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清水くん編③ 「もしかしてまだ」

 彼女は江口が好きだった、それも2年間の間。

 今の俺に、恋愛期間が長いというべきのか、それとも短いものなのかを判断する術はない。


 ただ、事実なのは――

 大塚さんが静かに、声を押し殺して泣いていたこと。

 

 ――おそらく、もう恋愛面では十分だと苦しんでいること。


 それはつまり、俺の中に湧き出てきた感情の行く末は叶う術はないということだった――。



 ……恋愛は面倒そうだと拒絶していた。

 相手が何をして欲しいのか、どうしたいのかがわからない。どこに遊びに行くにも相手の都合を聞かなきゃいけないだろうし。どうしてわざわざ、みんな手間と時間をかけてまで彼女を作りたがるのか。そんな事をいつも思ってたっけ。


 でも――彼女大塚さんといて、こんなに楽しいとか、話したいとか、会いたいとか――もっと一緒にいたいとか……そんなことばかりだ。これまでは深く考えたことなかったのに。 


 泣いていた大塚さんは、恋愛なんてもうこりごりだと思ってそうだ。なんでよりによって、一番望みがなさそうな相手に。こんなのは絶対に無理だと思わず深くため息をついてしまった。


 それでも――……。



 ***


「一応、聞くけど合コンいく? 今週末の夜なんだけど」

 

 友人に聞かれ、俺は首を振ることで否定を示した。

 友人といっても、互いにとって江口の方が親しい上、連絡先だけ辛くも知ってはいる程度。2人で遊ぶことは絶対にない友人だ。


「だよなあ、お前が最初だけ顔を出してくれるだけでも――女子受けを狙う点でも都合がいいんだけど」


 人寄せパンダのように扱われて、いい気持ちはしない。

 

「いや、用事があるから」


 そういって返すと、江口がその場に現れた。どこまで聞いていたのか、「最近、付き合い悪い気がする」とチラリと俺を見やりながら。


「いや……もともと合コンに、いってなかったけど?」


「合コンそっちはね。ただ、俺らとあんまり遊ばなくなったし――まっすぐに帰ることが多くなったよね。最近になって、なんでかな、って」


 江口は俺の瞳をまっすぐに見る。


 ……それについては否定しない。


「本当に用事があるからだって」と、事実を告げる。


「だからさ、もうハッキリいうけど『5点のミナちゃん』だろ?」

 

 江口の言葉に、「え? なに、過去最低点じゃない?」と、友人――江口側の友だけど、が口を開いた。


「確かに用事は彼女だけど、課題を一緒にするだけだって」


 俺の言葉に、友人は「ちょ、何々? 部屋で課題を一緒に? 夜に2人きりって、本当にソレって課題だけで済むのか――」といったところで、むぐ、と江口の手で口を封じられている。


「ふぅん。まあ、また今度聞かせてよ。とりあえずさ、時間決めようぜ」


 そういって、江口は友人を連れて行った。

 

 改めて江口に言われて、付き合いが悪くなったのかもしれない。実際、そうなんだろうなと思う。


 早く家に戻ったら、大塚さんがいるだろうか、とか帰ってきたときに「おかえり」といえるだろうか――そんな些細な、本当に些細な話すきっかけを探している。何か用事を作ればその分、一緒に居られる時間が増えるのだから。他の人間なんて目もくれずに、まっすぐに帰りたくなる。


 今週末の課題だって――楽しみだ。

 別に付き合う必要なんてない。

 ただシェアハウスの中で一緒にいれば、会っていればいいだけなら、話すだけならそれ以上の関係なんて望まなくたって。


 ただこの時の俺は、その単純なだけだった小さな喜びが、日を追うごとに募り――だんだんと強く切なく、苦しくなって――ひどい衝動に駆られてしまうほどのものだとは――


 この時の俺には、思いもよらなかったけれども。

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