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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
80/177

第78話 『夏祭り (4)』

「オラ、沙紀ねえちゃんに謝れ……」


「ゴメンなさい……」

「……ンなさい……」

「ゴメ……さい……」


消え入りそうな声で謝る3人の男の子たち。

3人とも山崎の弟……である。

上から順に、小学5年生のまさる、小学3年生のしげる、小学1年生のかける


コトの始まりは、この3人の弟たちであった。

夏祭りの雰囲気にテンションを上げた3人は、縁日の会場近辺で、水鉄砲を使ったサバイバルゲームごっこをしよう……と、兄である山崎に持ちかけたのだ。

山崎が言うには“兄として仕方なく応じた”らしいのだが、限りなく嘘くさい。

あらかたの事情をかいつまんで話した山崎を見て、“りん”はジトリとした視線を投げながら、心の中で呟いた。


(……お前バカだろ?)


弟たちと遊んであげた……と言えば聞こえはいいが、“ウォーターガン”を持ち出して嬉々としていた感じから、どう考えても自分が率先して楽しんでいたようにしか思えないからだ。

山崎の子どもっぽい一面に、“りん”は頭をクラクラさせた。


「あーん……。もういいわよ。今度から人に向けて水鉄砲なんかしちゃダメよ?」


「は~い……」

「はい……」

「……は……ぃ……」


山崎のミニチュア版といった様相の3人は、かなりシュンとしている。

ただし、反省しているというよりも、目の前の沙紀に怯えているといった方がしっくりする感じだ。


……ムリもない。

目の前で、兄がコテンパンにやられたのだから……アイアンクローで。


そんな状態だったため、まるで沙紀の方が子どもをいじめているかのようにも見える。

“りん”と東子は、クスリ……と笑った。


「……お前ら。まだ祭りは終わってねぇんだから遊んで来い!」


山崎の許しが出ると、互いに顔を見合わせながら、逃げるように走り去っていく。

やはり、相当沙紀が怖かったに違いない。


「もう悪さすんなよっ!」


走っていく3人の後姿に、山崎が声を浴びせかける。

「は~い!」と子どもらしい返事を響かせながら、やがて3人は闇夜に紛れて見えなくなった。


人が多くなってきた夜店通りから少し離れた神社の境内には、わざわざやってくる人が少ない。

人がほとんどいない上に、夜店通りから漏れてくる光でうっすらと照らされるだけのそこは、薄暗くて楽しげな縁日とは無縁な雰囲気を漂わせている。


“りん”、沙紀、東子、山崎の4人が取り残された境内。

弟たちの姿を見送っていた山崎が、急に神妙な顔つきに変わった。


「わりぃな……沙紀。浴衣汚しちまって……」


「……い、いいわよ別に。すぐに拭いたし、水だったらシミにもならないし」


いつもと違った山崎の真面目な口調に、沙紀はちょっとだけ面食らった。

“りん”が初めて見る、申し訳なさそうな表情の山崎。

だが、沙紀の言葉を聞いて、少し表情が和らいだようだ。


「……でも、その浴衣、気に入ってたヤツだろ?」


「……」


そういえば……と、“りん”はハタと気付いた。

先ほどの“アイアンクロー(沙紀⇒山崎)”といい、今の会話といい……東子も含めて、どう考えても普通の間柄とは思えない。

“りん”は、ある“確信”を持って尋ねた。


「……ひょっとして沙紀と山崎って……昔からの知り合い?」


状況からいって間違いないところだが、念のため……である。

そして、もちろん答えは予想どおりだった。


「……まぁ、幼馴染ってヤツか?」


「……私的には腐れ縁だけど」


なるほど……やり取りが堂に入っている。

“りん”は、そう思いながら二人の顔を交互に見た。


「家が近所で、幼稚園から小学校、中学校、高校って全部同じだモンねっ♪」


(……そりゃ間違いなく腐れ縁だな……)


東子の説明を聞きながら、“りん”は、さっきの騒ぎの中で、東子が『タッくん』と言っていたことを思い出した。

おそらく、話の流れから言って“山崎”のコトであろうが、やはり“ある疑問”が頭をもたげる。


「そういやさ……さっき東子が『タッくん』って言ってたよな?」


そう言いながら、“りん”は沙紀と山崎を交互に指差した。

沙紀と山崎は、お互いの顔をチラリと見て……吹き出す。


「……プッ! ソレな~つかしい~!」


「よせよ……恥ずかしいだろ」


どうもお互い照れているようだ。

暗くてよく顔が見えないものの、その雰囲気だけは伝わってくる。


「『タッくん』っていうのは山崎くんのことなのっ♪」


親切にもタネ明かしをしてくれたのは東子に、“りん”はやはり首を傾げる。


「……山崎って下の名前なんだっけ?」


「……俺か? すぐる


じゃあ“タッくん”じゃおかしいじゃん……と思ったのが、少し顔に出たのかもしれない。

山崎が、苦笑いをしながら補足した。


「沙紀のおふくろさんがさ、ずっと俺の名前を間違えて覚えてたんだよ。山崎やまさきたくってな」


(あ~……そういうコトかっ……!)


