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ファーストキス

10年も前の話だ。

僕たち月城一家は、父さんの運転する車で遊園地に出掛けていた。嬉しかった、楽しかった、幸せだった。だけどその帰り道で、悲劇は起こった。


いわゆる自動車事故、にあったのだ。対向車線から大きなトラックが突っ込んできて、父さん、母さんは即死だったそうだ。

僕だけがほんの少し意識を残している状態だった。


黒煙をあげる車体。血のような夕暮れ。その景色は忘れられない。

空中を游ぐようにしていたそいつ……悪魔が、僕に囁いた。


助かりたいか。生きたいか。お前が望むなら、力を貸してやろう。さあ、契約だ。


伸ばされたその手を、僕は自分の意思でしっかりと握ったのだ。


僕の命を助けて、と。


その日から、僕の身体の半分は悪魔のものになったのだ。悪魔がそう望んだ、僕もそれを受け入れたから。



「それ以来、友達はもちろん恋人だって作らないと決めて生きてきたんだ。僕の身体の半分は悪魔の力を宿してる。……僕の命は間違ってるんだよ」


レティシアは唖然としている。口許を細い指で覆い隠し、小さく震えながら呟いた。


「嘘です」

「嘘じゃない」

「それでも、嘘です」

「本当のことだよ」

「だって!創人さまからは邪悪な気など一切感じません!わたしは天使です、悪魔の気配がわからないわけがありません!」

「じゃあ、試してみる?」


太陽を背にしていても、僕はレティシアのように逆光で輝かない。忌まわしさだけが際立って影を縁取る。


「僕が本当に身体の半分を悪魔に売り渡したかどうか、調べる方法は知ってるんだろう?」


本当はこんなやりかたは間違っている。

彼女を汚すような真似は間違っている。

それでもわかってもらうためには、提案するしかなかった。


レティシアは逡巡する間をほとんど見せずに立ち上がった。

僕にゆっくりと近づき、抱き締めるように身体を密着させる。


そして僕が身を屈めると、桃色のやわらかな唇が、そっと僕の唇に重なって。


きっと、彼女には……罪の、苦い味がしたことだろう。

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