昼休み
うだつの上がらない人生。
そう思って生きていたけど。
今にして思えば、
上がるべきものもない人生だった。
いつでも俺は、脇役だった。
クラスの一軍なんて遠すぎて、二軍の……補欠とでも言うべきかな。
いや、俺がいなくても別に誰も気にも留めなかった。
そういう意味では、変に目立っていじめられもしなかったんだ。
……と、そう思うことにした。
両親は大人しい人たちだった。
でも、いつもどこか寂しそうだった。
俺が良いことをしても、悪いことをしても、何も言わなかった。
でも弟が生まれて、二人が笑うようになった。
それと同時に、俺の役目は終わった。
高校を卒業すると同時に、体よく家を追い出された。
でも、虐待されなかっただけ良かったと思う。
義父さん、義母さん、七年間育ててくれてありがとう。
お別れの日にそう言った時、初めて義父さんと義母さんは微笑んでくれた気がした。
だけど、俺が玄関へ背中を向けた瞬間に聞こえてきた扉の閉まる音と、鍵がかかる無機質な音は、あれから五年が経った今でも、ふとした瞬間、耳の奥に響く時があったよ。
弟に嫉妬することはなかった。
むしろこれからも元気で生きてほしい。俺の分まで。
俺は目立てない。体も強くないし、勉強も得意な教科もなく、苦手な教科ばかりだ。
親に喜んでもらえるようなことは何一つなかった。
俺が誰かの為に役に立ったことなんて、一度でもあったのかな。
社会に出ても同じだった。
何をしても足を引っ張る。早々に雑用係になった俺は、果たして必要だったのかな。
誰にでもできる仕事。でも誰かがやらないといけない仕事。
そんな耳障りの良い言葉を目撃しては自分を慰め、誤魔化した。
それが間違ってるとは言わない。
だけどそれは、いつでも誰かに、簡単に代われる仕事ということだ。
だから……、今、俺は車に轢かれてしまったけれど、きっと会社には影響なくて。
明日も、来週も来月も、来年もきっと地球は回っていて。
あと三年もすれば、俺のことはもう誰も覚えていなくて。
はは……もっと早いかな?
なんだかとってもすっきりと、でも虚しくなった。
きっと、今は何も夢や希望を持っていないからだろうな。
昔は、こんな俺でも欲しいものはあったよ。
マンガ? 違う。ゲーム? いや違う。
彼女? いや、そんな大それたもの、畏れ多いや。
たった一人でいいから、心から信頼できる友達が……。
仲間が、欲しかった。
面白ければ一緒に笑って、辛ければ分かち合い励まし合って……。
ちょっとした壁にぶつかれば相談し合って、また何かで笑い合ってそして……何か一つで良いから、仲間と一緒に、成し遂げたかった。
遥かな山頂を目指してみたり、貧乏旅行で汗を流したり、何か作ってみるのもいいなぁ。
視界が暗くなっていく。
暗い部屋の中、蝋の火が弱っていくように。
周囲の慣れない喧騒が遠ざかる。
そっと部屋のドアを閉じると聞こえなくなったリビングの笑い声のように。
痛い、辛い。
眠い…………。
くそう…………っ!
なんでそんなこと、死ぬ間際に思い出すかなぁ………………。




