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新米おばけの2度目のハロウィン

作者: ここのひ

◯pixivでフリーとして公開しているものです。

●無断転載はおやめください。

ぼくはおばけ。今年で1才になる。

初めて人間の世界に行った時は怖くておびえてた。でも、もうへっちゃら!だってたくさん練習したからね。大きな口で驚かすのも上手くなったし、物陰に隠れて触ったり後ろにぴったりくっついたりも出来るようになった。まぁ、たまにバレちゃうんだけど…

そんなぼく、今日は朝からウキウキしてる。

だって今日はハロウィン!

ぼくね、ずっと待ってた!

隠れたりせず堂々と人間の世界に行ける日。人間の友だちに会える日。1年前に泣きべそかいてたぼくを見つけて、『友だち』って言ってくれた、あの子にまた会える。あれからちょっと大きくなっちゃったけど、わかってくれるかな。

覚えてくれてるかな。

あ。

そろそろ行くみたいだ。


「待って!ぼくも行くよー!」


○o。.


「ふわぁ、1年ぶりだ」


1年ぶりの人間の世界は暗くて明るくてとても賑やか。この日だけはおばけ達も人間に混ざって一緒に過ごせる。だからお話しても大丈夫なんだ。周りもお話してて楽しそうだなぁ。

あの子はいるかな。

キョロキョロと辺りを見ても見つからない。


「こっちかな」


お店がある方へ進んでみても


「いない…」


隣の道の方へ行っても


「…いない」


見つけられなかった。

誰かに聞こうとしてぼくは気づいた。


「名前…聞いてなかった」


それだけじゃなく、住んでる所も、会える場所も、ぼくは聞いてなかった。これじゃ探せない。


「どうしよう…どうしたら…」


右へ左へ行ったり来たりを繰り返しながらぼくはぐるぐると頭を回転させた。するとぼくはあるモノに気づいた。


「ここ、あの時のお家だ」


1年前あの子に連れられ、一緒にトリックオアトリートって言った場所。今日も子どものおばけ達が列を作っていた。

そうだ。おじいさんとおばあさんに聞いてみよう。

ぼくも列に入って順番を待った。


「おじいさん、おばあさん、あの子はどこにいるの?」


順番がきたぼくは挨拶やハロウィンの合言葉も忘れてあの子の事をたずねた。


「あの子だって?いったいどの子だい?」

「あ、あの、あのね…」


どうしよう、なんて言ったらいいのかわかんないよ…


「い、1年前、ぼ、ぼくと一緒に…」

「もしかして、あの泣き虫おばけさん?」

「そ、そう!」

「まぁ、大きくなったのねぇ」

「それじゃあ、あの子っていうのは」

「ぼ、ぼくと一緒に来た子の事なんだ」


見てない?と聞いてみると、おじいさんとおばあさんは顔を見合わせた。


「その子は体調を崩しててね。家にいるって聞いたなぁ」

「ここから2軒隣の青い屋根のお家よ」

「2軒隣の青い屋根のお家に、あの子がいるの?」

「おそらくベッドで休んでると思うわ。お見舞いに行くの?なら、お菓子を持っていっておやり」


おじいさんとおばあさんはぼくに2つの袋を持たせてくれた。それぞれの袋はお菓子でいっぱいだった。


「ありがとう!ぼく、行ってみる!」


おじいさんとおばあさんに手をふり、ぼくは2軒隣の青い屋根のお家に向かった。


「ここかな…」


大きな家だ。明るいから誰かいるみたい。でも入り口には誰も居ない。さっきのおじいさんとおばあさんは入り口に立ってたからお話出来たけど、こういう時はいったいどうするんだろう…。

すると大きな塊が明かりのついた目をパチリとさせて近づいてきた。ぼくが驚いて端っこに行くと、すーっと空いているスペースに入ってきて止まった。他のおばけ達が言っていた、くるま、っていうやつらしい。そこから男の人が下りてきた。たぶん、ここのお家の人だ。「あ、あの…」と声をかけようとしたけど、それより早くお家に入ってしまった。


どうしよう、どうしよう…!


困ったぼくはふらふらと男の人が入っていった扉に近づいた。

すると「様子はどうだ?」という声が微かに聞こえて、ぼくは耳をすませた。


「まだ熱が下がらないわね」

「そうか…。今日は病院はしていないから、下がらなければ明日病院に連れて行こう。今はどうしてる?」

「2階でよく寝てるわ」


2階…。とぼくは上を見た。屋根の近くの窓からほんのり明かりが見える。


あそこかな…。でも勝手に入っちゃ…。


ぼくはすごく悩んだ。でもどうしても顔を見たくて。心配で。ふわふわと屋根の方へ飛んでいった。明かりが見える窓にはベッドに寝ている子がいて、ちょうど女の人が部屋を出る所だった。

女の人が部屋から出たのを確認して、ぼくは「ごめんなさい」と小さく謝った。窓を触るとカラリと開いた。そーっと中に入って、静かに窓を閉めた。

ベッドに近づくと子どもが寝ていて、あの子だとすぐ分かった。熱があるのか頬が真っ赤だ。


「大丈夫かな…」


ペトっとおでこに触れるとじわじわとあたたかさが伝わってきた。やっぱり、かなり熱があるようだ。ぼくは熱がないからよくわからないけれど、なんだか辛そうだ。

もう一度ペトっと触れる。すると「きもちいい…」と小さな声が聞こえた。


そっか、きもちいいんだ…。


それなら、と、ぼくは時々場所を変えて触り続ける事にした。

せめてこの夜の間だけ。

たまにお家の人が様子を見に来るから、その時は影に隠れてた。いなくなったらもう一度。ぼくはずっと側に居続けた。

空がほんのり色を変えだした頃、顔の赤みはだいぶなくなった、気がする。よかった。

ぼくも帰らなきゃ。

本当は帰る時間なんてとっくに過ぎてる。明るくなる前に必ず帰らないといけないのだ。


「お話、したかったな」


でもそれはまた今度にしよう。

窓に向かいかけて気づいた。

お菓子置きっぱなしだった。

机に置いてあったお菓子を枕元に。でもこれだけじゃ誰からかわからない。


そうだ。手紙をつけよう。


見ると机に紙とペンがあった。


ちょっと借りるね。


ぼくは紙に字を書いた。ガタガタだし時間もかかったけど、なんとか書き上がった。

外は更に明るくなって、日が顔を出しそうだ。


「いけない。早く帰ろう」


ぼくは自分の分のお菓子も置いて、窓から外に出た。光を避けて影を通って、溶けるように消えた。

あの子が元気になりますように。

残した手紙と2つのお菓子袋に気づいてくれますように。


『トリックオアトリート

おかしくれないから

いたずらしたよ

あつかったねつを

つめたくしたよ

またね

おばけより』

『新米おばけのトリックオアトリート』の続編として書きました。

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― 新着の感想 ―
お化けが一才になるという発想力にビックリし、会いたかった「あの子」に優しいイタズラをしたラストにジン……ときました。この物語は、時々思い出したくなります。
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