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愛されていたこと、愛されていること。

レティシアとバスに揺られて、霊園へとやってきた。


「ここが、僕の両親の墓」


墓石の前に水を張った桶を置いてそう言うと、レティシアは花を抱えたまま淑やかな所作と優美な声で挨拶をした。


「レティシアと申します。創人さまの恋人です。どうぞよしなにお願い申し上げます」

「そんな畏まらなくても」

「挨拶は大切ですよ。ましてやお相手はあなた様のご両親ですもの」

「……もう、骨だけだけどね」


墓石に水をかけながら呟くと、胸に手を当てているレティシアはいいえとかぶりを振る。


「あなた様のご両親の想いが、感じられますよ。とてもお優しくてあたたかなお二人ですね」


……まさか、と僕は振り返る。


「視えるの?その、霊とか」

「彷徨うものは視えることもございますが、いま私が言っているのは思念のお話です。……ああ……あなた様、あなた様はお幸せです」


レティシアは僕の片手を引いて、やわらかな胸に押し当てる。


「ちょ、ちょっと、レティシア!?」

「御覧になってくださいな。ほら……」


促されるままに、墓石のほうを見る。


息が、止まるかと思った。


「父さん……母さん……?」


そこに、彼らはいた。


青空を透かして、両親が寄り添いこちらを見て微笑んでいる姿があった。レティシアの心音を手のひらに感じながら、呆然と見つめた。


「霊魂ではありません。あなた様を想う、あなた様への愛を抱いた、在りし日の姿の残像とでもいいましょうか。10年経った今でも視えるということは……創人さま、あなた様はとても愛されておられるのです」

「今、でも?」

「はい」

「もう、いないのに?」

「はい」

「僕だけが助かったのに?父さんと母さんの命のことを僕は悪魔に願わなかったのに、どうして」


声が震える。胸に、名前のつけようがない熱いものが込み上げる。


ずっと恨まれているかもしれないと思っていた。それなのに二人は愛おしげに僕を見つめては微笑んでいる。揺らめきながら。いや、揺らめいているのは僕の涙の膜のせいだった。


ぽろぽろと零れ落ちる涙を、レティシアは背伸びをし空いた手で拭ってくれる。白く美しい手だ。


「今も昔も、ご両親のあなた様への愛は変わりないのです。あなた様は幸せですね。そして、こんなにも愛情深いご両親のもとに生まれついた創人さまに恋をしたわたしも、幸せ者です。おとうさま、おかあさま、ありがとうございます。創人さまも……素敵なご両親に会わせてくださって、ありがとうございます」


大きな瞳を潤ませながら微笑むレティシアは、本当に天使そのものだ。


こんなひとに恋をしてもらえた僕は、愛情深い両親のもとに生まれた僕は、確かにとんでもなく幸せ者だった。


「ありがとう……父さん、母さん。僕は、大丈夫だからね。ちゃんと……二人の分まで、生きて、いくから」


レティシアの胸から手を離す。

二人の姿が空に溶ける。


レティシアには視えているままなのだろう。供えた花までも大切そうに見つめて、ぺこりと頭を下げた。その清冽な姿が眩しくて、彼女の手を取った。


「レティシア」

「はい、創人さま」

「ありがとう」

「いいえ。私はなにも」

「伝えたいんだ。ありがとうって」

「ふふ。はい。どういたしましてなのですよ」


爽やかな初夏の青空。そのずっと向こうに、大切な父さんと母さんがいる。


いつかは会いに行きたい。僕がレティシアと生きて、天寿を全うした暁には。


だから絶対に、悪魔には屈することはできないのだ。


さわさわと花を揺らす風を受けながら、そう思った。

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