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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
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第62話 『Song! Song! Song! (3)』

となりに座る北村さんの嬉しそうな笑顔に、“りん”もつられて笑う。

なんでこんなに嬉しそうなんだろう……と、思いながら。


「りんちゃん、味のある歌い方だったね」


(……そういう言い方もあるか……)


“りん”は苦笑いした。

「音痴だね」と言えば一言で済むのに、わざわざ表現を変えてくれた北村さん。

まるで、褒められたかのような気持ちになるというものだ。(もちろん気のせい)


「た……はは、聞き苦しいものを披露しちゃったね」


右手の人差し指が、こめかみ辺りをポリポリとかく。

せめてもの照れ隠しである。


「フフ……りんちゃん、あんなにスポーツできるんだから、これで歌まで上手かったらズルイよ」


こそばゆい気持ちが、“りん”の背中を伝う。

北村さんと面と向かって話をするのは初めてだったが、なんともホッとした気持ちになるしゃべり方だ。

そして、何より“優しさ”を感じる。


北村さんは、もう一度“りん”に笑いかけた。


……?


和宏は、唐突に思った。


(……なんか……この娘と、以前会った事があるような……?)


北村さんとは、ついこの間の5月に初めて会ったばかりのはずだ。

それ以前に“和宏”が北村さんに会っているはずがない……絶対にそれはありえない。

北村さんは“りん”の世界の住人であって、“和宏”の世界の住人ではないのだから。


なのに、それよりも前に会ったような気がするのはなぜだろうか?

“りん”は、眉間にシワを寄せながら記憶を手繰り寄せたが、どうしても答えが出てこなかった。


「……りんちゃん?」


「……っ」


北村さんの呼びかけで我に返る。

きょとんとした北村さんの顔が、和宏の視界を大きく占領しているコトに気付いて、“りん”は声にならない声を上げてしまった。


「大丈夫? 具合悪いの?」


「……だ、大丈夫……」


何かの勘違いだ……ということで、和宏は、頭の中を一旦リセットすることにした。


まだ、カラオケは続いている。

考え込んでばかりいてはつまらない。


姉御……上野の歌に、誰も頼んでいないのに成田さんがコーラスを担当している。

場の楽しげな雰囲気は、最高潮に達していた。


「……仲、いいよね……このクラス」


歌っている上野を見ながら、北村さんがポツリと呟いたのを、“りん”は辛うじて聞き取ることが出来た。

ただ、そう呟いた北村さんの表情は、なぜか少し寂しげだった。


「そうだね……。あっ、でも、高木さんも来てくれてたらもっと良かったかな。そうすれば女子は全員だったのに」


そんな“りん”の言葉に、北村さんはハッとした表情を見せた。

が、その表情は一瞬で消え、またいつもの優しい笑顔に戻っていた。


「……やっぱり、すごいね。りんちゃんは……。舞のことにまで気を配ってくれるなんて……」


「……“まい”?」


「フフ……私、舞とは中学校から一緒なの」


北村さんは、笑いながら答える。

もちろん、初耳だった。


「どうして、今日は来てないのかな……高木さん」


“りん”は、気になっていたことを口にする。

ひょっとして、北村さんなら何か知っているかも……と、思ったからだが、案の定だった。


「上野さんに誘ってもらってたんだけどね……断ってた」


北村さんは、ウーロン茶のグラスについた水滴を指でなぞりながら答えた。

ちゃんと声をかけてもらっていたのなら、仲間ハズレにされていた……というわけじゃないだろう。

それがわかって、ちょっとだけホッとする“りん”だったが、また別の疑問が浮かぶ。


「……どうして断ったのかな?」


「……舞なりに……いろいろ思うところがあるの……」


(……思うところ?)


そう言われても、“りん”には「優勝できなかったサッカーメンバーだから」という理由くらいしか思い浮かばない。(球技大会で優勝したのは野球とバレー。サッカーは準優勝……第41話参照)

だが、男子のサッカーメンバーだって、何人か来ているのだから、そんなことを気にする必要はないはずだ。

そんな、納得がいかない風の“りん”に対し、北村さんは、意を決するかのように打ち明け始めた。


「りんちゃん……舞がいつも体育を休んでる理由を知ってる?」


「病弱って聞いてたけど……医者に運動を止められてるとか?」


「……本当はね……走ることが出来ないからなの……」


「……え!?」


“りん”は、無意識に普段の高木さんを頭の中に思い浮かべた。

言われてみると、病弱というワリには顔色も良くふくよかだとは思う。


ただ、歩いている姿を見ても、足を引きずっていたりはしていなかったはずだ。

……確かに、走っているところは見たことなかったが。


「中学3年の時に遭った交通事故が原因でね……。手術で普通に歩ける程度には回復したんだけど……」


「……」


「そのケガをするまでは、女子陸上部のエースだったのに……。でも、もう……走れないの」


「……」


まるで、引き寄せられてしまいそうな、黒縁の眼鏡の奥の真剣な北村さんの瞳。

その瞳に圧倒されたかのように、“りん”は一言も発することが出来なかった。


今日、この場に来たくないという高木さんの気持ち。

高木さんを“りん”に置き換えてみると、少しだけわかる。


投げたくても、投げることが出来なくなってしまった自分。

球技大会に参加したくても、それすら出来ない自分。


深刻そうな顔をする“りん”に、北村さんが慌てて取り繕う。


「ご、ごめんね。なんか暗い話をしちゃって……。折角りんちゃんがとなりに来てくれたのに……」


「え? ……イヤ、うん……だ、大丈夫。おかげで疑問が晴れて少しスッキリしたよ」


“りん”も、北村さんも……気持ちを押さえつけるかのようにムリヤリ笑う。

その笑顔は、先ほどから部屋に溢れる楽しげなみんなの笑顔とは全く異質の、どこかウェットな笑顔だった。


そして、フロントからの内線により、残り10分を知らされた一行は、これで最後とばかりに、また盛り上がり始めた。


「さあっ! 最後だからみんなで歌うよ~っ!」


上野のやたらと大きなダミ声が、マイクで拡声されて部屋の隅々まで響く。

かくして、みんなの大合唱とともにA組の祝勝会はフィナーレを迎えたのだった。

≪オマケ ~緊急座談会 その10~≫


のど「ふ~む。和宏は音痴なんだね……」

作者「まぁ、元々音痴傾向があったんだけど、りんになってからは声の質が変わって、音痴が顕著になった……というところでしょうか」

のど「なんかムリヤリくさいけど……それはそれで納得できるんじゃないかな」

作者「でも、それならのどかさんも同じように音痴のはず……?」

のど(……っ!)

作者「またカラオケの話を描きましょう……4人でボックスに……」

のど「イヤイヤ。カラオケの話はもう読者の皆さんお腹いっぱいだから」

作者「そうですね~。確かにわたしももうカラオケの話は描く気しないですね(^^;」

のど(……ホッ……)


以上、のどかの音痴も判明して終わる。

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