瑛太と仲いいの?
数日経過し、ありがたいことに今のところ、阿鼻叫喚のキッチン事件以外には何も起こっていない。というより、全員が課題で忙しくて、それどころではなかったというのが一番の理由だ。
雨続きででかけるのが億劫だ。そんな日は家でカフェでもやろう。
グラスに半分ほどの牛乳を入れていく。大ぶりの割った氷を入れた。そこに濃いめのコーヒーを作り、上からそっとかけていく。ホイップが余っていたな、これをアクセントとして――そうだそれなら、とカバンの中からコンビニで買ったホワイトチョコレートを取り出した。ラップに包んで、薄めのホワイトチョコレートを砕いて入れていく。うん、これは美味しそう。
お次は、ユキちゃんの大好きなアイスティーだろうか。レモンもいいけれど、純粋にアールグレイの紅茶でもいいかもしれない。お湯を沸かし、まずは濃いめに紅茶を。こちらにも大ぶりの砕いた氷をいれる。ちらりと冷蔵庫を覗くと炭酸水を見つけた。そっと注ぎ、シュワシュワと涼し気なアールグレイティーができあがった。これでチェリーかハーブがあれば彩りが完璧だったのに。
じゃあこれを……持って行ってユキちゃんと一緒に課題を進めよう。
部屋へ戻ろうとした瞬間――
「ナントカ美奈ちゃん。器用だねぇ」
その声に私の肩がびくりと震えた。振り向かずともわかる。
「江口先輩……」
「ん。俺らあんま話したことないけど、美奈ちゃんは、最近どう? 元気?」
「ええ、はい……まあ」
駄目だ、うまい返しがどうしても思い浮かばない。なにかいわなきゃ、と思えば思うほど、空回りしてしまう。
振り向かない私に業を煮やしたのか、江口先輩は真横に立ち、斜め上から私の顔を覗き込んできた。顔を、あげることができない。
「美奈ちゃん……どっかで見たこと……? んー、なんか見覚えがある気がする」
――心臓が冷えそうになった。
不思議なものだ、以前は覚えていなかったことに動揺したのに、今は思い出しそうなことに動揺している。別に、隠すようなことでもないのに。
「美奈ちゃんはさ、瑛太と仲いいの? ……というより、ズバリ狙ってる?」
その質問には違う、と言葉より先に首を左右に振った。もちろん、清水くんと仲がいいというより、狙っている、という点での否定だ。そんなつもりは毛頭ない。
「違います」
辛くて、苦しくて、悔しくて、みっともなくて。そして、一番はとても悲しくて――。
二度と、もう恋はしたくないと――私は、あの時に誓っていたのだから。
その人物が、目の前で、私にその質問を問いかけている。
「そっか、別にそれぞれ恋愛は自由だけどね」
明るい声の調子は崩さず、江口先輩の足音はキッチンから遠のいた。
まだ少しだけ緊張するけれども、だいぶマシになってきては、いる……。
清水くんに心の中でたくさんの感謝を送る。
雨はまだ続いている。洗濯ものがたまっていることに気づき、ため息をついた。




