オムライスをつくりましょう
「江口先輩、卵が足りないのでは? 4個食べたいだなんてワガママいうから……」
「だってさ、まるごと全部に卵がのってないとオムライスっぽくないし」
「その気持ちはわかりますが……」
私は冷蔵庫の中を覗き込んだ。おかしい、つい数時間前までにはなかった材料が、なぜか続々と増えている。玉ねぎや、牛乳やキャベツにしめじまで。
「あれ、どうして……」
「実はさ……2人でいつも作ってるだろ? 使うかなって思って材料買ってきたんだ。だから使っていいよ」
「そうだったんですね。じゃあ、遠慮なく。でも、江口先輩って、料理できるんですか?」
「当然ながら、できないよ。そんなの、オレが美奈と一緒に作るつもりだったに決まってるでしょ」
「先輩、美奈っていってます。呼び捨てはやめてくださいってば」
「わかったよ、美奈」
守る気などまったくないらしい。冷蔵庫の奥の卵を1パック取り出し、ボウルに卵を割っていく。
「私は別でやることあるんで、とりあえず卵をかきまぜてください」
はい、と菜箸を江口先輩へと押し付ける。
「え、オレ素人なのに?」
「『一緒に』ってことは、やるんですよね?」
「……やるよ」
冷蔵庫の中を再び覗く。鶏肉があれば良かったけど、流石に常備してるものでもないし……ベーコンにしよう。取り出したベーコンをざっと1cm角程度に切って、フライパンに入れる。さらに細かく切ってあったニンジンと玉ねぎを、バターと共にフライパンに入れて炒めはじめる。
「美奈、かき混ぜ終わった」
ちらっと江口先輩の方へ行き、ボウルの中身を確認する。
うーん、まだ白身と黄身がうまく混ざり合っていない。
「まだダメです。箸を立てて卵を切るように溶いてください」
「え、これでも駄目なの? 厳しくない?」
江口先輩の言葉をスルーして、コンロに火をかけた。
「厳しい……」
江口先輩はかげりを見せつつ独り言のようにいい、再びカシャカシャと菜箸をかき混ぜはじめた。いわれた通りに、菜箸を立て卵を切るように。さて、私は私でやることがある。フライパンにご飯を盛り、ケチャップを加えて炒めていく。そろそろだろうと江口先輩のところへ卵をみにいくと、均等に混ざり合っている。これなら、焼き上がりはキレイに仕上がるだろう。
「もう大丈夫です、ボウルもらうんで、お皿の準備とかしてもらえますか」
「意外とこき使うねぇ」
「『一緒に』やるんですよね?」
「もちろん、やるよ……」
棚から食器を取り出し、ランチョンマットを用意しているのを確認し、ケチャップライスの味を塩コショウで整え、別皿に避けて盛った。
さあ、ここからが本番だ。
「半熟のふわとろ卵と、固めの卵とどっちがいいですか」
「オレ、固めの方が好きなんだよね」
「わかりました。どのくらい食べるんですか? お皿にご飯を盛っておいてくださいね」
私は半熟派だけど、それなら江口先輩は固めにしよう。
フライパンにサラダ油を入れていく。中火にしつつ、ぐるりとフライパンを回して淵まで油を広げていった。さっと卵液を入れていく。菜箸で中央あたりをざっとかき混ぜ、まんべんなく火を通すようにした。フライパンを手早く回しながら、穴がないようにしていく。卵が半熟より固めになった程度で、余熱で火を通すようにすればいいだろう。
「できました」




