悪魔の去ったあとに
悪魔の去った宵闇を、僕は呆然と、レティシアは睨み据えたままで見つめていた。
やがて彼女は荒い足取りでベランダへ続く窓を閉め、落ちていた悪魔の黒い羽根を一本拾うと矯めつ眇めつしつつ言う。
「やはりライバルだったのですね。わたしの恋のライバル。まさに悪魔です」
「あいつの……あいつの言ったことは、冗談か何かじゃ無いのか?」
恐怖心のようなものを抱えたままの僕にレティシアはかぶりをふる。
「いいえ、創人さま。あの悪魔……ヴァイオレットといいましたか。彼女はあなたに熱を上げています。きっと、契約をしたときからあなた様に一目惚れをしていたのでしょうね。未熟な悪魔なりに契約し……力が満ちて、あなた様を迎えに来た。魂を奪うつもりかもしれません。早乙女さんを唆し操ったのも彼女でしょう。まずは邪魔なわたしを始末して、それからきっとあなた様を……という筋書きだったかもしれませんね」
ぞっと背筋に悪寒が走る。魂を奪うことがつまり僕を伴侶にすることに繋がるのなら、僕はやはり死ぬのだ。
「ご安心くださいませ、あなた様」
小刻みに震える情け無い手を、レティシアは華奢な指で包み込んでくれる。
「わたしがおります。わたしはあなた様の守護天使となりましょう。どんな邪悪からもお守りいたします」
「……僕は、かっこわるいね」
「なぜです?」
「いつも君には敵わない」
柔和な勇敢さ。惚れ惚れとするほど凜とした声の宣言に。正直、じわじわと安堵が込み上げた。
「僕は独りじゃないって、よくわかった。ありがとう、レティシア。簡単に悪魔に奪われないように、足掻くことにする」
「その意気です、創人さま!」
ぎゅっと抱き着いてきたレティシアは、僕を勇気付けるようなあたたかな体温を押しつける。
「二人で生きていくために。わたしは最善を尽くします。悪魔など退けてみせますわ!」
見つめ合った僕らは力強く頷く。
それだけで絆が強まった気がした、そんな夜だった。
次の日、悪魔が転入生として僕のクラスに現れるとは、このときは思ってもいなかったのだ。




