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しあわせ、とは思い浮かばず

文武両道、才色兼備。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。


レティシアの学園生活2日目は、それらの言葉を体現したかのようだった。それだけ言えば充分だろう。

彼女はなんでも並以上にこなし、美しい容姿は皆の視線を虜にし、すっかり陽向の人気者になっていた。


それでもことあるごとに日陰者の僕に話しかけ、微笑み、駆け寄るものだから、クラスメイトたちは遠巻きに不思議そうにしていたし、僕に話し掛けてくるやつもいた。


平穏とは言えない一日を終え、放課後になる。


「それでは創人様!デートに参りましょうっ」


朗らかに教室で宣言し、僕の左腕に抱き着いてくるものだから、また浴びたくない脚光を浴びてしまった……


「デートって、どこいくの」


校門を出た辺りで僕が尋ねると、レティシアは微笑して。


「どこへいきたいですか?」

「君が言い出したんじゃないか」

「あなた様のご意向に沿おう、と思いまして。やはり定番は遊園地でしょうか?」

「放課後に遊園地はちょっと向いてなさそう」

「ではスーパーでお買い物を!」

「それはデートって言わないんだよ」

「もうっ、あなた様はわがままです!」


ぷくっと頬を膨らませる天使。でもわがままではないと思う。


「じゃあ……映画、とか、買い物……服見たり本屋行ったり……?あ、水族館とかなら、わりと近いな」

「素敵です!どれも知識では知っておりますが、初めてです。わたしの初めてはすべて創人さまに捧げますね!」


あんまり大きい声で言わないで欲しいワードだ。

……でも。楽しげなレティシアの姿は悪くないと思えたから。


僕は左腕に巻き付いている彼女の手をそのままに、歩き出した。



面白そうな映画がなかったから、水族館にいくことにした。


レティシアは色とりどりの魚や愛らしいペンギンに目を輝かせ、水槽に張り付くようにして生き物を見て回る。


「素敵です……下界の生き物は美しいですね」

「天界の生き物も綺麗なのか?」

「どう見えますか?」


くるりとその場で回るレティシア。金の髪がなびき、制服のスカートが翻る。そうか、彼女こそが天界の生き物だった。


「あなた様のお眼鏡にかなう生き物でしょうか?」

「……レティシアはすごく綺麗だと思うよ」

「まあ……光栄です。うれしい」


花のように微笑む彼女の背後の水槽で、魚たちがひらりひらりと舞う。美しい光景だ。誰が見てもそう思うだろう。


「鳥もよいものですが、海の生き物も良いですよね」

「レティシアは小鳥が好きだから、小鳥の姿をしているの?魚にもなれる?」

「お魚にもなれますが、鳥がいちばん馴染みます。わたしは翼を持つ生き物ですから」

「そういうものなんだ」

「けれど、わたしは……鳥よりお魚より、人間になりたい」


水槽に触れながら、レティシアは笑みを浮かべたまま呟く。


「翼なんていりません。あなたと同じになりたい。そう願います」

「僕は、半分は悪魔だよ」

「あなた様は人間ですよ」


おっとりとした口調だ。クラゲコーナーに向かいながら、彼女は続ける。


「わたしがそう言うのです。わたしがそう見るのです。あなた様は人間ですよ」


じん、と胸に何かが響いた。甘く、じわりと。


「……レティシアは、たまに強引な物言いするよな。ちょっと偉そうな」

「うふっ。わたしは偉いのですよ?」

「え、そうなの?」

「さあ、どう思われます?」

「わかんないよ……」


ふふっとレティシアはまた笑って、今度はクラゲに夢中になる。


……綺麗で、優しくて、非の打ち所のない女の子。まあ、天使だけど。


僕が悪魔なんかじゃなかったら、きっと……素直に恋をしていたんだろうな、と思う。


今の僕じゃ、……だめ、だけれど。


「創人さまっ、創人さま!イルカさんのショーが本日ラスト回だそうです!参りましょうっ!ね?」

「はいはい、行くよ。待ってね」


この夢みたいな時間に名前をつけるなら、なんという名前になるのだろう、なんて考えた。

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