覚悟を決めないと。
どうしよう、まさか一緒に住むのが先輩だとは思っていなかった。でも、もう実家は出てきてしまった。いまさら戻るなんて、しかも原因が私をフッた初恋の相手がいるからだなんて――いえない。
いや、ダメだ。
私はいまだにトラウマを脱却できないままだ。見た目だけは磨いたけど、中身はあの時の――自分のまま。なんとか、これをきっかけに自身を見直すチャンスかも。意を決して一緒に住むよ、とユキちゃんの部屋を訪ね伝えると安心したのか「よかったあ!」と両手を握って大喜びされた。
ユキちゃんの部屋に入り、さっそくの深夜の女子トークがはじまった。
「ね、美奈。駿くんも瑛太くんも、どっちもカッコいいでしょ? 毎日眼福なのよ」
「いや、カッコいいとは思うけど……?」
2人の顔を思い出す。再び脳裏をチラつくのは江口先輩の顔。私はどういえばいいのか迷い、カラカラと音を立てグラスの中のアイスティーをかき混ぜた。
「実際ね、ちょっと狙ってはいたんだけど、なんかイマイチな反応だから諦めちゃった。もう私は他に彼氏つくっちゃったし」
サッパリとした口調で、ユキちゃんはアイスティーをごくりと一口流し込む。
「あれ? じゃあ、どっちかが由紀ちゃんの彼氏ってワケでもないんだ?」
2人ともを下の名前で呼んでいたよね? てっきりすごく仲が良いものだと思っていたのだけれど。それも全部友達として、なのだろうか。
「そうだよぉ。なんか最初はイケメン二人だし、ラッキーなんて思ってたけど。どっちも押しても引いてもダメだった。でもどっちかが美奈に脈アリなら、付き合えばいいんじゃない? それならめちゃくちゃ応援するよ」
いや、こんなかわいいユキちゃんがダメなら、もう打つ手なしじゃない?
それに、なにより片方は一度玉砕しているし。
「脈はないかな、というかきっと印象は……マイナスだろうし、私はいいや」
レモンの皮の苦い味が口の中で広がる。
ただでさえシェアハウス、ということでいっぱいいっぱいなのに、そこに恋愛が絡むとさらに疲れそうだ。まあ幸いにも向こうはこちらに興味がない。友達までとはいわないが、せめて普通に話す程度には……男性を直視できないこの性格を。
沈んだ気持ちと共にカラン、とアイスティーの中の氷が落ちていった。