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桃太郎とかぐや姫

不死の国 最後の砦

真っ暗な空からゆっくりと、冷たい光の綿が落ちて来た

静かすぎて、ほんわかとぼんやりした明るい夜だった

耳を壊した女は仲間たちの表情を見て取り、覚悟を決めていた

女の名前はルナといった

ルナは凍えていた このまま眠ってしまえばどんなに楽なことだろうと思った

しかしルナはかじかんだ両手で短刀を掴んで、震えながらごくりと唾をのみ込んだ

自分がやらなくてはならないことを今、なんのためらいもなく、とはいかないけど未来のために実行しようとしていたのだった

ルナには大好きな家族がいた お父さんとお母さんと弟だ

そして将来を約束した愛する男もいた

自分の愛する者たちが無残に自分の目の前で政府軍に殺されていった

それでも何とか生き延びて、復讐のためにルナはレジスタンス軍に入った

ここはレジスタンス軍の最後の砦である もうあとがなかった

来世に前世の記憶を引き継ぐ方法として自らの命を絶つという手段

この狂った世界に復讐するために来世では自分自身が鬼に生まれ変わって、不死の国に戻り、目の前にいる憎き敵を滅ぼさんと考えていた

どうしてルナが鬼の存在を知っているのかというとそれは前世の記憶だった

仲間たちが次々と銃殺されていく、ルナは政府軍に包囲されて、銃口を向けられていた 殺される前に死ななければならないとひと思いで、ルナは首元に短刀を突き刺して自らの命を絶った 薄れる記憶の中で、不気味に笑って敵を見ている ルナはとっくに死んでいたが、政府軍は怖くなって女を銃で撃って止めを刺した

のちにルナは「かぐや」という女の子として地球に転生を果たした


桃太郎の始まり

桃太郎は自分の出自に疑問を抱いていた

自分を育ててくれたおばあさん曰く、「川から大きな桃が流れてきて、その中に赤ん坊が入っていて、それがお前なんだよ」とのことだった

あり得なくて馬鹿げていることをおばあさんは今でも桃太郎に言い聞かす

おじいさんといえば、おばあさんのよき理解者だが、さすがに十三歳になった桃太郎に対してはもうそのような作り話は通用しないであろうと気まずい表情をしていた

本当の両親は誰なのかを桃太郎は成長するにつれて次第に興味を持ち始めていた


おじいさんとおばあさんに鬼ヶ島に行って鬼を退治してくることを告げた次の日の朝

鬼ヶ島に出かける準備が整った桃太郎は一人静かに出ていくつもりだった

おじいさんとおばあさんは鬼ヶ島への出陣に反対をしていたのだ

それはそうだ、退治できるどころか生きて帰ってくる保証もないところに大切に育てた息子が、「育ての親」に逆らって行ってしまうのだから朝の見送りは当然ないと桃太郎は思っていた

桃太郎が鬼ヶ島に鬼を退治しに行くと言ったのは口実で本当のところは自分の本当の両親について、何か手がかりを見つけるために旅に出たかったのだ

ここは何もない山奥で近くには人が住んでいなかったから、桃太郎はもっといろんな人に出会い、色々と経験がしたいとも思っていた

本当のところは自分の顔を水面に映したときに、おじいさんとおばあさんとは顔立ちが違うことが気になっていたのだ 似てないのは当たり前かもしれないけどそれとはまた違う感覚を桃太郎は心に潜めていた

もうすぐ秋の息吹が山全体を赤色に染めていく季節 

まだ日の出は早くて、朝は明るかった

おばあさんとおじいさんと笑って過ごした日々が頭の中で繰り返し思い出された

(なあに もし本当の両親が見つかったとしても帰る場所はこの家だ)

桃太郎は玄関でわらじを履いたあと、少し考え事をしてから「ぱんっ」と両ひざを手でたたいて立ち上がった

「朝飯を食べて行け」

おじいさんのいつもと変わらない口調が居間から聞こえた

「さてさて、今から準備するから待っててね」

おばあさんが玄関までやってきて桃太郎に優しく伝えた

桃太郎は何も言わずしっかりと縛ったわらじの紐をほどき直して居間に向かった


旅立ち

桃太郎は自分が流れてきたという川をおばあさんと一緒に歩いていた

おばあさんは川に洗濯をするついでだからと桃太郎に付いてきたのだった

おばあさんは桃太郎と歩きながら桃太郎にまつわる本当のことを語り始めた

「私たち夫婦には子供がいなくてね、気が付いたらこんな歳になってしまった 別に子供がいなくても楽しく生きていたけど、ある日ちょうどここにお前が川から流れてきたの! 私はびっくりした でもこれは神様の思し召しだと思ってお前を必死になって川からすくいあげたのよ あのときは本当にうれしかったなあ」

おばあさんは昔話を思い出して、懐かしんでいた

桃太郎はおばあさんの笑った横顔を見つめながら話を聞いた 自分が成長すると同じ時間の流れでこの人も年老いて行く 顔のしわが目立ち、完全に白髪になったのはいつの頃か

「大きな桃ではなかったけど お前はこの川から流れてきたのは本当の話なの 今まで変な嘘でごまかしてしまってごめんね」

おばあさんは桃太郎に対して一人の人間として誠意を伝えたかったようだった

「本当のことを話しくれてありがとうございます」

やはり自分はおじいさんとおばあさんから生まれた本当の子ではないということが再確認できた 分かってはいたけど、あと一押しで刺さり切ってしまう針が今、「チクンッ」と心臓の中心部に到達したような気分になった

桃太郎は不器用なスピードで早く深く何度もおばあさんにお辞儀をした

おばあさんは桃太郎の近くに寄り添い、桃太郎の背中を優しくさすってあげた

おばあさんは笑いながら泣いていた 桃太郎も初めて湧き上がる感情に嗚咽していた

このときに桃太郎はおばあさんと何か見えないけど一つの線が出来て、隔たれたような関係性になったことを感じた もう無邪気におばあさんに甘えていた頃には戻れない

しかしなぜだか、おばあさんやおじいさんの弱さや欠点なども許せて受け止められるような気がしてきた 少しだけ自分が優しくなれたような気もした

桃太郎はおじいさんとおばあさんがこの先もずっとずっと幸せに暮らしていてくれることを心から望んだ

「桃太郎の名前の由来だけど、お前が流れてきた小さな船の中にお前と書置きがあって「この子は名前は桃太郎です」と書いてあったの それでおじいさんと相談した結果そのまま桃太郎になったわけ 桃から生まれたっていう作り話は実はおじいさんが始めたことなのよ」

おばあさんは思い出してコロコロと笑っていた

「では僕は行ってきます 必ず戻ってきますからね」

桃太郎は切りのない会話を無理やりにでも断ち切ろうとそう言った

おばあさんは洗濯籠を覗いて、ガサゴソと何かを探していた

「タラララッタ タ~ン♪ き~び~だ~んご~♪ はいっ お腹が空いたらこれ食べてね」

不思議な鼻歌とともにおばあさんは桃太郎にきびだんごが入った笹でできた袋を渡した

桃太郎は誰かと添い遂げるならば、おばあさんみたいな人が良いなと心の中で思った

きびだんごは桃太郎の好物でお祝いのときにおばあさんが必ず作ってくれたものだった

特別な日にしか食べることが出来ない貴重なものでもあった

「ありがとうございます 大切に食べます それでは さようなら」

桃太郎とおばあさんはお別れをして桃太郎はこの川をたどって川上を歩き始めた

おばあさんは桃太郎が見えなくなるまで手を振って見送っていた


子分との出会い

桃太郎は川沿いをずっと当てもなく歩き続けていた

自分の出自は川上にあると信じた桃太郎はなんとなく、川の最上部には湖があってその真ん中に浮かぶ孤島が鬼ヶ島なのだろうと想像をしていた しかしこれはただの桃太郎の直観に過ぎなかった

川を眺めると鮭たちが川の流れに逆らって、一生懸命に自分の生まれた場所に帰ろうとしている

やがて日が沈み始めたので、桃太郎は今日の寝床の準備を考えていた

山の日暮れはとても早い、気が付くとすぐに真っ暗になってしまう、それを知っていた桃太郎はある程度平らな川沿いに焚火を付けて、早めに今日の日を終わりにしようとしていた

お腹は空いていたけど、まだどのくらいあるか分からない道のりに対して、きびだんごを気安く食べることはできないでいた 今日は川の水をたらふく飲んで寝てしまおうと考えた

落ち葉を布団に見立てて何とか夜の寒さは凌ぐことはできていた

やがて日は完全に沈み、虫の音や川のせせらぎに耳を澄ませながらじっとして、明くる日を待っていた

桃太郎が寝ようとしてうつらうつらとしていると突然、獣の匂いが鼻を触った

桃太郎は飛び起きて、持っていた刀を抜いて警戒ををした

(獣の肉を焼いて食べようか 向こうからやってきてくれるとは都合が良い)

焚火が照らす中、桃太郎は獣と対峙した

獣は一匹の野良犬だった 群れを作っているようには見えずどこか人懐こい表情を見せていた

ただひとつわかることはこの犬は空腹で食べ物を探してさまよっているということだった

桃太郎は刀を鞘に戻して、大切なきびだんごを一つこの犬にくれてやった

「大切に味わって食べろよ」

四つあったきびだんごのうち一つをこの犬に桃太郎はあげたのだった

自分も空腹でひもじい気持ちをしていたが、だからこそひもじい思いをしているものの気持ちがわかった 犬は一串に三つ並んだきれいな丸いきびだんごを一生懸命になって食べていた

