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悪魔の顕現

レティシアが右手に掲げているものは、燃えさかる炎に見えた。だけど実際には白く神々しく輝く光の塊で、レティシアはまっすぐに宵闇の侍るベランダへとそれを投げつける。窓が勝手に開き、光は音を立てて弾けた。


「そこにいるのは何者です。正体をお見せなさい」

「……あーあ。天使様は怖いねぇ。いちゃいちゃしてたんじゃなかったのぉ?」


悪戯っぽい、いや、悪意がこもった妙に艶めいた女の声がベランダから響く。


ぞく、と身体が、本能が震える。僕はこの声を知っている。こいつを知っている。こいつは、


「僕と、契約した、悪魔……!」

「十年ぶりだね、ツキシロソウト。あたし好みの美少年になったじゃない?天使様にたぶらかされてるみたいだけど」

「創人さま、下がっていらして。……失礼極まりない。誰がたぶらかしているというのです。わたしたちは恋仲ですから、当然のことでしょう」

「お熱いこって、羨ましいわね」


人影は立ち上がる。

すらりとした長身。レティシアと同じくらいの、腰までおりる繻子のような黒髪。緑色した切れ長の瞳と紅い唇は、僕らを揶揄するようにニタニタと笑っていた。


「このかたを奪いにきましたか。そうはさせません。わたしがあなたを力尽くでも必ずや打ち破ります、悪魔」

「血の気の多いやつは嫌いだよ。こんな狭いところでやりあう気は無いし、契約の履行は今じゃ無いわ」

「……それなら、何をしに来たんだ」


僕を制するレティシアの腕を振り切り、前に出る。

漆黒の翼を広げた美しい悪魔はおもしろがるように嗤ったままだ。


「あたしのツキシロソウトを見に来た。それだけ」

「見に来た……?」

「そう。あたしの名前を覚えておきなさい。ヴァイオレット・レヴィー・シュバルツェ。ヴィオって呼んでいいのよ?ソウト。なにせあんたはあたしの、」


十年前からの婚約者なんだから。


くすくす笑いながらそう言葉を紡いだ悪魔……ヴァイオレットは、きっ、と己を睨み付けるレティシアを指差して宣言する。


「あんたの思い通りにはいかないよ、天使様。あたしは必ずツキシロソウトをつがいの鳥にする。そう、立派なあたしだけのカラスにね。それじゃ、今夜は挨拶までに」


すると悪魔はくるりとその場で円を描くように回り、黒い鳥……カラスに身を変えて飛び去った。


「……やはり、ライバルだったではないですか」


レティシアは誰もいなくなったベランダを睨み付けたまま仁王立ちしているが、僕はどっと冷や汗をかいてへたりこんでいた。


展開が、急すぎて、飲み込めない。


夜風の舞い込む初夏の部屋で、僕らは沈黙に覆われていた。

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