10 毎回入ってこようとするフォンは暇なのだろうか
「アリサさん」
身分の違いを無視して「さん」と呼ばれることに最初は抵抗があったけれど、相手の方が年上だからと飲みこむのに慣れてきた。
「はい、カレンさん。なんですの?」
各活動への予算配分がひと段落した生徒会室だ。生徒会メンバーの4人と候補の4人が思い思いにひと息ついていて、自分を含めた王侯貴族の6人にはそれぞれの付き人が従っている。
少し距離がある席から動かずに、カレンが部屋全体に聞こえる声で言った。
「誘われた秘密のお茶会について、考えたのだけど、フォン様が一緒ならお受けしたいと思います」
(秘密のお茶会ってここで言ってしまわれたらもう秘密ではありませんわよ?!)
飛び上がりそうになったのを必死に抑えた。気持ちを落ちつけないといけない。
(ケーキが1個、ケーキが2個……、おいしそうですわね)
そう思えば自然に笑顔になる。
(まぁどちらにしろ、上の代では筒抜けなのですわよね?)
今更だと思っておく。問題は後半だ。
「えっと、それは、わたくしとカレンさんとフォン様の3人で、ということでしょうか」
「はい、それでしたら喜んで」
(どうしてまた、よりによってフォン様なのかしら……)
それだとニゲラやハイドの時と同じように肝心な話ができない。自分にとってはほとんど意味がない会になってしまう。
(もしかして、それがフォン様の狙い……?)
カレンはフォンに対して気安い。フォンがそうするように言って、自分が姉様のことを調べるのを止めようとしているのだとすれば納得だ。
思わずフォンを見ると、特に変わらない笑顔で、何を考えているのかがわからない。
目が合ったフォンが口角を上げた。
「僕はアリサ嬢と2人のお茶会がしたいな」
(?????)
言葉が加わったことで、よけいに意味がわからなくなる。
(カレンさんが3人のお茶会を希望して、フォン様がわたくしと2人のお茶会を希望して???)
だとすると、最初のカレンの希望はフォンに言わされたものではないということなのだろうか。カレン自身の希望だとするなら、目的がわからない。
(そういえば、フォン様が「僕も誘われるべきじゃない?」と言っていたのを流したままでしたわね……)
あれは本気だったらしい。他のメンバーは全員誘っているし、ガーベラとはもう何度か個人的なお茶会をしているし、そろそろ声をかけないのも悪いだろう。
(カレンさんとも親交を深めておくのは必要ですわよね……)
なんとなく気乗りしないが、上の代でカレンだけ避けるのは変だろう。ニゲラとハイドの時にもフォンが来ているから、そこも今更だと腹をくくる。
「フォン様のご希望はわかりましたわ。それはそれとして、カレン様とのお茶会にいらっしゃるのはどう思われまして?」
「アルピウムとウルヴィ嬢とも予定を調整中なんでしょ? カレン嬢とウルヴィ嬢は同じ神学科だから、神学科の仲間を招待するお茶会にしたらどうかな。それなら僕も行くよ。あと、アルピウムとの方にも入りたいかな」
フォンの言うとおり、一年生のガーベラ以外の仲間とも個別に話す打診をしている。
レオントポディウム辺境伯家のアルピウムは日程が決まっていて、ウルヴィとは宿題や試験の日程をすり合わせている途中だ。
(どうしてフォン様が知っていますの?)
フォンがいる上の代ならまだしも、自分の同年代ももうそれを話すほどフォンと親しいのだろうか。
そう思って2人の顔を見ると、どちらも驚いている感じがして、何かを察したのかウルヴィは小さく首を横に振った。
(話してはいない、ということかしら?)
「俺はフォン様に来てもらっても構わないが」
「うん。じゃあ決まりね」
アルピウムの返事をすかさずフォンが受けて話が決まってしまう。アルピウムの立場では、この場で王太子にイヤだとは言えないだろう。
(まあ、アルピウムさんには年上の兄弟はいませんし、本当に親交を深める以上の目的はないから構いませんけれど)
毎回入ってこようとするフォンは暇なのだろうか。
カレンの希望とフォンが提案した神学科お茶会について考える。
ウルヴィに兄弟がいるかはわからないけれど、貴族ではないウルヴィの兄弟が学舎にいて姉様の件の詳細を知っている可能性は低いだろう。だとすると、こちらもアルピウムと同じで、絶対に個別じゃないといけないわけではない。
「ウルヴィさんはいかがですの?」
「うちはフォン様とアリサ様のご意向に従います」
ピシッと答えるウルヴィは緊張しすぎな気もするけれど、身分を考えるなら模範解答だろう。
「フォン様が来られるなら、それで構いません」
視線を向ける前にカレンが答える。なんとなく彼女とは合わない気がする。
(姉様の時に、カレンさんも次代の候補だったのかしら?)
姉の方が自分より身分や態度にうるさいから、もっと相性が悪かったのではないだろうか。