その一部始終を見ていた猿が「ザザザッ」と葉の音を立てて木と木の間を手で器用に移動してきて桃太郎のところにやって来た

猿は敵意を見せるわけでもなく、桃太郎に右手を差し出して、きびだんごを求めてきた

「おいおいっ このきびだんごは私にとってとても貴重なものなんだぞ! なんでお前らにこの大切なきびだんごを渡さねばならんのかねっ!!」

桃太郎はムキなって聞き分けることができないであろう猿に対して話しかけた

しかし、前例の実績は桃太郎に対して不利に働いた

猿は犬の食べているところを指差して、もう一度右手を桃太郎に差し出した

「むむっ!犬にはあげれたのに猿にはあげれないのか?と申しているのか?なかなか正論を突いてくる猿だ 仕方ない ではこのきびだんごをお前にもくれてやろう」

その一部始終を見ていたキジが静かに桃太郎のところにやって来た

桃太郎は半ばやけになってキジにもきびだんごを渡し、最後のひとつを自分の胃の中にしまい込んだ 桃太郎は急いで食べたので味わう事ができなかった

「桃太郎さん おいしいきびだんごをありがとうございました おかげで元気が出ましたもしよろしければ私を桃太郎さんの子分にしてください」

桃太郎は飛び上がってびっくりした 今まさに先程きびだんごをくれてやった犬が人間の言葉をしゃべりだしたのだ

「桃太郎さん おいらもあんたの子分になってやってもいいぜ キキ-ッ」

猿も人間の言葉をしゃべりだした

「ケーン ケーン」

キジもしゃべっているようだったが鳴き声にしか聞こえなかった

桃太郎はおばあさんが作ってくれた不思議なきびだんごの力によって動物と会話をすることができるようになったのだった

こうやって桃太郎は三匹の子分を連れて、鬼ヶ島に向かうことになった

集落

桃太郎は旅の途中、食べ物の準備に苦労していた

特に子分たちの食べ物を用意してあげなければならなかったので、どんぐりを集めたり、小動物を狩ったり、もう冷たい川の中に入ってカニや貝など比較的取りやすい生き物を取って子分たちと分け合っていた

そんな日々を過ごしながら、一行は歩いていると一つの集落を発見することができた

集落は意外と賑わっており、人が交流している様子がこの高台から見て取れた

畑にはサツマイモの葉が生い茂っている

おばあさんがサツマイモをふかして自分に食べさせてくれたときのことを思い出した

「ちょっとあそこに行ってきて 食べ物と寝床を用意してもらえないか聞いてこよう」

桃太郎は三匹の子分に言った

「あいつらは食べ物をくれないかもしれませんよキキ-っ」

猿が桃太郎に言った

「なあにただでくれとは言わないさ 私は力仕事が得意だから何かの手伝いをしてその駄賃としていただけないかを聞いてみるよ お前たちが一緒だと話がややこしくなるのは良くないから私だけ行って来よう お前たちはここら辺で大人しく待っていなさい」

犬はきちんとした正しい姿勢でお座りをした

猿は両手を頭の後ろに乗せて、口笛でも吹くかのように口を尖らせていた

キジは道を這う昆虫をついばんでいた

集落の入り口に桃太郎はたどり着き、一番近い場所にいた女のところまで行って話しかけた

「何か私に手伝えることはないか? 手伝いが終わったらサツマイモを少し分けていただきたいのだが……」

桃太郎は女の背中にこう伝えた

女は一度、畑仕事を止めて、声のなる方を振り返った

桃太郎の顔をしばらく見ると、抱えていたサツマイモをすべて放り投げて奇声を上げて集落の家の方に逃げて行ってしまった

桃太郎は驚いて後ろを振り返った しかしそこに熊がいるわけではなかった

あまり人を知らないから見たことがない人がやって来てびっくりさせてしまったのだろうと桃太郎は納得した

(申し訳ないことをした……)

桃太郎はそう思って改まり「はじめまして……」を最初につけるべきだと反省した

気を取り直して、集落の家の方に近付いて行った

集落の広場に向かうと村人たちが総出で桃太郎を迎えていた

しかし歓迎されているようには思えず、あるものは怯え、あるものは奇異の目を向けている

村の男たちは桑や鉈を手に取り、桃太郎に向けて戦闘態勢を整えている状況だった

桃太郎は恐怖で足が竦んでしまった なぜ自分がこのような待遇を受けるのかがわからず

悲しくなってしまった 全員が自分の事を敵だと思っているのだ

突然、おでこに強い痛みが走った

おでこから目にかけて流れてくるものを無意識に拭きとろうと、左手を当てると赤い血が手に着いていた

「化け物め!ここから出て行けっ!」

石を投げつけた少年が桃太郎に対して第一声を放った

「私は化け物ではないっ! 名は桃太郎と申す なぜこのような仕打ちをなさるか?」

桃太郎は少年をきっと睨みつけて言った

少年は桃太郎の眼光に怯えて後ろに下がって消えてしまった

すぐにこの村の長老と思われる老人が村人の代表として桃太郎の一番近くにやって来た

「鬼の子よ なぜお主は人の言葉を話すのか?」

長老が桃太郎に問いかけた

長老は自分を育ててくれたおじいさんよりも年上に見えた 白くて長いひげをたくわえて杖を宛てにして歩いていた

「私は優しい人に大切に育てられた 人を襲ったことなど一度もない」

桃太郎は勇気を振り絞って、村人全員に聞こえるように言った

「わしのおじいさんの頃に、鬼たちは人を襲い、食べ物や金品を盗んでいたと聞いている 今は鬼たちは討伐されていて絶滅していると思っていたがお主はその生き残りか」

「私は人の子だ 卑しい鬼の血など一つも引いていない! 」

桃太郎は自分を鬼という村人たちが許せなかった 自分が排除される側に立たされていることが悔しくて堪らなかった

長老は最後まで桃太郎の話を聞き終えてから、長い白いひげを右手で軽く掴んで下に降ろした そしてこう桃太郎に伝えた

「もし、村人を襲わないということが本当で誓えるのならば、このままここから立ち去ってほしい 役人にはお主の事は話さない お前を討伐することはないであろう」

桃太郎は長老をまじまじと睨みつけながら二回頷いて、集落を出て行こうとした

桃太郎が振り返って歩き始めたときに、何かが自分の後ろに投げつけられて届かずに落ちた重い音がした

振り返るとそこには三本の割と立派なサツマイモが落ちていた

最初に声を掛けた女が、桃太郎にサツマイモを分けてくれたようだった

自分に石をぶつけてきた少年の母親なのだろう 少年の手を強く掴んで、桃太郎の近くまで来ている 少年は俯いていて不貞腐れている様子だった

先程まではサツマイモを恵んでもらうためにこの集落に来たはずなのに、なぜかもうこの村から何の施しも受けたくない気持ちになっていた

もう新しい人に会うのが怖くなってしまった 自分の鬼のような見た目を恨んだ

プライドが傷付いた桃太郎はサツマイモを無視して、子分たちのもとに戻るつもりでいた

(三本かぁ……)

桃太郎は思い留まって少し考え、少年の母親にゆっくりとお辞儀をすると丁寧にサツマイモを三本取り上げて集落を後にした

子分たちは桃太郎の一部始終を高台から見ていた

「よお サツマイモをもらってきたぞ 一つずつあるからな」

桃太郎は子分たちにサツマイモを与えた

「桃太郎さんの分は?」

犬が心配そうに桃太郎に尋ねた

「先に一番大きなものを私が食べてしまったから それはお前たちの分だ」

猿とキジは何も言わずにサツマイモを食べ始めた


鬼ヶ島

もしかしたら、自分は……この場所に来たことがあるかもしれない

桃太郎は子分たちと筏の櫂を漕ぎながら目の前にある鬼ヶ島をみてそう思った

どこか懐かしさすら覚えてしまう不思議な錯覚に陥った

鬼ヶ島は湖に囲まれた孤島で船が何艘か泊っているのが見えた

誰もいない鬼ヶ島の港に筏を泊めて、桃太郎の一行は鬼の本陣に進んで行った

しかし桃太郎がみた目の前の鬼ヶ島はイメージとは到底かけ離れていて桃太郎はショックを受けてしまった

鬼ヶ島はひとつの町となっていた 市場があり、大工がいて、田畑を耕していた

悪逆非道として人間に害をなす、人間と肌の色が違う者たちを自分の刀で血祭りにしてやろうと桃太郎は真剣に考えていたのだ

しかしどう考えても、もし今、この町で桃太郎が刀を振り回してそこで生活をしている鬼たちに対してそんなことをするようならばいったい悪人はどちらなのだろうか?

