社会的抹殺天使
なんとか遅刻はせずに済んだものの、僕の頭の中はずっとパニック状態が続いていた。
そしてそれは朝のホームルーム中の今も続いている。何故なら。
「転入生の天宮レティシアと申します。皆さま、何卒よろしくお願い致します」
清楚な制服を身につけた天使が、先生の横に立っていたからだ。
なぜ。なんで。なに。
僕の思考回路が白くなる。さすがに天使の翼は出していないが、輝く金色の長い髪も黒々とした瞳も家に置いてきた彼女そのものなのだ。
天使が転入生ってなんだよ……どういうことなんだよ……
僕だけじゃない。レティシアのあまりの美貌、清冽としたオーラにクラスメイトたちはざわつき、釘付けになっている。これでもし彼女が僕に話し掛けてきたら、クラスのカーストでは決して上の方にいない僕は社会的に死ぬだろうなと直感したそのとき。
「えー、天宮の席は月城の隣だな」
その担任の一言がトドメ。
さらさらと砂になりそうな僕を見つけると、彼女はぱっと顔を輝かせて駆け寄って来る。
「創人さまっ。お会いしとうございました!」
嬉々として美しい声を上げる転入生に、ついでに僕に、全員の視線が集まる。
「ご安心くださいませ。これからのわたしは昼も夜もあなた様のおそばにおります。はい、お忘れになった鍵も閉めて参りましたのよ。これからよろしくお願いしますね、わたしの大切な創人さま」
とろけるような微笑。
甘美な動作で取り出す僕の部屋の鍵。
僕は、社会的に、死んだ。