表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【天使】養殖(2)

作者: AMAKA

上着のすそを持ち上げ、自身のわきから上を包んだ巾着たちが、手にした刃物を外に突き出し、大通りの人々を襲いはじめ、少女の親友もまた巾着化……。

 少女の周囲はもう、次々に逃げ出す恐慌状態の人群れであふれてて。


「キンチャクレ……キンチャクリテ、キリサケ……」


 うわごとめいてつぶやく襟紗鈴えりざべるが、巾着から突き出したナイフ振り振り、強引に道つくってさまよい離れていくんを追いかけようとして。


 足を止め、見ひらいた少女の目。


 巾着に追われてきたらしい、いくつもの横路からなだれこんで来たいくつものパニック集団が、いまこの瞬間、この大通り、彼女の目の前で合流しよった。


 刃物を手にした巾着らよりも恐ろしい、膨れあがった押し寄せる暴走を、少女は魅せられたみたいに見つめ……。


 群衆に踏みつぶされる寸前、乱暴にえり首つかまれ、ビルとビルの隙間へ引っぱりこまれよった。


「手のかかる【爆心予定者プレグラウンドゼロ】そかり。あれに肉体労働をさせるな」


 引っぱりこんだとき痛めたらしい手首ぶらぶらさして、見知らぬサングラスの美女が顔しかめて少女に言い、


「お嬢ちゃん、あぶないとこやったな。怪我ないか?」


 とは、美女の隣に立つ長身猫背の男。


 少女は憤然と声上げて、猫背男をのけぞらせよった。


「誰も助けてほしいなんて頼んでません! 襟紗鈴ちゃん見失っちゃったじゃん、さよな……!」


 ら、まで言い終えられんかったんは、目の前の見知らん美女がサングラス取ったから。


 煮えながら透きとおるワインとマグマのカクテルみたいな、深こうて赤い瞳。


 絢爛たる金髪に、艶めいた褐色の肌、そこへ色素欠乏アルビノを思わせる赤目。


 こんな取り合わせの人間を、少女はいままで見たことあらへん。


 生きものとして美しい……そう、思た。


「少し黙れそかり、【準民】。ただでさえ聞き苦しい【準弁】で、この状況を前に言えるのがその程度とは」


 馬鹿にしきった口調の金髪赤眼美女。


 じゅんみん? じゅんべん? ぽかんてなるしかない少女。


「【神女しんにょ】はん、少々お急ぎになったほうが……」


 男がうながし、美女はうなずき。


「さて娘、なむちは親友を救いたいそかり? そのためにどんな犠牲を払える? たとえば、命を懸けれるか?」


「……懸けれます!」


 ほぼ反射的、衝動的に飛び出た回答に、【神女】はじつに満足げに口角持ち上げ、


「聞いたか【天使長】、感想は?」


「へえ。標準弁のお人は手軽に命差し出しまんなあ」


 ぽつっとつぶやいた男に、やっぱしうなずいて、


「感心そかり。『カミカゼ』を生んだだけはある」


「わてらではこうは行きまへんわ」


 少女に向きなおり、男はさとすみたいに、


「あんなあ、お嬢やん。たとえ言葉上のやりとりちゅうても、生命をそう軽うにあつこうたらあかんで。ノリや状況いうもんにいちいち流されとったら、助かるもんも……どないしたんっ? わて、なんか言うた?」


 声ひっくり返ったんは、少女の頬を粒のでかい涙が伝い落ちよったから。


「……かわいそう……」


「かわいそうて、え? わてが? なんで?」


「……せっかくこんな素敵な国に生まれてきたのに、そんなおかしな言葉づかいで人生過ごさなきゃならないなんて……!」


「ほんな……!」


 愕然と二の句が継げん【天使長】。


「しゃーっしゃっしゃっ」


 手ぇ合わして爆笑する【神女】。


「合格そかり! 汝ならその『素敵な』同情ですべてを救えよう! 聞け、いまから汝に【天使爆弾】を落とす!」(『【天使】養殖(3)』に続)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