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それでは、ハンバーグを作ります

「ハンバーグ、好きなんだ。自分で作れるようになりたい」 


 いえ、なんとなくそうだと感じてましたが、それほどまでにハンバーグを……。かわいらしいところがあるな、と思わず頬が緩む。


「簡単ですから、大丈夫ですよ。要するに最低限の材料を混ぜて焼けば良いだけなので」


 煮込みもノーマルハンバーグも食べたいという清水くんの切なる願いに応じ、たくさん作ることにした。ゆえにお財布と相談の結果、牛100%ではなく、合い挽きとなった。大きめのボウルを出してもらう。


「たまねぎ入りなら、少し手間はかかりますが……」


 どうします、と視線で促す。


「……たまねぎ入りがいいな」

 

 いいづらそうに、私をちらりと見た。時間と面倒じゃないかどうかを、気にしている様子だ。玉ねぎ入れた方が、甘みがでるからなぁ。ある程度の野菜は取れるし、確かに満腹度もアップする。そちらの方がいいだろう。


「別に手間じゃありませんよ。ただ単に玉ねぎをみじん切りにして炒める手間が加わる程度で。もちろん、清水くんにやってもらいますからね」


「それは当然、やるよ」


 清水くんは嬉しそうに目を細めて腕まくりをして、手を洗う。玉ねぎを手に取って、あれ、といった。

 

「この玉ねぎってやたらと冷えてない? なんで?」

「冷蔵庫に入れておいたんですよ。じゃあここでクイズです、なんで冷えてるんだと思います?」

「え……、なんでって……炒めた時甘くなるから?」

「ハズレです。切った時に目が痛くなりにくいんですよ」


 へえ、と雑学に目を丸くした。うんうん、こういった野菜や料理のコツをお伝えしながらもアリかもしれない。ラップをしてチンもいいけど、せっかくだから料理に慣れてもらおう。フライパンで玉ねぎをざっと炒めてもらい、荒熱をとってもらう。


 合いびき肉とパン粉、牛乳と卵をざっと入れていき、練ってもらう。


「手の体温が伝わって、脂が溶け出しやすくなっちゃうんで、手早くで」

「了解」


 ビニール袋を両手につけると、ぐっとタネを混ぜていく。清水くんは手が大きいので、私より労力が少なくてすみそうだ――まあ、この程度誤差なんだろうけど。


「次は、一人で作れそうですね」

「うん、だけどさ大塚さんと一緒に作る方が、なんだか楽しいよ」


 さらっと口説き文句のようなことを言ってくる。

 そういえばユキちゃんいってたな。「天然女子キラー」だって。


 でも。

 いわれて嬉しいような、嬉しくないような。

 その言葉を他の子にもいっているのだろうか、どんな女の子にもいってるのだろうか――そんな黒い気持ちが湧き上がってきて素直に喜べない。だめだ、まるで嫉妬みたいな、気持ちが湧き上がってきて。だから、こんな発言も本気にすべきじゃない。しちゃ駄目だ。


 思わず自分で自分の頬を叩きたくなった。


 ――清水くんは彼氏でもないのに、何を期待しようと。

 馬鹿なことを。


「ありがとうございます」


 即座に切り捨て、愛想笑いで返した。違和感を覚えたのか、清水くんは私に怒ってる?と聞いてきた。


「怒ってないです」

「でもなんか、眉間にシワが」


 清水くんはビニール手袋を外すと、私の眉間をツンと指でつついた。


「本当はラップをして冷蔵庫で30分ほど寝かせたほうがいいんですけど、もういい時間ですし焼いちゃいましょう」


 頬の熱を誤魔化すように席をたって、”アイスティーを飲みに行きました風”を装った。


「あまり大きくしすぎると中まで焼けませんし」


 フライパンを出し、タネを成形し並べていく。真ん中あたりを押してへこませ、ぐにゃっと歪む。


「この作業は真ん中の火を通りやすくするためですよ」

「やるよ」


 フライパンの上のタネの中央を押す。力が強すぎたのか、ハンバーグのたねは割れてしまった。ちょっとだけ悔しそうな表情を浮かべ、清水くんは手で丁寧に楕円形へと戻していく。思わず笑みがこぼれる。


 コンロに火をかける。焼きあがるときに焦げ目をつけるよう、ひっくり返して様子をみた。もう大丈夫そうだ。菜箸で一つだけ取り出し、皿に盛る。小ぶりな箸に持ち替えふうふうと息を吹きかけた。


「良さそうです、こちら、ちょっと食べてみますか?」

 

 横に立っていた、清水くんに箸の先のハンバーグを向ける。すると清水くんは躊躇したのち、箸の先にあったハンバーグのかけらを自身の口に放り込んだ。……ん、これって、なんだか。


 ……所轄「あーん」という、恋人同士がやるヤツでは。


「うん、おいしい」


 ……たぶん、気づいている。だからさっき躊躇したんだ。いわれたから引けないというか、言わなかったのは私に気を使ってくれただけで……これは恥ずかしかったはずだ。その証明をするように清水くんはほんのりと頬を染めつつ、戸惑いがちに私を見てきた。


「美味しい、ですか……」


 どうしよう、どうしよう。

 まだハンバーグは1口ぶん残っている。でもこれ、清水くんに食べてもらわないと、なにせ箸が。私が食べるわけにも……。


「じゃあこっちも……」


 私は腹をくくった。もう1回、箸にとって清水くんへとハンバーグのかけらを差し出す。清水くんは照れつつ、食べてくれた、けど。


「……美味しい、です」


 ……清水くんが再び敬語になってしまった。照れると敬語になるのかも。というか、そうだった。恥ずかしいのは私よりも食べさせられた清水くんだったのかも。今頃気づいたけど、箸を本人に渡せばよかった、なんてことをさせてしまったのか。申し訳なさが勝る。


 ごめんなさい、じゃあ私にもどうかハンバーグを食べさせてください、とでも? いや、それはそれで恐ろしい事態に、バカップルじゃないんだから。清水くんは手の甲で口元を隠すようにして視線を私から外している。なんだか可愛らしく――じゃなかった、ごめんなさい……と何度も心で謝りながらもハンバーグの焼ける音だけがキッチンを支配していた。


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