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思い出の江口先輩

 春の彩りと花の香りが日本中に広がる、そんな季節が巡ってきた。


 悲しさとむなしさ真っ只中のあの高校生活をすっとばし、大学生になった私は手軽な荷物を持ち、彼女(ともだち)が住まうシェアハウスのピンポンを鳴らした。


「美奈ぁ、きてくれたのね」


 ドアを開けてくれたのは、私の一番の親友・ユキちゃんだ。

淡い栗色の巻いた髪の毛、ぱっちりと大きな瞳。くるくると変わる愛らしい笑顔。彼女の嬉しそうな顔に思わず笑顔になる。歓迎の証にぎゅっと抱き着いてきた。


「うん、ユキちゃんとなら一緒に住めるなと思って。今日からでも大丈夫?」

「もちろん! うれしいよ、助かるぅ」


 軽やかに返して私を離したユキちゃんは、私の手をとってそのままシェアハウスに引き入れた。どんな子なんだろう、ユキちゃんみたいに話しやすい子だといいな、そんなことを考えて。


 ユキちゃんは戸棚からグラスを持つ。氷を入れたアイスティーを手慣れた様子で作ってくれた。テーブルに置き、ソファーへ腰かけてくれと手で合図される。


 「一緒に住もう、シェアハウスだし、家賃安いよ!」と、誘われていたことを思い出す。家具はあるから着替えだけでいいとのことだったから、すぐさまスーツケース片手に実家からでてきたところだった。


「共有のリビングだから、好きに使って大丈夫。片付けさえ自分でやれば。それに困ったときは同居の子がさ、色々やってくれたりするしさ。あ、ちなみに美奈の部屋は私の隣だからね」


「ユキちゃん、そういえば、他に誰が住んでるの?」


「そうだね、せっかくだから紹介するよ。ちょうど部屋に2人ともいるし」


 彼女がコンコンと、リビング近くの扉をノックすると出てきたのは――男の子2人だった。私は異性であることにまず声を失い、思わず持とうとしていたグラスから手を離し、口に手を当てる。


「紹介するね、美奈ちゃん! 私の親友だよ。今日からここに住むからね。こちらが清水瑛太(えいた)くんとぉ――」


 ユキちゃんの言葉に、清水瑛太くんと呼ばれた男の子がこちらを見た。髪の毛は黒髪のマッシュスタイルで、物優し気な雰囲気で、背が高く白のオーバーシャツを着ている。きりりとした眉とすうっと通った鼻筋の。ソファーから立ち上がって、私は慌てて会釈をした。


「江口駿くん! どっちもイケメンでしょっ?」


 こちらの髪の毛は緩やかなウェーブとダークブラウン。爽やかな水色のパーカーを着ていて――そして顔をみて、私はそのまま直視、いや凝視した。


「はじめまして」


 彼は、雰囲気こそ大人びて変わったものの、私を高校時代にフッたあの江口先輩だ。間違いない。


……はじめまして?


 どうやら、高校生時代の卒業式。いや、それ以外にも。私の事を全く覚えてないようだ。胸がちくり……いや、ずしりと痛む。思わず顔がゆがんでいたかもしれない。目を逸らしながら、とりつくろうように何とか言葉を絞り出す。


「は、じめまして……」


 脳裏にチラついたのは、当時の記憶。告白した時の――心底迷惑そうな先輩の表情と侮蔑の視線。


 思い出したくない過去を思い出し、私の声は少しだけ震えていた。

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