでしょうか」

 一緒に隠れて追っているウルヴィが首をかしげる。野暮だ。

「2人の時間を他の人に邪魔されたくないんじゃないですかね」

「ウルヴィさんと十分に回ったから、もう一度行く気にならなかったのではありませんの?」

 ガーベラが口を挟む。

 ニゲラとアルピウムはいない。どちらも、こっそりと様子を伺う趣味はないそうだ。


(ボク以外は、2人が両思いだと気づいていないのでしょうかね)

 どう見ても、と思うけれど、人の見え方はそれぞれなのだろう。


「フォン様には困ったものですわよね。アリサ様の恋路を邪魔されてばかりで。幼なじみにしても過保護すぎますわ」

(ん?)

 フォンが過保護なのは幼なじみだからではなく、おそらくただの独占欲だ。けれど、それ以上に気になる言葉があった。


「アリサ嬢の恋路、ですか?」

「はい。アリサ様はニゲラ様をトゥーンベリ公爵領にお迎えしたいとおっしゃっておりましたわ」

(んーーーー?????)

 ガーベラは何を言っているのだろうか。

 どこかで話がややこしくなっている気がする。


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