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追放令嬢の妹には復讐の才能がない! そして復讐相手は愛が重い  作者: 亞月こも
第2章 姉様の真実と気づいてはいけなかった気持ち
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4 危険すぎる模擬戦


 闘技場に立ったフォンがこちらを向いて、剣を高く掲げた。絶対に勝つという意志を示す行為だったか。

 会場全体が再度湧く。人を引きこむパフォーマンスがうまい人だと思う。王者の貫禄だろうか。


 対戦相手はランプランサス辺境伯家のスペクタだ。家の名前は知っているけれど、本人は知らない。確か海に面した南端の領地だったと思う。

 派手な羽根飾りがついた大きな三角帽子トリコーンを目深に被っていて顔は見えない。帽子と揃いの大きなマントが風でたなびく。

(あの格好は戦いにくくないのかしら……?)


 手には大剣を模した重そうな木刀を持っていて、試合開始の合図ととも両手で振り下ろした。

 フォンがひらりと避け、地面がえぐられて土煙が舞う。


(っ……!)


「あんな武器では木製であっても危なすぎませんか?!」

 驚いてつい声を上げてしまう。ハイドが顔をしかめた。

「アリサ嬢がおっしゃる通りですね。大会規格で禁止されてはいませんが、殺傷力が高すぎるように思います。

 それに、スペクタは辺境伯家に多い槍使いでした。大剣を振り回しているところは初めて見ます」


「それってどういう……」

 話す間にも戦いが進む。観戦席はざわついているけれど、審判の教員が止めようとする様子はない。


 フォンは相手をしっかりと見据えて、動きが大きくなる大剣での攻撃を的確に避けているように見える。


「相手の間合いが広くて踏み込めない上、フォン様が持っている一般的な剣の木刀では、あの大剣を受けたら折れてしまうでしょう。

 攻撃できないまま試合時間を超えれば、攻撃の手数で相手の勝ちになります。スペクタは去年の大会でフォン様に負けているので、今回はそれを狙ったのかもしれませんね」


「卑怯ではありませんの?!」

「教員があの武器の持ち込みを許可した時点で卑怯にはなりません。戦略です」

「っ……!」


 ずるい。そう思って、ぐっと手を握りこむ。

 フォンも攻撃に転じる必要があることがわかっているのだろう。時々踏み込もうとするそぶりがあるが、相手の方が間合いを取るのがうまい。大きな武器を持っているのに俊敏に動き、フォンの剣が届く距離にならない。


 この時までは試合を試合として応援していたけれど、次の瞬間、様相が一変した。

 フォンが相手の大剣を最小限の動きでかわした直後、それを読んでいたかのように、相手がフォンを蹴り飛ばしたのだ。


「っ! 待ってくださいませ! 蹴りってアリですの?!」

「通常、模擬戦では使いませんね。品格を疑われるので。社会的評価を下げてでも勝ちにいきたいということでしょうか」


 横薙ぎにされたフォンが体勢を立て直そうとする間に、相手の大剣がフォンを襲う。当たれば頭が砕かれそうな勢いで、真上からのそれを避ける隙はなさそうだ。


「フォン様っ!!!」


 フォンが自身の木刀を横にして、しっかりと左腕を添える形で攻撃を受ける。衝撃が空気を揺さぶったように感じた。

 紙一重で頭には届かなかったが、一歩間違えれば命がなかったかもしれないと思ってゾッとする。


「なんでですの?! なんで審判は止めませんの?!」

「明らかな反則はないですからね……」

「っ……!」


 悔しくて涙がこみ上げてくる。


「フォン様ーっ!!! 絶対っ! 勝ってくださいませ!!!!!」


 タイミング的なものなのか、叫んだ声が会場に響いた気がした。

 フォンが相手の大剣を力いっぱい押し返して振り払う。後ろに下がって間合いを取ろうとしたところに、相手が追い討ちをかける。

 フォンが剣を投げつけたのは苦し紛れだろうか。相手の顔の方に飛んだそれは、ただ帽子を巻き上げて遠くに飛ばしただけだった。

 丸腰になったフォンにはもう打てる手はないだろう。


「フォン様っ!!!」


 ここまできたらもう、試合の勝ち負けなんてどうでもいい。審判には早く試合終了を宣言してほしいし、そうでないなら降参してでも無事でいてほしい。そう思って言葉に変えようとした直前、会場から信じられない声がした。


「待ってください。アレは誰ですか?」

 ハイドがあっけに取られたように言ったのと同じような内容が、あちらこちらから聞かれる。

「え。ランプランサス辺境伯家のスペクタさんでは……」

「背格好はそっくりですが、顔はまるで別人です! そもそもスペクタは、あのような珍しい黒髪・・ではありません」


「審判っ!」

 教員席からいくつもの鋭い声がした直後、審判役で入っている教員が、試合の中断を知らせる声を上げた。

 ホッと胸を撫で下ろす。これでいったんは、危険はなくなったはずだ。


 と思ったが、甘かった。


 試合の中断が宣言されたのにも関わらず、相手の大剣がフォンの首を目掛けて振り下ろされている。


「フォン様っ!!!!!」


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