表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/36

清水くん編② 「彼女は何点?」

 部屋のノックが響き、ドアに向かって「はい」と返答をした。誰かを確認する前に、扉が開かれ江口が部屋へ入ってくる。


「どうかした?」


 問いに答えぬまま、江口は俺の真横に座る。お互い気の置けない関係だから、その点は構わないけれども。江口はニヤリと楽しげにしつつ、肩に手を置いた。何だ?と思っていたら


「瑛太ってさぁ、料理してるよね? 最近。美奈ちゃんと」

「けっこう楽しいよ。作れば食費も浮くし」

「そうなんだ。楽しい、ねえ」

「どうかした?」


 それは、わざわざ部屋にきて話すことか?


「いや、別に。じゃあさ、オレもやってみようかな」


 江口の急な提案に、言葉に詰まった。先日までは面倒だとかいってたのに、意味がわからない。


「……どうして急にいうんだよ」

「え? 今、自分でいってたじゃん。楽しいし、食費浮くって。それならさ、オレも『美奈ちゃん』に教えてもらって――」

「駄目だよ」

「どうして?」

「いや、その」


 ――どうして? 自分でも反射的にいってしまった。いまの大塚さんは、まだ江口に苦手意識がある。それどころか、男性そのものに。まだ早いと思う……うん。何かが心の奥で引っかかり続けているけれども。


「美奈ちゃんって料理上手い?」

「上手いよ」

「オレも食べてみたいな、頼んだら食べさせてくれるかな」


 江口の意図が読めない。そもそも、別に大塚さんじゃなくたって、いいはずじゃないか。頼むんだったら、他にいくらでも相手が……


「うまくなったら、俺とやればいいじゃん」


 江口に返すのはそれが精一杯だ。こっちの言葉に江口はふうん、というと、肩に手を置かれた。妙に食いついてくる。


「まぁ、だからさ、オレがいいたいのは美奈ちゃん、ってカワイイよな? ってこと」


 ……過去に彼女をフッた奴がなにを。思わず眉をひそめてしまった。意外な反応だと思ったのか、じっとこちらに顔を向けたままで。


「何が言いたいのかわからないな」

「ほら、お前と仲いいからさ。どうなの実際。気に入った?」


「良い訳じゃない、仲の良さなんて普通で……飯田さんと一緒くらいだし。料理を教えてもらってるだけの――だから、持ちつ持たれつの関係」


「……いつも通りだって? じゃあさ瑛太、彼女は何点?」 


「俺は基本的に採点しない。誰相手でも。江口は何点っていいたいの?」


「5点かなあ」


 回答に再び眉をひそめてしまう。


「かわいい、っていう割には低いな……」


 しかも、相当に。

 聞く分にはこれまでの最低記録かもしれない。


「だって、話しかけても微妙じゃん。逃げるし、声が小さいし、ハッキリしないし、うじうじしてさ」


……事情を知らないからだろう、といいたいが知られたくはないかもしれない。彼女の名誉のために黙っていよう。それに、そこは克服しようと努力している途中だ。


「……仕方ないだろ、男性が苦手なんだってさ」


「だから、そういう体ていで誘って、瑛太が狙われてるんじゃないの? って話」


「それは絶対にない。あり得ない」


 むしろ、という言葉を飲み込む。


 ――彼女は江口のことをまだ好きなんじゃないのか。だから――


 そんな気持ちが胸の奥で渦巻く。


……でも、それなら。

 どうして、江口が好きだったんだろうか。 


 様々な疑問が脳裏に浮んでは消える。

 

「なんだ、お前に彼女ができて面白くなるかと思ったのに」


「それより自分だろ」

「俺は78点以上の子を探してるし」

「78点以上を見たことないけど」


 理想が高くて、と誤魔化された。

 そうだ、江口は一度だけ、べろべろに酔った後にいっていた。


『心から好きだって、そう思える、そういってくれる――そんな子が、いたらいいのに』


 その後、酔いが覚めた後に誤魔化したけれども恐らく、江口の本音だろう。


 78点じゃないと付き合わない、もただの女避けであって、本音では探しているんだろう、恋焦がれる相手を。どうしようもなく好きだといえる相手を。


  そんな人がいるだろうか?



 江口が100点をつけるのはどんな状況で――


 そして、それはどんな子なのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