骸と運命の回収者
綺麗なんて一言では表せない幻想的な草原。彼方先は無限に続く地平線のようにさえみえる。ここを「運命」の最終地点とした勇敢な戦士、それと共鳴したかの如く色鮮やかに朽ちた旧式と新型の蒸気式戦闘機たちの墓ともいえるこの草原で1人。
かつて自身を”運命の回収者”と自称していた男。美しい銀髪は肩まで延び、全身を茶色のローブで身を包んだ高身長のミステリアス風な青年。男はこの残骸たちが残した最後の名誉ある痕跡とも言える装備品、部品を回収しそれを売却することを生業としている。
男には、反感したものとも言おうか、はたまた彼の敵とも言うべきだろうか定かではないが、そういう者たちに名付けられたもう1つの名がある。
"回収者"ではないもう1つの呼び名。
揶揄と歪が生み出した災厄の二つ名。
"骸の商人"
彼をこう呼ぶ者は次第にこの呼び名を伝播に伝播を重ね、遂には本人の耳までそれは伝えさせたのであった。
だが奇妙なことに、この男はこれを揶揄と知ったうえでこれを受容し、包み隠さず自身のことをそう名乗るようになったのであった。
バタン。。。!!
深夜の閉店準備中の空虚な木造の古い店の入り口で何者かが倒れる音が大きく響いた。
「はあ!?ちょっ、大丈夫ですかっ!!!」
店内のいた若い女がそっと近づいて大きな声でそう荒げた
「、、、少しばかりで、良い。、、、何か食わせてくれ。。。金なら、有る」
「今すぐ持ってきますから!!ちょっとお待ちを!!!」
倒れたのは青年の男。細くやせ細った体はまるで骸のようで、健康という言葉から大きく乖離し、今すぐにでも昇天するのではないかという不安を帯び立たせる。女はその不安を早く解消させるかのように颯爽と、廃棄処分予定だったかのようなパンと早く持っていくという彼女の思考が彼女の身体に追いつかないのか自身の手に水をこぼしながら青年に近寄った。
彼は壁に寄り添いながら食事を頂いた。ゆっくりと胃を攻撃しないように。優しく。そして食べ終わったかと思えば青年は感謝の一言もなくそのまま
夢に溺れた。
「ちょっと?大丈夫、、ですか??」
客が入ってきたかと思えば急に人が倒れて、急に食事を要求されて、そのまま倒れちゃった。え、これ、もしかしてリフィーディング症候群(極度の栄養不足が長期間の場合に、それを回復させようと急激に栄養を摂取することで発症する。最悪の場合死に至る)起こしてないよね?いや、そもそも量もそんなにあるわけじゃないし、ゆっくりと食べてたし、流石に。。。
まあ、、、一旦、取り合えずこのまま寝かしておこう。明日は幸運なことにもお客さんもこない休日だ。しかも連休。私も、自室に戻って寝よう。
小鳥のさえずりが空気を伝って青年の耳へ届いた。
「ん。。。眩しいな。」
夢というなのグラスに注がれた液体が底を尽きたようだ。彼に見えているのはもう現実なのである。
「あ、良かった、死んでなくて。朝ごはんならそこの机の上に置いておきましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「、、、昨夜は突然済まない、ご迷惑をおかけした。今も含め心から感謝いたします。。」
「いいのよ、私の店にあなたが入った時点であなたはもう私のお客さんなんですから。そのお客さんに私の敷地で餓死なんて絶対にさせませんよ。」
青年は昨夜とは打って変わってがむしゃらに朝食を食べた。
「それでは、料金の方が、、これくらいになりますね」
紙にペンで書かれた料金表に含まれていたのは、晩御飯代、朝食代そして宿泊代。そう何を隠そうこの女、結構お金にがめついのである。
「ああ、ちゃんと支払うよ」
そういって青年は怪しげな長方形型の箱を身についているモノのポッケから取り出した。
「ちゃんとこの中に入って、、、いや、待てよ。」
「まだ"換金"してなかったな、、。俺の命の恩人よ、今日が給料日なんだ。本当に申し訳ないが近場なんだが少しばかりついてきてくれないか。」
「は?え、ちょ?」
彼女が反応に遅れている間にも青年はそういうと急いで店を出て、外の舗装もされていない土の道を走りだした。それは彼女にとって大事なお客さんから無銭飲食野郎に変わった瞬間でもあった。
「っておい待ちやがれ!!そういって食い逃げするつもりだろ!!!」
彼女はやけに戦闘に突起していそうな物騒な見た目のほうきを取り出し、茶色の髪が太陽に照らされ風になびかせられながら小柄な体で素早く、青年と同じ道を駆け抜けるのであった。
青年にとっての近場は彼女にとっての近場とはたいそう大きくかけ離れるものであった。
彼女がやっとの思いで彼が先ほど入ったであろう怪しげな建物に到着したと同時に彼もまた建物内から出てきた。
「命の恩人さん、どうぞ、これ先程の分、全額。そして感謝代も少々」
そういうと小さな袋を彼女に渡した
「はぁはぁ、、、やけに早いわね、さっき入ったばかりじゃない」
「まあただの給料日ですからね」
「取り敢えず、、、ちゃんと確認するわ、、ってなにこの額」
「私が提示したものと大きく、、違うじゃない」
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、、全然。むしろ、、多すぎなくらい、よ」
感謝代と言われた金額は彼女の想定を大きく覆すものであった。なにせ彼女が青年に対し提示した金額の
100倍近くが入っていたのである。これには驚きを隠せないわけがなかった。
「良かった。それでは、命の恩人さんありがとうございました。またどこかで、天命に導かれた時会えることを楽しみしております。」
背の高い青年は未だ動揺を隠せれていない彼女に手を振りどこか遠くへと向かうかのように、道というべきかわからない彼にとっては運命に導かれた道なのかもしれない通路を呑気に歩いていくのであった。
「ちょっと待って!!!」
女の声が大きくとどろいた。青年も歩くのをやめ振り向く。きょとんと不思議な表情で彼女の顔を見る。
そんな動きを待たずに再び彼女は大きく声を響かせる
「人に何かを聞くとき、まず自分自身からその内容を語るのが礼儀!!」
「私の名前はクト・セリシール!!街はずれの飲食店”フイユローズ”を営む店主をやっている!
そこであんたに聞きたい!あんた一体どこの誰なんだ!!」
青年は不思議な表情をやめ納得するように一瞬そらした視線を彼女の方に再びあて、同じくらい響き渡る声量で返答した。
「申し遅れて悪かった!!命の恩人さん!!いや、クトさんよ!」
「俺の名前はギィレア・ヴァプール!!戦場の跡地を駆け巡って"回収屋"をやっている!!」
「そして!!またの名を、、、」
「"骸の商人"という者だ!!」