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ひとりでやらないで

ねむい目をこすり、ふわあとあくびをひとつした。課題をこなしていたら遅くなってしまうなんて。なかなか進まなかったのは自分のせいだけれども。


 シャワーを浴びて、ドライヤーを使って髪を乾かす。すると、バンッという音と共に、反転したような暗さが襲った。


 視界すべてが闇の中。


 どうしようかと一瞬戸惑うが、今の音は――きっとブレーカーが落ちたんだろう。誰かが助けてくれる、という他力本願ではいけない。ブレーカーならば、だいたいは玄関の扉の上に設置されているはずだし。そう思って、壁に手をそえたままゆっくり歩く。


 玄関先にたどりつく頃には月明りになれてきた。

 おぼろげにブレーカーの形がわかる。けれども、高いところにあるブレーカーまでは手が届かない。どうしよう、か。


 清水くんは今日はまだ帰っていない。大学に泊まり込みするっていっていた。そういえば江口先輩なら……戻ってきて部屋にいたかもしれない。でも、もう、今は深夜の2時。寝ていると思うし、迷惑だろう。


 でもブレーカーをこのままにしておくわけにもいかない。翌朝、家電が使えなくなるのが困る。なにより冷蔵庫が一番困る。本当ならば傘とかで押し上げることがと思ったけど、開閉するタイプの扉がついているため、そうもいかない。周りを見やり、踏み台になりそうなものを探す。


 少しアンバランスな椅子しか見当たらない。とはいえ、少しブレーカーをあげる程度だ。なんとかもつ、だろう。そろそろと椅子の背もたれを掴み、あがろうと足をかけると――


「ちょっと! 美奈ちゃん」


 耳元で声が届いて、椅子にかけていた足を止めた。いままさに乗ろうとしていた椅子の背もたれを強く握りしめていたのは、江口先輩だった。


「美奈ちゃん、何やってるの」

「ブレーカーが落ちたから」

「そんなの俺がやるから、起こしてくれれば良かったのに」


 少し息が荒い。もしかしたら、廊下を走ってきたのかもしれない。つまり私が椅子に登る前に……間に合うようにと?


「でも、寝ていると思って。それにこんな夜中に迷惑――」


 声音は怒っている――のだと思った。

 でも暗がりでみえたのは心配するような表情。

 

「危ないから、とにかく椅子はダメだ」


 催促され、手を差しだされたが、それをやんわりと「大丈夫です」と拒否する。


「美奈ちゃんさ。昔から、君は頑張りすぎなんだよ。どう考えても、踏み台で暗い中、作業をするのは危ない。それもたった一人で」


 いわれた言葉に返すことができない。


「キライなのはわかるけどさ。でも同居人でしょ、オレら。ここで怪我したら、もっと迷惑かかるだろう、とか周りを少しだけ考えてほしいかな」


「……すみません」


「うん、いいんだ。オレとして――わかって欲しいのはさ、『一人でやろうとしない』ってことかな。力ちから仕事、高いところ、他にも困ったこと。そのあたりは当然、瑛太がいいんだろうけど、いない時はオレにもいってくれれば」


 江口先輩は気まずいから、言い辛くて――でも。でも、怪我をしたらさらに迷惑をかけるのは事実だ。


「わかった?」


 まるで昔の江口先輩を見ているようだった。あの時と面影が残っている。高校時代と同じ口調で。連日、一人で仕事を抱えて苦しんでいた時に、何度も何度も――いってくれ、助けてくれて、力になるから、と。


「ごめんなさい」

「うん」

「次から、江口先輩も、頼るようにします……なるべく、ですけど」


 まだ緊張して口が震える。

 でも最初に比べればマシだ。

 ここにきたときよりもだいぶマシ。

 泣くな、踏みとどまれと自分の心の中を奮い立たせる。


 ふっと清水くんの顔が脳裏に浮かぶ。

 私、強くなりました、頑張ってます、と心の中で――彼に、何度も伝えた。

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