桃太郎はそんなことを考えて、しばし呆然と立ち尽くしていると桃太郎に気付いた一匹の青色の肌をした大きな鬼が近づいてきた 頭の一角が立派でいかにも武闘派の形相だ

桃太郎たちはこの青鬼に警戒をした

「あんたは……もしかして……桃太郎さん?」

青鬼はきびだんごを分けてやった訳でもないのに言葉をしゃべった

島の部外者を見つけて、慎重に言葉を選んで話しかけているようだった

「ああ そうだ! 我が名は桃太郎と申す」

一瞬の沈黙が流れた この島はカモメの楽園のようでカモメの鳴き声が町中に響いた

「おお~っ! みんな~っ!! お頭の息子さんが帰って来たぞっ!」

青鬼は町中に響く声でみんなにこのことを伝えた

みんなが一斉に振り返り、今自分がしていた動作を止めて桃太郎に向き直り凝視した

それは桃太郎からすると少し気味が悪かったが敵意というわけではなさそうだった

桃太郎は何のことか判らなかったが、青鬼に連れられてお頭のところに案内された


お頭は大きな洞窟の塔のてっぺんに住んでいた

そこにはだだっ広いひとつの部屋があって、部屋の中央には松明が灯されていた

松明を中心に部屋は照らされていて、中心から離れた場所は暗くて何も見えなくなっていた 

部屋の隅っこにある家具などは手探りになりそうで一見すると不便な部屋だった

お頭はこの部屋の奥でかすかに届いた松明の灯りに照らされていた

燃えるような赤い肌、頭に生えた二本の角、銀色の長い髪は力強く艶があり、恐ろしく鋭い目元は病み上がりのような不健康さを感じさせた 

体格は瘦せていて青鬼と比較してもお頭は武闘派ではないように感じられた

桃太郎の子分たちは痩せて弱そうな赤鬼を見て、すべて話し合いで決まれば良いなと思った


親子喧嘩

お頭は椅子に見立てた丸みを帯びた平な石に腰を下ろしていて、桃太郎を見つめていた 

何かを見定めているかのような 統領だけが持つ立ち振る舞いや雰囲気が見て取れた

お頭はたっぷりと時間を貯めて不敵な笑みを浮かべて低い声でこう言った


「よう 息子よ 元気だったか?」


こう言われた桃太郎は納得がいかずに憤慨した

「私がお前のような汚れた輩の息子だと? ふざけるのもいい加減にしろ!」

桃太郎は激昂して刀を抜いた

「桃太郎さん! 落ち着いてください」犬が桃太郎に行った

「そうだよ! まず話し合いをするのが先でしょ キキ-ッ」猿も桃太郎の前に立ちはだかり興奮を治めようとした

「ケーン ケーンッ! 」キジは何かを訴えているようだったが分からなかった

お頭はゆっくりと立ち上がって桃太郎に話しかけてきた

「……俺を退治しに来たんだろう 子分を引き連れて いいよ 相手になってやろう」

お頭は酒に酔っているのかフラフラと立ち上がった

その瞬間 三匹の桃太郎の子分はお頭の動きを目で追うことができなかった

あっという間に桃太郎に間合いを詰めると、良く伸びた鋭利な爪をしまって右手で桃太郎の顎を掴んでまじまじと桃太郎の顔を眺めた

時間でいうと一秒もない刹那の時間だったが、お頭は長い時間笑っているように見えた

桃太郎は次の瞬間に後ろに吹き飛ばされて、壁が震えるほどの衝撃でぶつかった

桃太郎はあまりもの痛みに息ができなくなってしまい、気を失いそうになってしまった

「どうしたあ? 切れよ それともその刀はなまくらなのか? 」

お頭は桃太郎を挑発して楽しんでいるようだった

桃太郎は静かに立ち上がると、刀を鞘に納めた

三匹の子分はさっきまで見つめていた桃太郎が一瞬でどこに行ってしまったのかわからなくなってしまった 桃太郎は突然子分たちの視界から消えてしまったのだった

桃太郎は瞬時にお頭の目の前にたどり着いていて渾身の力でお頭の顔をぶん殴っていた

お頭は高速回転して空中に放り出されて吹き飛び、壁にぶつかった 建物全体が揺れて天井からは埃と砂が落ちてきた

三匹の子分は成す術もなく立ち尽くしていた オロオロするばかりとなっていた

青鬼はオロオロしている桃太郎の子分たちを見て、安心させるためにこう言った

「心配するな お前らの親分と内らの親分は今、親子喧嘩を楽しんでいるんだ」


桃太郎とお頭の喧嘩は続いていた

「お前のお母さんはいい女だったぞ お前を産んですぐに死んでしまったがな」

お頭は下敷きになって壊れた家具を哀れそうに眺めながら桃太郎との会話を続けた

「母上も鬼だったのか?」

桃太郎は聞きたいことがたくさんあった そのうちの一つである大切な質問をした

「いや 人間の女だ なのでお前は鬼と人間の半分ずつの血が流れている」

水面に映る自分の姿になぜ違和感を覚えていたのかが分かった おじいさんとおばあさんはおそらく自分が人間ではないことを知ったうえで人里離れたところで育ててくれたのだと桃太郎は理解した

「お前はお母さんの方に似てて良かったな 俺に似てたらもっと世間は大騒ぎだったろうに」

お頭は我ながらエッジの効いたブラックジョークが口から出たと自分で笑ってしまった

そのあと急に真面目な顔つきとなって桃太郎から目線を外すと上を向いてこう言った

「俺はアイツと約束をしたんだ お前を立派に育てるとな……」

お頭は自分の言葉にもお酒にも酔っているようだった どこかフラフラしている

桃太郎はお頭の脇腹に普通の人間ならば口から内臓が飛び出てしまうほどの力で拳をねじ込んだ お頭は天井に吸い込まれるように飛び上がった

「……じゃあなぜ自分の子供を川へ捨てたんだ!」

お頭は不意打ちを突かれて、少しだけせき込んだ

桃太郎とお頭は天井高くまで飛んでいて空中で会話をしていた

「ゴホッ ん? 捨てちゃいねーよ 現に今、お前は俺を殺しに戻ってきたじゃねーか 結構楽しみに待ってたんだぞっ!」

お頭は桃太郎との制空権を勝ち取って、両手をハンマーに見立てた渾身の力で桃太郎の脳天を叩いた これも普通の人間ならば目ん玉が飛び出て、頭部が完全に勝ち割られて、脳みそが飛び散ってしまうほどの衝撃だった

桃太郎は急降下で地面に衝突し、穴が開いて下の階まで落とされてしまった

「狂っている 私を育ててくれたおじいさんとおばあさんは決してそんな悲しいことはしない! 私の……私の母上はそれを許したと思うのか!」

桃太郎は気が付くと今対峙している化け物が実の父親であることを受け止めていた

酒に酔っ払ったお頭は容赦がなかった 楽しくて舞い上がっていたのかも知れない

お頭の両手に大きな光が見えた その発光体を桃太郎に投げつけた

「お頭 あんた馬鹿かっ! 飲みすぎなんだよっ!」

青鬼はお頭にそう言うと、ただ茫然とする犬と猿とキジを抱えてこの部屋から一目散に逃げ出した

「アーハッハッハー!」

お頭は我を忘れて笑っていた 目はギラギラと輝いていた

洞窟は粉々に崩れ去り、あっという間に更地になってしまった

「ほんと 危ないからな あの人 桃太郎さん すみません」

青鬼は避難させた犬と猿とキジを抱きかかえて桃太郎の前にそっと置いた

三匹は震えあがって何もできずにいた 桃太郎はお頭を睨みつけている

お頭は地面に着地すると満足そうに桃太郎を見ていた

そして桃太郎に対して少し照れくさそうに俯きながら言った

「……しかし、お前を今まで育ててくれた人間には感謝しないとな」

お頭は桃太郎を見て笑った

桃太郎はお頭を睨みつけていたが、何だかわからないわだかまりが溶けて行くような清々しい気持ちも覚えていた

桃太郎とお頭は近くにあった石に腰を下ろして、少しだけ親子の会話をした

「もう少し強くなったらこの国をお前にくれてやる まあ俺を倒すことができたらという意味だがな もっともっと広い世界を見て修行してこいっ!」

お頭は「ぱんっ」と両ひざを手でたたいて立ち上がった そのまま背中を向けて桃太郎の前からいなくなってしまった


桃太郎は鬼ヶ島に住んでいる者たちに歓迎されて盛大な宴でもてなされた

たくさんの美味しい料理が桃太郎の前に並んだ 腹ペコの桃太郎と三匹は一生懸命ご馳走を食べた そして桃太郎に興味を持つ鬼たちに囲まれていろんな話をした

遠い遠い昔の話になるが、鬼と人間はもともと一緒の世界に住んでいたが、一部の人間から迫害を受けて居場所を奪われ、この島に逃げてきて暮らすようになったとか

鬼という生き物は好戦的だが、決して悪逆非道ではなかった 少なくとも桃太郎の父親がお頭でいる時代には人間を襲ったりはしていないようだった 人間に興味を持っていて、何かしら交流が持てるようにとお頭は考えているとのことだった

お頭は酔い潰れてすぐに寝てしまったので周りの鬼たちがお頭の話を桃太郎にしてくれていた 桃太郎たちも旅の疲れと親子喧嘩で疲れていたので用意された寝床で明日の朝まで眠ることにした