おそらく、沙紀のお母さんが、当時の山崎のコトを『タッくん』と呼んでいたに違いない。

その影響で、沙紀も(東子も)『タッくん』になってしまったのだろう。


「小学校でも、俺のコト『タッくん』って呼んでたのお前ら二人だけだったぜ? 早く間違いに気付けよな?」


「そうそう。アタシは気付いてたんだけど……沙紀がね~ぇ♪」


「なんで私のせいになるのよ!?」


沙紀と山崎の昔話は、なかなかに面白い。

4人は声を出して笑った。


その時、遠くからドンドーン……という音が聞こえ始め、“りん”たちは一斉に音のした空に視線を向けた。


「あっ! 見て見てっ! 打ち上げ花火っ♪」


東子が、いち早く遠くの夜空を指差す。

かなり遠いが、その花火は境内からよく見えた。

色とりどりの花火が、遠くの夜空を鮮やかに彩っていく。


花火を見ながら、言葉少なになった4人。

その時、暗闇の向こうから、子どもの大声が響いた。


「兄ちゃーんっ! 駆が木登りしてて落ちたーっ!」


山崎の一番上の弟、勝の声だ。

末っ子、駆の一大事に、山崎が声のした方へ全力で駆け出す。


「マジかっ! ケガはっ!?」


「うん……ヒジすりむいた!」


……ズコーッ。


山崎は律儀にずっこけながら、勝の元に駆け寄って……ゲンコツを喰らわせた。


「バカヤロッ! んなもんツバでもつけとけっ!」


兄弟同士の野性味溢れる会話。

闇の中から聞こえてくるそれに、沙紀と東子がクスクス笑う。


「……なんだかんだ言って、弟思いだよねぇ~……タッくんは♪」


「そうね。でも頭の中は全然成長してないわ……アイツは」


山崎に対して、ため息をつきながら辛らつな言葉を浴びせる沙紀に、“りん”は苦笑した。


夜空を見上げると、まだ打ち上げ花火は続いている。

再度、花火に視線を移した東子が、思い出したように呟いた。


「そういえば~……タッくんと3人で、ここで花火を見たのって……小学何年の時だっけ?」


「……さあ? 何年生だったかしらね?」


沙紀が、首を傾げて答える。

しかし、なぜか東子はもどかしそうだ。


「え~? 覚えてるでしょっ? その浴衣を初めて着た日! タッくんが、花火が上がってるのに、沙紀の方ばっかり見てるから『なんで花火見ないの?』って聞いたら、『沙紀の浴衣の方がキレイだ』って言った時だよっ?」


……ホゥ?


沙紀が今着ている藍色地の浴衣。

その打ち上げ花火をあしらった模様を見ながら……“りん”の目が怪しく光った。

まるで、山崎が花火そっちのけで沙紀に見とれていたかのように聞こえる話である。


これは……有益な情報だ……。


そこまで考えた時だった。

沙紀の右手が唸りを上げて……額を捉える。

……もちろん“りん”の。


(な、なんで俺ぇっ!!!)


「余計なこと言うんじゃないわよっ!」


(だから俺じゃねぇ!)


だが、“りん”の言い分などお構いなし。

沙紀の右手に、ジワリと力がこもり、容赦なく“りん”のこめかみを締め付けていく。


「イダダダダダッ!!!」


毎度お馴染み……沙紀のアイアンクローである。

いつものコトだが、この痛さに慣れることはない。

そこへ、ちょうど戻ってきた山崎が、この奇天烈な事態に目を丸くした。


「何事だ? こりゃ?」


「さ、さぁっ? 突然沙紀が怒り出して……」


「東子……オマエ、またなんか余計なこと言ったんじゃねぇの?」


(ギクッ!)


山崎が、東子をジトリと睨みつけると、東子はタレ目を不自然に泳がせた。

その怪しさ満点な東子の仕草に、山崎は「コイツが原因か……」と確信するに至った。


アイアンクローに耐える“りん”のうめき声が場に響く。

山崎は、沙紀と“りん”の姿を見ながら、「困ったもんだ……」という感じでため息をついた。


「……にしても沙紀も変わらねぇな……。何かあるとすぐにアイアンクローする癖……」


(『癖』なのかよっ!)


激痛の最中……“りん”の目一杯の突っ込み。

だが、沙紀の右手の締め付けは、一向に緩む気配がない。

何か、心の琴線に触れてしまったのだろうか。


いつもより長く続く痛みに耐えながら、和宏は思った。


(……昔からアイアンクローって……オマエも成長してねぇよ。沙紀……)

≪オマケ ~緊急座談会 その12~≫


りん「へ~……。沙紀と山崎は幼馴染だったんだな……」

作者「まぁ、東子もですけどね」

りん「東子も、沙紀・山崎と近所なのか?」

作者「近所ですね。ただ東子だけは、沙紀・山崎とは違う保育園に通ってたようです」

りん「……へ、へぇ……」

作者「んで、小学校で初めて一緒になったわけですが、3人ともご近所さんなので、その前からよく遊んでいたようですね」

りん「……ふ~ん」

作者「小学校までは、お互いを『タッくん』『サッちん』と呼び合うほど仲が良かったんですが、中学生になる頃には次第に疎遠に……」

りん「……」

作者「普通、幼馴染なんてそんなものでしょうが、中学校卒業時にちょっとした事件が起こりまして、それを機に……」


以上、作者が聞いてもいないことを延々としゃべって終わる。

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