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追放令嬢の妹には復讐の才能がない! そして復讐相手は愛が重い  作者: 亞月こも
第1章 姉様の婚約破棄、国外追放、そしてその罪状
14/62

14 姉様の罪状


「ウルヴィ嬢に話があるから、このまま少し残ってくれる?」

 執務後の生徒会室で、フォンが執務の延長のように言った。

「はい、かしこまりました」

 呼ばれたウルヴィはガチガチだ。


(「あとで個人的に話をしようか」と言っていた件かしら)

 お茶会でのやりとりを思いだす。ウルヴィの緊張感がいつもより強いのは、同じように思ったからかもしれない。


 生徒会室を出て、ガーベラと話しながら一度寮に戻る。けれど、ウルヴィがどうなったかが気になって、生徒会室の前までUターンした。

 すると、扉に張りついている姿が目に入る。


「中の声は聞こえまして?」

「っ! アリサ・E・トゥーンベリ!」


 声をかけたら驚いたように呼び捨てにされた。さすがに失礼すぎないかと思いつつ、声の主、カレンの隣に立って扉に耳を当てる。


「やっぱり聞こえませんわね」

 扉も壁も十分な厚みがある。締め切っていると中の会話はわからない。大声なら聞こえるだろうが、中の2人は普段から声量が大きいタイプではない。


「あなたも気になるんですか?」

 珍しくカレンから話しかけられる。頬に指を当てて考えながら答える。

「そうですわね……、ウルヴィさんが何を言われているのか。怖い思いをしていないといいなと思っておりますわ」

「偽善者」

「え」

 耳を疑う言葉に、思わず声が出てしまった。


「それってどういう……」

「ウィステリア・M・トゥーンベリは独善的で小言が多いイヤな女だったけど、あなたは偽善的で気持ち悪いです」


(姉様が独善的で小言が多い?????)

 自分の中にある姉の姿とは重ならない。自分には寛容で、よく褒めてくれる優しい姉だった。が、相手はカレンだ。言動が目に余って、注意していた可能性は十分にあるだろう。


(わたくしは偽善的……?)

 そう言われる心当たりもない。それも気になるけれど、ハッと気づいた。今は姉様について聞く絶好の機会ではないだろうか。


「カレンさん。姉様について知っていることを教えてくださいませ」

「ウィステリアについて? ああ、フォン様からの緘口令の内容を、あなたも教えてもらえていないのね」

 勝ち誇ったように見下ろされたけれど、そんなことはどうでもいい。


(フォン様が緘口令を敷いているのは間違いありませんのね)

 家に来た連絡にもそうあった。やはりすべての元凶はフォンなのか。そう思ったが--。


「去年の生徒会メンバーしか知らないことなのだけど。ふふ」

 カレンが笑い話をするかのように続けた内容は、まったく想像し得ないことだった。


「あなたの姉ウィステリア・M・トゥーンベリの罪状は、フォン・S・テオプラストス様、王太子の暗殺未遂よ」


「え……」

 世界がひっくり返った感じがした。サァッと背中が冷える。

「ありえません! 姉様がそんなことをするはず……っ!」


「ありえないもなにも、わたしはこの目で見ているもの。ウィステリアが渡したグラスに口をつけたフォン様が驚いたように吐き出して、そこから毒が検出されたのを。フォン様が庇って揉み消さなかったら、あなたなんて家ごと取り潰されていたでしょうね。

 わかった? あなたはフォン様の横にいていい人間じゃないって。罪人の妹(・・・・)なんだから」


 言葉が出ない。泣いてはいけないと頭でわかっていても、目頭が熱くなってくる。


 ふいに、奥に向かって扉が開いた。内側から開けられたようだ。


「アリサ?」

「フォン様……」

 顔を見た瞬間に涙が溢れだす。止めようにも止まらなくて、堤防が決壊したかのようだ。


「アリサ!」「アリサ様!」

 フォンとウルヴィの声が重なって聞こえた。二人が同時に駆けよってきたのを認識した次の瞬間には、フォンの腕の中にいた。


「フォン様?」

 カレンが呼びかけると、自分に向けられていたのとは別人のような声がした。

「今は外してくれる?」

 いつもの柔らかさが抜けた、氷点下のような音だ。


 何も言わずに走りだした足音が遠ざかっていく。

「あ、あの、うちも失礼します」

「うん」

 ウルヴィの声が続いて、小走りに離れていった。


「きみは……」

「私はアリサ様の付き人、アリサ様の影ですから。いてもいないものとしてください。そちらの付き人も同じでしょう?」

「うん、そうだね」

 ミズキの返事を受けて、フォンがひとつ小さく息をついた。


「エマ、おいで」

 自分のミドルネームを呼ぶ声が優しい。手を引かれるがままに生徒会室に入り、横に長いソファに並んで座る。

 フォンが白いハンカチを出し、そっと涙を押さえてくれる。


「フォン、さま……、わたくし……っ」

「カレンから何を言われたの?」


 素直に答えそうになって、口まで出かかった言葉を飲みこんだ。言ってはいけないことだろう。緘口令を破ったカレンから、姉様がフォンの暗殺未遂を起こしていたのを聞いたなんて。

 なんでもないと言おうとしても言葉にならなくて、ただふるふると首を横に振った。


 ふわりと抱き寄せられて頭を撫でられる。そういう関係ではないと抵抗する気力が湧かない。ぐちゃぐちゃな気持ちを整えられないままに、フォンにすがって泣きじゃくった。


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