次の日の朝

桃太郎と犬と猿は川の字になって死んだように眠り、朝を迎えた

出発の準備を整えていると犬がもじもじしながら桃太郎に話しかけた

「桃太郎さん……」

「どうした? 犬」

「私はここで桃太郎さんとお別れします 桃太郎さんと旅した日の事は忘れません それときびだんご美味しかったです」

「そうか わかった」

桃太郎は少し寂しく感じたが犬のために笑顔で答えた

犬はこの鬼ヶ島で安全に暮らすことができると思い決断したのだった

「桃太郎さん」

「なんだ? 猿」

「俺もここに残るぜ 人間よりも鬼たちとの方が気が合いそうだからなキキ-」

「そうか わかった」

犬もそうだが、猿もあまり人間に良い印象がないようだった 鬼の方がマシらしい

キジはもうすでにどこかの鬼の家で飼われていた

桃太郎が鬼ヶ島を出発するときにお頭の姿はなかったが、青鬼と昨日会話をした数人の鬼たちがお見送りをしてくれた

「これはお頭からです」

青鬼は桃太郎に船を用意してくれて、鬼ヶ島でとれる貴重な宝石や手先の器用な鬼が作った価値のありそうな木彫りの人形など珍しくて高価な品を一緒に載せてくれた

「……お頭ですが照れているのか 壊した家を建て直すのに忙しいとかで見送りできない……とのことです」

お頭は大工の棟梁でもあったらしい 青鬼は恥ずかしそうに手で頭をかきながら桃太郎に伝えた

「いつでも遊びに来てくださいね 次期、お頭」

青鬼は桃太郎に笑顔でそう伝えた

「お世話になりました またいつか遊びに来ます おやじにもそう伝えてください」

桃太郎は船に乗り込み、島を後にした


かぐや姫の始まり

鬼ヶ島へ旅立ってからおおよそひと月後に桃太郎は自分の家に帰ってくると、家族が一人増えていた

初めての出会いは居間での朝食のときだった

目の前に座っている小さな女の子が大根の塩漬けをポリポリとかじってふやかした雑穀米を口に含んでいた

桃太郎もぬるくなった海藻汁を口に含みながらチラチラと目の前の人物を気にした

囲炉裏の四辺が人で満たされている おばあさんはご機嫌で鼻歌混じりに家族を笑顔で見ていた おじいさんがいつ話を切り出すのかをみんな待っていた

そしておじいさんが重い口を開いた

「この子はかぐや姫といってな、わしが山に竹を取りに行ったときに偶然竹の中にこの子がおってな……それで連れて帰っ来たんじゃ」

桃太郎は口の中に含んでいた海藻汁を噴き出してしまった

おばあさんはどうやら笑いを堪えているようで肩を小さく震わせながら背中を向けて顔を隠していた

かぐやは表情を変えずに朝ごはんの続きを食べていた

桃太郎とおばあさんの目が合った またおじいさんのいつもの作り話だと思って二人で面白くなってしまったのだ おばあさんは桃太郎に片目だけパチリと瞑って何かの合図をした その合図に特に意味はなかった 

桃太郎はそんなお茶目はおばあさんが大好きだった


かぐやは哀れな桃太郎をみて愛おしく思った

しかし態度には出さないように務めた

桃太郎は他の人間と大分違っていた 肌は薄っすらと赤みがかっていて、猫のような爬虫類のような瞳を持ち、人間のような端正な顔立ちをしているが、口を開けると鋭い牙が生えている 人間ではないことが誰の目から見てもすぐにわかった わかっていないのは本人だけのようだ

「馬鹿で愚かな化け物」が人間に育てられて人間になったかのような気でいるのだろう

かぐやは桃太郎をそのように見ていた 見下していたのだ

(自分のものにしてしまおう)かぐやは粘着性のある強い愛情を桃太郎に向けていた

かぐやは自分のことを産まれたときから分かっていた もともとは月の住人であるかぐやにとって地球人は「田舎臭い時代遅れのダサい人種」だと思っていたのだった

しかし、おじいさんとおばあさんのことは好きだった 本当の親の様に思っている

なぜ自分が地球にいるのかは分からなかったが、夜になると懐かしい月を見上げていつか月からお迎えが来るだろうと考えていた

その時はおじいさんとおばあさんと桃太郎も一緒に連れて行ってあげようと思っていた

かぐやは退屈を持て余していた

地球には圧倒的に娯楽が少なかった 人々は生きるためだけに生きており、人生を楽しむような余裕は全く感じられないでいた 愛や恋の他にも友情や団結、挫折や心の成長など複雑な心の機微はこの時代の人間には概念としてまだないのだとかぐやは思っていた


かぐやの成長スピード

かぐやはひと月前までは完全な赤ん坊だったのだが、ものすごい成長スピードで八歳程度の女の子になっていった

おじいさんとおばあさんは最初驚いていたが、やがてそれを受け入れて、桃太郎のときと同じように愛情を持って育てていた

かぐやは最近特にあまりにも早い自分の成長スピードに体の痛みと倦怠感を患っていた 

骨が「ミシミシ」と成長する音がするのである 

あまりもの痛みに起き上がれないほどであった

おじいさんとおばあさんは一生懸命かぐやの看病をおこなった

高熱が続いていて、かぐやは全身がびっしょりと汗で濡れてしまう

おばあさんは度々かぐやの体中の汗を丹念に拭いてあげていた

ある夜の事、かぐやはもう観念して自分はこのまま死んでしまうのだと思った

おじいさんとおばあさんは何か手立てがないものかと一生懸命に考えていた

そんなおじいさんとおばあさんだったが、夜も更けると疲れてぐっすりと眠ってしまった かぐやは寂しくなってしまい声を出して泣いてしまった

自分にはもう明日が来ないのではないかと悲しみに暮れていると、かぐやの部屋には一度も立ち寄ったことのない桃太郎が珍しくやって来て静かに近づいてきた

さっきまで悲しんで泣いていたのだが、今は驚きの方が勝っていて痛みをこらえて寝床から起き上がり、髪や衣服の身だしなみを気にして、手で焦りながら整えていた

「かぐや これを食べな」

優しくて強い野太い声だった 桃太郎はよく焼けた鶏の肉をかぐやに差し出した

かぐやの鼻の奥にあるセンサーが何かを感知した そして体内にある触手が動きだしたような気がした 体の痛みを無視して、まるでスイカをほおばるように両手でしっかりと肉を掴んで一気に鶏肉をむさぼった かぐやは今まで一度も感じたことのない興奮を感じていた 退屈は吹き飛び かぐやの考えはこのときに反転してしまった

(肉が美味しい……) かぐやは肉を産まれて初めて食べた 確かに肉は美味しかったのだが苦しみや悲しみの中で桃太郎の声が自分を救ってくれたことで頭の奥が痺れるような感覚がしたのだ おへその下辺りが疼いてくすぐったくも感じた

おじいさんとおばあさんは今まで肉というものを口にしたことがないので、桃太郎やかぐやなどのエネルギー消耗の激しい若者に取っては栄養が足りなかったのである

肉を食べた次の日は体が楽になった


かぐやはまた肉を食べたいと思っていたが、おじいさんとおばあさんが肉の匂いを異臭だと嫌がっていたので、家で肉を食べることはしない方が良いとかぐやは思った

「おじいさんとおばあさんが寝静まったら、外に出て、焚火で明るくなっている方へおいで」

かぐやは桃太郎に言われた言葉を聞いてゾクッとした

地球には娯楽がないと最初は思っていたが、月ではこんな感情を覚えたことはなかった

いつしか桃太郎と二人で火を囲んでの夜食が当たり前のようになっていた

魚だったり、蛙だったり、猪だったり、ときに蛇だったりしたが塩をかければなんでも美味しかった

かぐやはすっかりと桃太郎の女房を気取っていた

栄養が行き渡るとかぐやの体は時空を超えてきた人のように成長してしまった 

かぐやは桃太郎の年齢を追い越して大人の女性にあっという間に成長していったのだった

「ねえ 桃太郎」

いつもの焚火を囲んでの夜食を食べるいつもの兄妹の何気ない会話のはずだった

今日は鹿を狩ることができたので桃太郎ははしゃいでいた

丸焼きになった鹿の後ろ足の腿の部分をちぎって、桃太郎はかぐやに手渡した

パチパチっと火の粉が舞い上がって、肉から垂れ落ちた油が火に注がれた

虫の音は終わることなく鳴り続け、遠くの方で狼が遠吠えをしている

真っ暗な広い世界にぽつりと一ヶ所だけ火が燃えている 

美味しそうに肉を食べている桃太郎を見つめて、かぐやは勇気を持って切り出した

「おほんっ……桃太郎はきれいなお姉さんは好きですか?」

かぐやの目が決着をつけるときのような、そんな覚悟を決めた眼差しで桃太郎を見つめた

桃太郎は嬉しそうにかぶりつこうとしていた鹿の肉を一瞬、手の力が抜けてボトリと落としてしまった

桃太郎は鹿の肉を目で追っていたが、一旦目線をかぐやに向けた

「私のことは……好きですか?」

かぐやは桃太郎にたたみかけるように聞いた 顔は笑っていなかった

自分が見る見るうちに大きくなってしまったことについて桃太郎は気味悪がっているのかどうかを何としても聞き出したかったのだ

(私は桃太郎に嫌われたらもう生きてる意味がない)

