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そんなことより遅刻する

「えーっと、あー、レティシア、さん?だっけ」

「どうぞレティシアと。ああ、あなた様に名を呼ばれるこの喜び、なんと表したら良いのでしょう。胸から溢れてしまいそうだわ」

「いやあのまず、ちゃんとした説明をしてほしいんだけど……その、状況とかの?」

「あらまあいけない。わたしとしたことが」


ごめんなさい創人さま、と居住まいを正した彼女の桃色の唇は、確かにあの小鳥と同じ可愛らしい色を持っていた。


彼女がいうことには、つまりはこういうことらしい。


自分は天界の天使である。毎日姿を小鳥に変えて、下界にやってきていた。僕の部屋のベランダで羽根を休めていたところ、僕がパンくずや水を施しては構うものだから、恋をしてしまった、と。


……うん、どういうこと?


「君は確かに綺麗だけど天使より不審者なんだよな、今のところ」

「ではこれで信じていただけますか?」


再び柔和に微笑し、レティシアはなんとどこに隠していたのか背中から純白の翼を大きく広げた。ばさり、と。


窓からの逆光に縁取られたその翼は神々しく、肩からさらりと流れる金糸のような髪も相俟って美しさもひとしおだ。


空中を舞った羽根を優美な手つきで捕まえると、レティシアは僕に向かって無邪気に差し出した。


「どうぞ、創人さま。わたしは天使です。信じてくださいますか?」

「あ、うん……作り物じゃ、ないみたいだしな」

「創人さま。わたしはあなた様のつがいになりたい。あなた様のいのち尽きるときまで寄り添って、ずっとずっとお慕いしてゆきたい。どうか、このわたしを」


娶ってくださいまし。


つま先立って耳元へ身を寄せられると、甘い香りが鼻腔を擽り、優しい声が耳朶に響く。


彼女が僕に回そうとしている腕は白く細く、押しつけられた胸のやわらかな感触にぼうっとしそうに……



……って。


「そんなことより」

「はい?」

「そんなことよりっ!このままじゃ遅刻するーーーー!!!」


僕の叫びにレティシアは面食らい、当の僕は焦って制服のブレザーを着ながら捲したてる。


「今日は学校があるんだ!だから悪いけどいたいなら一日ここにいて!出ていくならええと、窓から小鳥になって出ていって!ごめんっ、本当にごめん!君の話はまた今度だ!」

「え、ええ、創人さま。ではわたしも」

「いってきます!!」


何か言い掛けた彼女の言葉を遮り、不思議の国のアリスの白ウサギレベルで急いでいる僕は、弾丸のように部屋を飛び出した。

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