1 帝王学科武術大会開催
帝王学科武術大会。
2期制の高等貴族学舎における前期の目玉イベントだ。
主役は武術をたしなむ帝王学科の学生たちだが、賢良学科と神学科もサポートで参加する。賢良学科は飲食物の手配を行い、神学科にはケガの手当てをする仕事が割り振られる。
全体のとりまとめや会場の準備は担当教員と生徒会を中心とした運営委員会が行うため、見習いとして忙しい日々を過ごしてあっという間に当日になった。
この間に、カレンから聞いた情報を実家に秘密の手紙で送って、自分がどうすべきかを尋ねている。火にかざさないと読めないインクで、一度かざすと痕跡が残り、誰かに読まれたことが受け取った相手にわかるものだ。返答も同じように見えない形で返ってきた。母の字だ。
内容をかいつまむと、『ウィステリアがそんなことをするはずがない』『そう言っていた相手は信用できるのか』『フォンによる情報操作はないのか』『もし理由があってそうしたのだとすれば原因を作ったフォンに非があるだろう』『引き続きフォンの失脚を望む』というようなものだった。
(信用……)
できる相手なのかどうかは、正直わからない。けれど、あの言葉にウソはないと思う。少なくともカレンはそう思っているはずだ。でなければ、あんなに堂々と言い切れないだろう。
(引き続きフォン様の失脚を望む……)
もし自分がそう動いて現実になったなら。現実にならなくても、フォンの敵に回っていると知られたなら。自分もカレンに向けたような冷めた目を向けられるのだろうか。今はそれがとても怖い。
(ほんと、身勝手……)
もしカレンが言っていたことが本当なら、フォンこそが被害者なはずなのだ。それなのに自分の都合で王太子ではなくなるように画策するなんてお門違いにもほどがあるし、それによって傷つくのは更にどうかと思う。けれど、家に逆らうわけにもいかない。
(フォン様に何かをするのではなく、ニゲラ様を持ち上げるくらいなら許されるかしら……?)
今のところ、それしか道がないように思っている。
そう決めてから、忙しい日々の中でも2人の様子を見るようにがんばった。フォンもニゲラも等しく有能だ。成績はわずかにフォンが上で首席だが、ニゲラが意図して譲っているように感じるところもある。
2人の仲は悪くない。うまく仕事を分担して、お互いに任せたことには口を出さないスタイルのようだ。見えている範囲では、どちらが国王になっても大きな問題はない気がする。
会長見習いという立場上フォンといることが多くなりがちだけれど、できるだけニゲラともいられるようにしていた。ガーベラは、できるだけ自分とニゲラを一緒に居させたいようだった。
(ニゲラ様推し同盟? って誤解されたままだからかしら?)
早く訂正した方がいいと思いながらも、それで助かっている部分もあって甘えている。
「アリサ様はもちろんニゲラ様を応援なさいますわよね?」
「そうですわね。ニゲラ様もフォン様も、ハイド様もアルピウム様も、みんな応援したく存じますわ」
「そうですわね。さすがアリサ様ですわ」
応援席でガーベラからの問いに答えたら、ウルヴィが残念そうに息をついた。
「うちが殿方だったら大会の勝利をアリサ様に捧げますのに」
「それは……、捧げられると何かありますの?」
特においしいものではない。もらうならケーキの方がいい。時々フォンとお茶会をしていて、そこに持ってきてくれるケーキは格別だ。フォンといえばケーキというイメージになりつつある。
「最上級の愛の告白ではありませんか?」
「そうなのですか?」
「何よりカッコイイですよね? 惚れないはずがないではないですか」
「ウルヴィさんの言うとおりですわ。私も憧れます」
「そういうものですのね」
周りの女の子たちもどこかキャッキャしている。楽しそうで何よりだ。
選手入場の先頭をフォンが歩く。ニゲラ、ハイドと続くのは身分順なのだろう。1年生の先頭はアルピウムだ。みんないつもよりキリッとして見える。
帝王学科武術大会は二部構成になっている。今日行われるのは対人での模擬戦だ。そこで技量が測られ、トーナメントを勝ち上がった4人だけが、春の学舎祭で行われる魔獣戦に挑む権利を得る。
学舎祭で来賓にいいところを見せるためには模擬戦を勝ち上がる必要があり、魔獣戦に挑めるだけでも栄誉とされているようだ。武に覚えがある学生にとっては最大の晴れ舞台だろう。
フォンが生徒会長として挨拶をし、ニゲラとアルピウムが各学年の選手代表として前に立つ。三者三様だけど、みんなスペックが高い。
いくつかのグループに分かれて対人戦が始まると、わっと応援の声が上がった。