桃太郎は落としてしまった肉を手で軽くはたいて肉に嚙みついた

「うん きれいなお姉さんはきらいではないよ」

食べながらもぐもぐと桃太郎は答えた

「私の事はどう思っている?」

「……ん? 最近はきれいなお姉さんだなって思っているよ」

かぐやはその言葉を聞いて天にも昇るような気持ちで浮かれた

きれいなお姉さんは嫌いじゃない 自分のことはきれいなお姉さんだと思っている

これは私のことは嫌いじゃないということだと、かぐやは解釈した

今はそれで充分だった かぐやは桃太郎と気まずくなってしまう境界線があるとしたらどこだろうと慎重になりながらも少しずつ歩みを進めていた

かぐや姫がすべての男を虜にしてしまうほどの美貌の持ち主であることは言うまでもない


おじいさん 難色を示す

桃太郎を慕うかぐやに対して最初は兄妹が仲良くて良いと思っていたのだが、かぐやの桃太郎に対する態度に段々と変化が現われていた あれは兄妹としての愛情ではない

おじいさんとしてはかぐやは普通の人間と一緒になるほうが幸せになれるのだと信じていた このような器量の良い娘なのだからできるだけ位の高い貴族に嫁がせてやりたいと思っていた

桃太郎には悪いが普通の人間の男と幸せになってほしいと思っていたのだ 

それはおばあさんも同じ意見だった

一方のかぐやは桃太郎の後をいつもくっ付いて離れなかった

桃太郎は朝ご飯を食べると夕暮れまで帰って来ない

かぐやはいったい桃太郎がどこで何をしているのかが気になっていた

後をついて行こうとすると桃太郎に怒られるので、内緒で後を尾行した 

今、かぐやは険しい山の中をぐんぐん進む背中を見失わないように追いかけていた

夏草のムッとする匂いがして太陽が照り付ける もともと汗っかきのかぐやは全身が汗だくになっていて、所々虫に刺されて体のあちこちがかゆかった ときどき蜘蛛の糸に顔が引っかかって、顔中を指でつまんで糸を取り除いたりもした

とても不快な思いをしているが、それでも桃太郎の事が気になって仕方がなかった

随分先に進んでいた桃太郎はかぐやのことに全く気付いていない様子だった かぐやは桃太郎に気付かれないように後をつけるゲームを真剣に楽しんでいた


男と女

「桃太郎は俺が付けた名前ではない」

お頭は桃太郎の名前の由来と母親についての話をしてくれた

鬼ヶ島で親子喧嘩が終わった後に落ち着いた二人は少しの間だけ冷静に話し合うことができた

自分の母親はルナという珍しい名前だった 白い女と赤い男の間に生まれた子供は桃色だった そして男の子だったからというなんとも安直なネーミングセンスで桃太郎は名付けられたらしい しかも名前は母親のルナが笑いながら軽い感じで言っていたらしい 

「俺は名前なんかどうでも良いと思っていたけど、ルナの付けた名前だからな……」

自分の父親がなんとなくだが母親をとても大切にしていたのだろうということが伝わって嬉しかった

桃太郎は父親よりも強くなってまた戦いを挑もうと思っていた

鬼ヶ島では喧嘩が強いことがすべてで序列が決まるらしい しかし序列といっても名ばかりで何か特権があるわけではなくて単なる名誉なのだそうだ

桃太郎にも半分鬼の血が流れていて、戦闘民族の血が騒ぎ始めたのだった


桃太郎はいつもの修行場に着くと狩猟道具を置いて大きな岩の前に立った

岩肌があって平地となっている場所は桃太郎の修行にはいろいろと都合が良いらしくすぐそばに冷たい川が流れているこの場所が気に入っていた

今している修行は父親が最後に放ったエネルギーの玉を自分も出してみたくて試行錯誤をしている最中だった

ゆっくりとひとつひとつの動作の確認を始める

まず左手を下に右手を上にして丸い玉を包み込むようなイメージを作り、左腰の辺りまでその両手を移動する ここまでの一連の流れの中で掛け声となるようなものがあった方がかっこいいのではと桃太郎は気付いた

試しに自分の名前でやってみようと思った 呼吸を整えて意識を集中する

「も~も~っ」で両手を丸い玉を包み込むようにして

「た~~~」で左腰の辺りまで移動する

「ろ~~~~~~っ!!」ここで全エネルギーを放出させるために両手を前に突き出して両手首はくっ付けたままで何かが出てくる……ことはなかった

桃太郎は小一時間この練習に当てていた 桃太郎、十四歳の夏である

かぐやがこの修行の一部始終をずっと見ていることはつゆ知らずのことだった

修行で汗だくになった桃太郎は着ている服を脱いで川に飛び込んだ

川の水を両手ですくい、カラカラに渇いた喉を潤した

桃太郎は長い溜息を吐き出して大きく息を吸うと川上に向かって泳ぎ始めた

川上の切りの良いところまで泳いだら、川の流れに身を任せてあとは顔の方をぷかんと浮かばせてラッコのように修行場まで流れていった

今日は特に太陽が照り付けて熱い 真上を見るとまぶしくて目が開けていられないほどだ

桃太郎がふと川岸に目をやると最初は何かの錯覚だと思って目をこすった

「あれ?」桃太郎は驚きを通り越して不可思議な夢をみているのかなとも思った

桃太郎は立ち上がり、人のようなものをぼーっと見ていた

それはかぐやで修行場の川岸でしゃがんで川の水を美味しそうに飲んでいたのだった

桃太郎に気付かれて、かぐやは立ち上がり会釈をした

そしてかぐやは服を脱いで川に飛び込んだのだった

どうやらこちらに向かってきているらしい 一糸まとわぬ二人はやがて川の真ん中で落ち合った

今まで意識していないから気付けなかった川の音が桃太郎に今更ながらに「音」として敏感に丁寧に聞こえ始めてきた

エメラルドグリーンの川の色合いと波打つ銀色の光がかぐやの体を纏う神秘的な衣として桃太郎の脳に置き換わった 桃太郎はかぐやをどのように捉えて良いかが正直わからなかったのだ

かぐやは何も言わずに桃太郎を抱きしめた 桃太郎にかぐやのすべてが密着した

「桃太郎……私は初めて会ったその日からあなたのことをお慕い申しておりました あなたの事を本当に愛してしまったのです」

桃太郎はとても複雑な思いでこの状況を受け止めていた

おじいさんから言われたことが今更ながらに頭をよぎった

「桃太郎 いいか かぐやとお前は兄と妹の関係だ もし妹のかぐやがお前のことを慕っていたとしても兄妹で契ることは決して叶わぬ 兄としてかぐやの幸せを考えるならばお前はかぐやがもしお前を求めてきたとしても、断ってかぐやの妹の幸せを第一優先に考えてほしい」

おじいさんから言われた事はすべて桃太郎は理解したはずだった

かぐやに手をつながれて川岸に移動するまでは桃太郎の意識はギリギリのところでおじいさんの言葉を守ろうとしていた

浅瀬でかぐやは桃太郎を押し倒した 二人は上と下になって転がった

二人は本来、兄と妹ではない 親が設定しただけのなんのしがらみもない男と女であることを二人はただただ本能に任せて、確認をし合った


その時はそうだったんだけど

かぐやと桃太郎は別居することになった

桃太郎が鬼ヶ島でもらってきた宝石などが、こちらの世界ではとても高価な値打ちで売ることができた そのお金で宮都に近い場所にかぐやのために新しく家を建てることになったのだ

家族四人で引っ越すならばかぐやはなんの問題もないと思っていたが、桃太郎が修行の場所からさらに遠くなってしまうことを嫌がり、桃太郎だけが今いる家に住む形となった

かぐやは到底納得がいかないとおじいさんにどうして桃太郎だけが離れて暮らさなければならないのかを尋ねた

おじいさんは「それは桃太郎に聞いておくれ」の一点張りとなっていた

かぐやは桃太郎と一緒でなければどこにも行かないと顔を真っ赤にして抗議をした


宮都の一等地に立派な御殿が建てられた 桃太郎の成果で建てられたので桃太郎御殿というべきか おじいさんとおばあさんはこちらに引越しをすでに済ませていた

もちろんかぐやの荷物もすべてこちらに来ていた

御殿に住むかぐやの噂は都中にすぐに広まり、美しいかぐや姫を一目見ようと男女関係なく日夜、御殿の周りには人だかりができていた

かぐやはお構いなしに外に出て、たくさんの人間の脚光を浴びた 男たちは美しいかぐやに対して、尻込みをしてしまって逆に近づいて来たり、話しかけてくるような男はいなかった ただ尊いものとしてかぐやを遠くから見ることができる それだけで十分と言わんばかりに男たちはかぐやを見てはしゃいでいた


かぐやは半ば自暴自棄になっていた

桃太郎と喧嘩をしてしまったからだ 泣きながら御殿にやって来ていた

「その時はそうだったんだけど……」

歯切れの悪い桃太郎の言葉にイライラが募り、かぐやは桃太郎に詰め寄った

「あなたは私が他の男と結婚した方が良いって本気で言っているのですか?」

桃太郎はそう言われると何も言い返せずにもじもじと顔を伏せている

「いいじゃないですか! 私たちは兄でも妹でもないんですよ!赤の他人なんです!いくらおじいさんが二人を勝手に兄妹に仕立て上げようとしたって事実は変わりません 他人っ!たーにーん なーんーですっ!」

かぐやは半べそをかきながら桃太郎に捲し立てた

「しかしな かぐや おじいさんの言うこともわかるんだよ 私の身なりは普通ではないので人とは普通の関係を持てないよ」

「あら残念 私も普通ではありませんからーっ あなたよりも早く竹にみたいに成長してしまいましたからねー 私生まれてまだ3か月ですよ? さあどうですか? 普通じゃない二人? めちゃくちゃお似合いだと思いますけどね~っ!」

