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屋上のカラス

「天宮さんってハーフなの!?超かわいい~」

「最近まで海外にいたの?」

「でも月城の彼女なんだ!?いがーい!」

「ねぇ、同棲してるってマジなの!?」


朝から主に女子からの怒濤の質問攻めに遭い続けながらも、ふんわりとした笑顔でなぜかうまく対応していた天使を、僕は昼休みになってようやく捕まえた。


「レティシア、昼休みだから。ご飯食べに行こう。ね」

「はい、あなた様!どこまでもついて参ります!」


ぱっと立ち上がって金の髪を棚引かせながら僕についてくるレティシアを、男子生徒たちの目が自然と追う。


頭が痛いなぁなんて思いながら、僕はひとけのない屋上へと彼女をいざなった。


「レティシア。どういうつもりなのか説明をしてほしいんだけど」

「はい!わたしは創人さまのおそばにおりますために、予め学園生活を円滑に送るための準備をしていました。ですから、転入日の今朝、あなた様にわたしの身分を明かし愛を告白した次第です!」


にこにこと無邪気に笑う彼女に、僕の分の弁当箱を押しつけながら頭を抱えた。

昨日まで平和なぼっち生活を続けていたのに、日常とはこれほどまでの急展開を迎えることがあるのか。あっていいのか、こんなこと。


「とりあえずお腹すいてるだろうからそれ、食べて。簡単だけど手作りだから。腹は壊さない……と思う」

「まあっ。では、はい、あーん。あなた様」

「一応訊くけど何してるの」

「まずはあなた様にひとくち」

「僕はいいの!ただでさえ胃が痛いんだから勘弁して!」

「……ご迷惑でしたか?」


かたり、と箸を弁当箱の上に置き、レティシアは長い髪を風に靡かせながらこちらを見据える。潤んだ瞳で。


「わたしに好意を寄せられることは、創人さまにとって迷惑なことなのでしょうか。お嫌でしたか?けれどもわたしは、本気であなた様をお慕いしております。おいそれと浮ついた気持ちでここにいるわけではありません。どうか、わたしの心を汲んでくださいませんか」


女の子を泣かせるのは主義に反するし、これほどまでに熱烈に語られては無碍にしがたいものはある。

でも僕は、どうしても彼女に伝えなくてはならないことがあった。


「君は僕につがいになってほしいって言ったよね」

「はい」

「けど僕は結婚できないんだ。悪いけど、諦めて欲しい」

「……ご年齢の問題でしたら待ちます。それに、わたしにお気持ちが向かないというのならこれから努力して……」

「違うんだ」


そう。違う。これはそんな易しい問題じゃない。


それを彼女は、レティシアは知らない。


調べなかったのだろうか。気付かなかったのだろうか。


僕があまりにも、人間すぎたから。


「創人さま、何か深いご事情がおありのご様子……よろしければ、わたしにお話くださいませ。なんでも受け止める心積もりですから」

「そう。それなら、言うけど」


立ち上がる。

真昼の太陽を背中に浴びながら。

僕の黒い影に、純白の心を持つ彼女がつつまれる。


「僕はさ、半分悪魔なんだよ。だから天使の君とは相容れないんだ」


そう告げたとき、ばさばさと羽音を立てて烏が空を横切る音がした。


それ以外は静寂、だった。

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