「……かぐや……お前はおじいさんとおばあさんのもとに居てやってくれ 私はここに残る」

「桃太郎のバカっ! 何よ 意気地なしっ!」

「桃太郎の意気地なし!あたしもう知らない!桃太郎なんかもう知らない!」

かぐやは家を飛び出して、自分の足で御殿まで走っていった


五名の求婚者

かぐやの噂も広まって落ち着いた頃に、おじいさんはかぐやの結婚相手を募り始めた

瞬く間に知らせは広まって、五名の名だたる貴公子が選考された このうちの一名がかぐやと合意の上、結婚することになっている

桃太郎御殿に集められた五名は学校の教室のような空間に椅子と机を準備されて、大人しくしていた

教室からは廊下の人影が見えた 五名の貴公子たちはその人影を目で追っていた

かぐやは教室に入ると、まるでホームルームの担任の先生のように教卓のような背の高い机の前に立った そして五名の貴公子たちを眺め回した

かぐやはこの五名の誰にも全く興味が沸かなかったが、一人ひとりに思いつくままのあだ名をつけてみた

五名の求婚者を紹介しよう

石作皇子 (仏陀)

「僕のお嫁さんはかぐやが良いので何とかしてください」

仏陀は夕飯どきに母親と父親に思い切って告白をした

「そうね 坊ちゃんにふさわしいお嫁さんと言ったら、かぐやさんしかいないわよね」

母親は仏陀に優しく答えた

仏陀は両親に告白したことで少し、気が楽になった 母親も父親も賛成してくれている

仏陀は恋患いのなのか、自分のお腹のポッコリを確認し、食欲があまりないようで夕飯を少しだけ残した

車持皇子 (足意君)

「あのような美しい女性は僕は今まで一度も見たことがない これは僕の運命の人なのだ」

そう言ってかぐやを嫁にしたいという願掛けをしに、今日も近くの神社で行ったり来たりを繰り返していた 好物のおはぎを断って10日が過ぎようとしている

右大臣阿部の御主人 (韓流星)

「僕の美貌に振り向かない女はいないよ かぐやも必ずや僕の美しい顔の虜になるのさ」

彼は四六時中自分の顔を眺めてはうっとりとしていた

自分のこと以外はあまり興味がないようで、鏡を見る時間をもう少し本を読むなど他の事に当てていればきっともう少し賢い人間になれたのではないかと思う

大納言大伴御行(金目の物)

いったいいくらお金を積めば、かぐやは僕のモノになるのだろうか?

金に物を言わせてというつもりはないけど、手に入れたモノに対して、知らず分からず把握せずということがないようにするべきだと思っていた

かぐやのことは出来れば買い切りで、毎月費用が掛かるのは避けたいなと考えていた

中納言石(磯)上の麻呂 (黄昏)

ものすごく影が薄いので、よく自分だけ名前を呼ばれないことがよくあった

かぐやも注意深く目を凝らしてみなければ、存在を忘れてしまいそうになるほど印象が薄かった


かぐやの計画

暇を持て余したかぐやはこの五名に対して、ひとりひとりにお題を出してあげようと計画を立てていた

「ここに集まっていただいた方たちに私はまずお礼を言わなければなりません こんな私をお嫁に貰いたいと思っていただけた方の中からより選ばれた五名の貴公子に私は心から感謝をしたいと思っています」

仏陀と足意君と黄昏が満面の笑みで拍手をして場を盛り上げた

韓流星と金目の物は場の雰囲気について行けず、呆気に取られていた

「そこのお二人は何かご意見でもおありですか?」

かぐやは二人の表情の機微を見逃さずにぴしゃりと指摘をした

かぐやはなんなら、全員に理由を付けて落第にするつもりでいたので容赦はしなかった

「いえ 何もございませんっ!」

金目の物はかぐやに焦りながら答えた

韓流星はかぐやに自分の一番かっこいい角度の表情を見せて何かを訴えていた

かぐやは何も返答せずにこれからの主旨を説明した

「今日集まっていただいたのは他でもありません 選考の結果たった一人が私と共にこの先の人生を歩んでいく人になるのです なので私からみなさんに恐れながら少しばかりの試練を与えさせていただきたいと思うのです」

かぐやはそう言うとひとりひとりに試練内容が書いた紙を渡していった

五人の求婚者はざわついていた

「……この文字はどういう意味? 何て読むの?」

韓流星がとなりにいた足意君にかぐやからもらった個人別の試練の紙を見せた

「人にみせないっ!」

かぐやは韓流星にきつく怒鳴った

「すっ すみませんっ!!」

足意君は急いで韓流星に試練の紙を戻した

「失格になるかねっ! 本当に気を付けて! 」

かぐやは韓流星にぴしゃりととどめの一言を言い放った

韓流星はすっかりと怯えてしまった

「この試練は私があなたたちに持ってきて貰いたい物です おそらくは一筋縄ではいかないでしょう しかし 今自分の試練の紙の中にある貴重なものを私に与えてくれたのならば特典として、手つなぎデートをして差し上げます さあっ! この特典を手に入れたければ行くのです! 世界を羽ばたいて 冒険を始めるのです!」

かぐやはそう締めくくるとホームルームを終えて、廊下に消えて行った

取り残された五人は、お互いの顔を見合わせて、とりあえず近くの居酒屋に集まることにした


居酒屋で意気投合

「なんか僕はかぐやさんは応援しているだけで満足だな」

足意君がぼそりと呟いた 酒はあまり進んでいない様だった 甘党の足意君は肴のエイヒレをいつまでも口の中で咀嚼していた

「実は俺もかぐやさんは好きだけど、自分が幸せにしてあげられる自信がないんだよね」

仏陀がおちょこに入った酒をグイッと一気にやって言った

黄昏がすかさず仏陀にお酒を注いだ

「うわっ! びっくりしたあっ!」

仏陀は黄昏が隣にいたことに今、気が付いておちょこに注いでもらった酒を少しこぼしてしまった

「ってことはですよ みなさんはかぐやさんを独り占めしたいわけではないという事でよろしいでしょうか?」

韓流星がみんなの意見を取りまとめようとしていた

「うん 僕はかぐやさんが幸せであることが第一であって自分の幸せは二の次でも構わないんだっ! 」

誰よりも酒を飲んでしまった黄昏がおちょこをテーブルにカンッと力強くおいて、興奮気味にみんなに伝えた

金目の物も酒に酔った勢いで立ち上がり、演説をぶった

「よしっ! われらがかぐや親衛隊はこれからもかぐやさんの幸せを願う活動をお互いに声を掛け合ってしていきましょう!!」

今日集まった五人はお互い、初めて顔を見たもの同士だったが意気投合をした

お互い笑い合い、肩を組んで、強い絆が生まれた瞬間を誰もが感じずにはいられなかった


抜いた刀の納めどころ

かぐやは貴公子五名の居酒屋での会合の結論はつゆ知らずに、次の計画を進めていた

五名の貴公子に、愛や恋の他にも友情や団結、挫折や心の成長など複雑な心の機微を経験して人間として一皮むけてもらおうという計画を立てていた

いかに自分への忠誠心を下げずに、ここに集まった貴公子五人を苦しめてやろうかというかぐやの陰湿な性格が現われた計画となっていた

なにせかぐやは暇を持て余していたのだ

居酒屋には五人に配られた試練の紙がほっぽかされていて、紙に書いてあった「かぐやひめのおねだり♡」

という言葉を頼りに後日、居酒屋の店員さんがかぐやに届けてくれていたのだった

かぐやは五人をすぐさま呼び出した

五人は御殿の教室に呼び出されて、間もなく全員が正座をしていた

「これは いったい どういうことですか? 私との手つなぎデートはどうでもよいということなのですかあっ?」

最後の「かあっ?」は、まるでカラスの鳴き声を真似しているように口を大きく開けて

大きな目を見開いて五人を睨み回した かぐやは真っ赤な顔をして怒っていた

「あっ……いや あの……」

仏陀がかぐやに何かを言おうと口火を切った

「ん? そこっ! 何か言い訳があるのか?」

「いえ! 言い訳など何もございませんっ!」

かぐやは口づけをするくらいに顔を近づけて仏陀にメンチを切った

かぐやはよほど怒っていたらしく、それから説教がしばらく続いた

黄昏はかぐやに断りもせず、勝手に用を足しに席を立っていたが、なぜかかぐやは全く気付くことができなかった

黄昏がいないことに気付けたのは黄昏自らが大きな声で帰ってきたからだった

「おお……っ おに 鬼が出た~!! みんな逃げろー!!」

教室の入り口で黄昏は刀を握って何かと向かい合っているが、黄昏はすっかりと腰が抜けてしまっていて、しゃがみ込んで滑るように教室の中まで入ってきて、脅威となる者の侵入を容易く許してしまっていた

教室にいる全員が入り口を見た

「うわぁーっ! 鬼だあ!」

足意君が刀を抜いて、みんなを守ろうを身構えた

それに続いて、仏陀も韓流星も金目の物も刀を抜いて、かぐやを囲んで護衛する形を取った

「桃太郎っ!!」

かぐやは桃太郎を見つけると一目散に走り寄って抱き付いた

以前より立派になった桃太郎の体つきと伸びきったブラウンの髪を見て、目を輝かせながら喜んでいた お姫様抱っこをされたかたちとなったかぐやは、もう周りを見ることもできずに桃太郎だけを見つめていた

桃太郎の後ろから遅れて、赤い肌色の鬼が入り口をかがみこんで入って来た

お頭とかぐやは目があった しばらくの長い時間、桃太郎に抱っこされながらかぐやとお頭は見つめ合ったままとなっていた

「こんにちは」

かぐやからお頭に話しかけた

「……」

お頭はなんとも言えないような表情でかぐやをみつめることしかできなくなっていた

「もしかして、桃太郎のお父さまですか?」

かぐやは桃太郎から降りて、お頭に近付き改めて挨拶をした

お頭の目から生まれて初めての涙がこぼれていた

かぐやは驚いて、お頭に近寄った

「大丈夫ですか? お体の具合でも悪いのですか?」

かぐやはお頭の腕をさすりながら心配そうに聞いた

「……匂いまで一緒だよ こんなことって……」

お頭は膝をついて、何か頭の中でショートしそうなほどの高速回転で脳みそを回し続けた

お頭の頭の中はこうだった

(目の前に突然、妻のルナがいた

でもルナは俺のことは記憶がないようで、今は桃太郎の妻になっている

桃太郎は俺とルナの子供だぞ いったい何がどうなってやがる)

お頭は立ち直り、桃太郎に質問をした

「かぐや……さんは、お前の奥さんってことでいいんだろ?」

「いや、ま」

「はいそうです 私は桃太郎の妻でございます 桃太郎のお父様にお会いできるなんて今日はなんて喜ばしいことでしょう」

かぐやは桃太郎の返答を遮って被せた

かぐや親衛隊は一連のできごとに困惑して、何のことやら事情が呑み込めずに、一度抜いた刀の納めどころに困っていた


桃太郎とお頭

桃太郎は修行場で無意識にため息を吐く回数が増えていった

おじいさんとおばあさんとかぐやと離れて、桃太郎はみんながかつて過ごした家での生活を相変わらず続けていた

月日が経ち、時期は春を越えて、新緑が茂る初夏を迎えていた

思えば鬼ヶ島で父親と喧嘩をしてから一年近く経とうとしている ときどきあの日の事を思い出して、鬼の血が騒いでしまうことがあった

そんなときは父親のような戦い方をするためにはどうすればよいのかを自分なりに考えて山で修行をした

桃太郎は手から何かを出す修行を続けていたのだった 手から何かは相変わらず出ない

もうどのくらい手から何かを出す一連の動作を続けていたのだろうか?自分には手から何かを出す才能がないのではないか?

桃太郎はそんなことを考えて、挫折を味わっていた

もうひとつ、桃太郎の中で何か心にぽっかりと穴が開いてしまっていた

かぐやの事である かぐやがいなくなって初めてかぐやの存在の重要さに気が付いた

おじいさんとおばあさんもそうだけど、桃太郎の中でかぐやの存在が大きくなっていった

かぐやばかりが一方的に自分を愛してくれているというわけではなかったのだ

自分も同じくらいにかぐやを想っていたことに気がついてしまった

修行の途中に余計なことを考えてはいけない 桃太郎は分かっていたが、首をうなだれて、猫背になり、両腕の力が抜けた状態でしばらく放心していた

もし誰かが桃太郎の悲しみに暮れた背中をみたとしたら、それが鬼ヶ島の「喧嘩大好きいじめっ子のお頭」だったとしら……

この衝撃を例えるならば、ものすごい無防備な状態でトラックがいきなり自分めがけてうしろから衝突してきたとしたらを想像してみてほしい

桃太郎は岩肌の壁の方を向いていたが、ふと異変に気付き、日が暮れて薄暗くなった空を見上げた そして桃太郎は後ろを振り返った まもなく後ろから不思議な光に飲み込まれた

衝撃はすさまじく、吹き飛ばされて、岩肌にめり込む形となった

さすがの桃太郎も泡を吹いて気を失ってしまった

「……おい ……おい 息子 生きてるか?」

桃太郎が気が付くと目の前にお頭が立っていた

「……なんだよ 急に 死ぬかと思ったじゃないか! なんであんたがここにいるんだ?そもそもどうしてここにいることがわかった!? 」

桃太郎は首を鳴らして、飛び上がり、臨戦態勢に入った

「ん? ちょっとな 仕事でこの辺歩いてたら ももったっろー ももったっろーって名前を連呼して叫んでいる中二病みたいなやつの声がするからさ、来てみたらお前がいた」


桃太郎は自分の父親に秘密の修行を見られてしまったことに大きなショックを受けていた恥ずかしくなって顔を赤くして俯いてしまった

(もう自分の名前を技の名前にするのはやめよう)桃太郎は固く決心した

「いいか あの技はただ雰囲気や形ばっかりで出せるものじゃないんだ まずは……」

お頭は桃太郎に手からエネルギー弾を放出するために必要な考えを教えてくれた

桃太郎は勘が良いらしく、すぐに体の中にあるエネルギーを一点に集中させることに成功した イメージがとても重要らしいことが分かった

「この放出系の技には段階がある いきなり大きなものを作り出すことはできない 少しずつ大きくしていくんだ」

お頭は桃太郎の人差し指に集まった光を見ながらまんざらでもないという面持ちで言った

桃太郎は自分の人差し指が熱くなっているのを感じていた

「この技には名前がある いいかよく覚えておけ、発砲するときに言えよ シンシュツキボ……」

お頭が桃太郎に技の名前をすべて言い終える前に、桃太郎の人差し指から光の玉がお頭の顎めがけて飛んで行ってしまった お頭は高速回転して空中に放り出されて吹き飛んでしまった岩肌にぶつかり、高い位置からそのまま落下した

「わるい ごめん」

桃太郎は聞こえないくらいの声でお頭に謝った


ご挨拶

お頭は実は桃太郎とその家族に会いに、鬼ヶ島から一人でやって来たのだった

保存が効く鬼ヶ島の名産品や高価な薬品などをお土産に、桃太郎を育ててくれた方たちに対してお礼を言いに来たのだった

「えっ! お前今、一緒に住んでないの?」

お頭は桃太郎の家に着いてまず第一声を発した

「うん おじいさんとおばあさんはかぐやと都に引っ越したんだ」

囲炉裏を挟んで向かい合わせに焼き魚を食べながら会話をした お頭はお酒を飲んでいた

「そっかあ どうしようかな……」

お頭はしばらく考え込んだ 口元に握った両手を近づけている

桃太郎は先程の興奮が冷めなくて、人差し指に光を集めたり、放散して消したりをしていた

「よし、今日はもう寝ることにして明日会いに行こう お前が俺を紹介しろ」

そういうとお頭は横になって眠ってしまった

桃太郎は自分と父親が人の多い場所に行ったら大変なことになってしまうだろうと心配したが、おじいさんとおばあさんとかぐやに久しぶりに会いたいとは思っていた

他の人間に見つからないようにすれば平気かなとも思った


みんなでご飯

「さあさあ みんなでご飯にしましょう」

おばあさんは大きな鍋にたくさんの野菜を味噌で味付けをした鍋を用意した

お椀には白いご飯が山盛りになってそれぞれに渡された

お頭は右手で頭の後ろを掻きながら、照れくさそうにおじいさんとおばあさんに挨拶をして、鬼ヶ島のお土産を渡した

「そんなお気遣いなく」

おばあさんは桃太郎にするような優しい笑顔でお頭に言った

お頭はおばあさんの顔を見ていると心が休まるような安心感を覚えた

大勢で食べるご飯は美味しかった

仏陀と金目の物がつまらないことで喧嘩をしている

「人の味噌汁に箸を突っ込むなってんだよー」

足意君がご飯のお替りをしに、四つん這いになってお櫃に向かった

先にやって来ていた黄昏にご飯をよそってもらった

かぐやが楽しそうにお頭に話しかけている

お頭もかぐやを懐かしんでいた

韓流星は刀を抜いて、刀に映る自分を見ていた

おじいさんはお歌を披露して、桃太郎とおばあさんは笑い転げていた

仏陀が大声を上げているが、全体が賑やかなので当たり前の雰囲気として溶け込まれていた

ご飯を食べ終えるとお頭はすぐに帰ると言い出した

おじいさんとおばあさんとかぐやは止めたのだが、意思は固かった

「では、息子のことをよろしくお願いいたします」

お頭はおじいさんとおばあさんに深々とお辞儀をした

「うんうん」

おじいさんは笑顔で頷いた

「かぐやさん、こいつが不甲斐ない場合はいつでも鬼ヶ島にやって来てください 制裁してやりますんで」

「桃太郎はいつも頼りになる最高の旦那ですよ」

おじいさんがそれを聞くと少し顔の表情が曇ったが、おばあさんは納得して受け入れているようだった おじいさんもおばあさんの態度を見て、しょうがないなと笑った

お頭は人間の友達がいるということで、そこに寄ってから帰るとのことだった


放課後もずっと一緒に

翌日、かぐやは五名の貴公子たちを教室に呼び出していた

全員が揃うと、かぐやは教卓に立って話し始めた

黄昏が少しだけ遅くやって来たが、かぐやはちゃんとそれに気が付いて全員が集まってから話を切り出した

かぐやは謝罪をして、親衛隊の解散を宣言しようとしていたのだった

「みんな、この間は本当にありがとうございます 久しぶりにとても楽しい時間でした」

かぐやが次の言葉を話そうとしたときに足意君が言葉を遮って話した

「かぐちゃん もうそういうの抜きにしましょうよ」

「そうだよ もう僕らは桃太郎兄さんのことも大好きだしさ かぐちゃんをこれからも親衛隊としていろいろ応援していくぜ」

仏陀も足意君に続いた

「かぐやさんのことも守らなければならないけど、桃太郎兄さんのことも俺たちで守っていかなきゃだよな」

黄昏が椅子から立ち上って全員に言った

「しばらくは人の目が気になると思うけど、桃太郎さんが安心して住めるように僕たちが周りのみんなに働きかけていこうよ」

韓流星も続けて言った 韓流星は普段自分のこと以外に興味がないと思っていたのだが、この発言は皆が驚くほど素晴らしい提案だった 拍手が起こった

「私ができることは、しばらくこの家に泊まり込んで経済的にも身の回りのこともお手伝いしたいと思いますいかがでしょうか?」

金目の物はかぐやに提案をした

「桃太郎兄さんとかぐや姫が安心してこの地で暮らしていけるためにオレたちかぐや親衛隊がお二人をお守りします」

かぐやは感動して、物理的に言葉に詰まってしまった

涙と嗚咽で言葉がぐしゃぐしゃになってしまって何を言っているのかわからない部分もあったが感極まるかぐやの想いはこの場にいる全員の心の中に届いていた

「桃太郎やおじいさんやおばあさん、ブッタやアッシー君、韓流スターやカネメさんや黄昏たちとずっとずっと楽しく暮らして生きたい……ちゃ」

それから桃太郎とかぐやは親衛隊のお世話になって日々を過ごした

まるで放課後もずっと一緒にいる友達のような毎日が楽しい日々だった

足意君が車を出して、夜に蛍をみんなで見に行った

金目のものが大きいスイカを持ってきてスイカ割りした

韓流星は仏陀と黄昏と演劇を練習しておじいさんやおばあさんと桃太郎とかぐや姫に披露した そのころになると少しずつ周りの住民たちも桃太郎のことを理解し始めており、お客さんも呼べるようになっていた


喜怒哀楽

かぐやの姿がしばらく見えなくなっていた

ある日、心配した仏陀がおばあさんに聞いてみた

なんとかぐやは桃太郎の子供をお腹の中に授かったということだった

仏陀は教室に急いで戻ると、全員を集めて周りを少し警戒した後におばあさんから言われたことを全員に伝えた

「え~!!」

全員は驚いた 感情が混沌としていて何を思えば良いのかが分からなくなっていたのだ

喜怒哀楽を一つずつ整理していくと最終的に喜びの驚きであると全員は認識した

廊下を桃太郎がとぼとぼ歩いている

親衛隊は全員でニヤニヤしながら桃太郎に近付いた

しかし、桃太郎は放心状態で誰の言葉も頭に入って来ないというような状況だった

いくら自分の子供が生まれたことが驚きのことだったとしても喜怒哀楽を一つずつ整理していけば、おのずと自分の気持ちはわかると思っていたが、桃太郎の感情は喜でも楽でもないようなまた別次元の感情のようだった

桃太郎は親衛隊を認識できずに、そのまま歩いて過ぎて行ってしまった

「いったいどういうことだ?」

親衛隊は顔を見合わせた

旧暦8月15日

かぐやのお腹が日に日に膨らんでいった

妊娠の兆候はあって、その頃からかぐやは親衛隊たちとは距離を置いて、安静に一日を過ごすことが多くなっていった

そしていつの頃かかぐやは桃太郎やおじいさんやおばあさんまでも、避けるようになってしまった

そのうち、かぐやは部屋の内から鍵を掛けて、誰とも会う事がなくなってしまった

食事や水分補給も全く取らないかぐやを皆が心配した

「大丈夫です、今は開けないでほしい」

声を掛けるとそればかりとなった

桃太郎もおじいさんもおばあさんもどうすることもできずに、ただただ見守るばかりとなっていた

部屋に閉じこもって3日目にかぐやはやっと部屋から出てきた

朦朧としているかぐやを桃太郎は抱きしめて、転倒しないようにした 

おじいさんもおばあさんもただただ心配な表情でかぐやを見ていた

かぐやは何も言わずに桃太郎からそっと手で返して離れた

桃太郎とおじいさんとおばあさんの目を順番に見ながら、とても礼儀正しくお辞儀をした

一体何が起こっているのかが桃太郎にもおじいさんにもおばあさんにも分からなかった

「私はやっとのことで今の状況を理解することができました おそらくは皆さんに大変お世話になっていたのでしょう」

かぐやはまるで突然別人になってしまったかのように口調で語り始めた

「私は、ある目的のために地球にやって来ました その目的が達成できたので自分の国に帰らなければなりません」

かぐやは左手で自分の大きなお腹に触れ、桃太郎の左頬を右手で優しく触れた

「あなたは桃太郎さんですね あなたに会うために私は生まれてきました あなたのおかげで私の使命は果たせます できることならあなたと過ごしたかぐやの記憶を私にも少しだけ分けてほしい気持ちです あなたのことを本気で愛していたかぐやは、残念ながらもういなくなってしまいました 私の人格にはまた違う人生があります そして私にも愛する人がいます」

かぐやの右手に温かい雫が垂れ落ちた

「そんなのは嘘だっ! なあ! かぐやっ! 冗談なんだろっ!」

桃太郎はかぐやにもう気安く近寄って触れることが出来ない雰囲気を感じ取って、足や腕がかぐやに触れるための一切の行動に制限が掛かってしまったかのようになってしまった


「あなたを都合よく利用してしまったことに対して心から謝罪します そして私に鬼の子を授けてくださいまして誠にありがとうございます」


「もうそんな 聞きたくない もっとかぐやっぽい言葉で話してくれよっ!」

かぐやは涙を流した 上を向いて 何かと戦っているような表情で唇を噛みしめている

「これ以上、ここに居たら私の使命が果たせなくなってしまいそうですね」

かぐやは外に出て、大きな月を見上げ、月からの迎えを待った

あとから五人の親衛隊も何事かとかぐやに追いついた

「ちょっちょっと、桃太郎さんどうなってんですか?」

足意君が桃太郎に質問をした 桃太郎は生気を失って黙っていた

「かぐちゃん! どこ行こうっての? あなたのお家はここでしょ!」

仏陀がかぐやに叫んだ かぐやはまるで聞こえていないかのように月からの光のベールに包まれていった 光の糸は透明な繭のようになって、かぐやを宙に浮かび上がらせた

もう、桃太郎は心が壊れてしまって何も反応しなくなっていた

かぐやが月にワープして消えてしまう瞬間、かぐやは振り返り、そんな桃太郎の表情をみて何かを思い出したように手で叩いて桃太郎を気付かせようとした 桃太郎は無気力にただ偶然、月の方向を見上げた

最後に振り向いたかぐやの顔は桃太郎の知っているかぐやの顔だった

顔を真っ赤にしてムキになる 泣き虫 とても優しくて、自分に正直で とってもとっても素敵な女性 

最後に見たかぐやの泣きじゃくる顔を見て、桃太郎の心は完全に壊れることはなく、持ちこたえることが出来たのではないかと思う


おわり


おまけ

金太郎

かぐやは月に戻って、無事に出産をした 

子どもは男の子で、金色の髪が美しく、肌は白色だった 鬼の血を立派に引いていて頭頂部に角が生えていた 吸い込まれてしまうほど美しいキャッアイの宝石のような瞳だった

かぐやは名前をつけるときに白太郎か金太郎かで迷った 結局「どちらにしようかな神様の言う通り」で金太郎になった

金太郎はみるみる大きくなって、鬼の力を十分に発揮し、政府軍を追い詰めて、レジスタンス軍を勝利に導いた

彼は大変な功績を残して伝説の英雄と呼ばれ、後世に語り継がれたのだった

そしてものすごい女子にモテていた

かぐや

かぐやは金太郎が大きくなると、不死の国からいなくなっていた

噂によるとまた地球に行って桃太郎のところに押しかけに行ったのではないかということだった 最近の月の科学では地球への行き来はとても容易い

結局はかぐやのどちらもが桃太郎に一目ぼれをしていたのだろうと推測する


最後に

前世の記憶を持ったまま、生まれ変わるとはどういう罰なのだろう

かぐやが犯した罪は、自害すること

かぐやが受けた罰は前世の記憶が残ってしまうこと

昔話を例にあげると浦島太郎が一番残酷な罰を受けたのではないか

あの人は本当に可哀そうだった

人は死ぬと、今までの経験や知識や記憶を「思い出銀行」に預けて、そして生まれ変わりの準備を行うのが常識だった

浦島太郎は竜宮城へ行ったまま帰らぬ人となったが、300年後に生まれ変わり、おじいさんになったときに突然、300年前の前世の記憶が呼び戻された

一つの魂に人格は一つだけしか宿れない 浦島太郎は甦った前世の記憶をもとに、自分の住んでいた家にたどり着くが、朽ち果てて見る影もなく、この間まで一緒に暮らしていた母親もとっくにこの世には存在していない 婚約者は待たせたまま、別れることすらもできずにそれっきり 乙姫との竜宮城での日々も生々しく頭の中で思い返すと、それは罪悪感として苛まれてしまうものだった

浦島太郎は目線を下げ、自分の両手を見つめた 皺だらけの干からびた両手

この世にいる時間がそんなに長くないだろう それが唯一の救いだった

もう取り返しのつかない苦しみと絶望をただ心に傷付けるだけの時間を与えられたのだった

前世の記憶を残したまま生まれ変わるということはこういうなのではないだろうか


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