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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
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第49話 『4人揃ったら (1)』

和宏にとって、中間テストという響きに、良い思い出はない。

俺を苦しめるモノ……そんなネガティブな印象しかない。

そんな中間テストを来週に控え、頭を抱える和宏だったが、幸いなコト(←?)に今回は仲間がいた。

その名は、“篠原沙紀”という。


進級するのに苦労する程、雑な頭脳しか持たない和宏。

しかし、沙紀も負けず劣らず雑な頭脳しか持っていなかった。


「あ〜あ。やだなぁ……中間テスト……」


誰に話しかけるでもなしに、沙紀が、机の上にベタ~ッと突っ伏しながら、どうにもならない現実を嘆く。

6時間目の授業が終わった直後、HRが始まる前。


「同感……」


同じく、机の上にベタ~ッと突っ伏した“りん”が、沙紀の意見に、全面的に同意する。

その覇気のなさに、自慢のポニーテールが、力なくダラリと垂れ下がっているかのようだ。

ネガティブなオーラを漂わす“りん”と沙紀に、東子はただ苦笑するばかり。


「珍しく意見が合うじゃない。りん。」


「だって、ホントにイヤだし。地震とか台風とかで中止になればいいのに」


「いいわね、それ。期末テストの時もよろしく」


一体、誰によろしくと言っているのか、さっぱりわからない。


「ホラホラ〜、もうちょっと前向きになろうよ〜」


東子が、“りん”と沙紀にパッパをかけるも、今日の二人の息はピッタリだった。


「「ム・リ」」


「~~~!」


東子は、思わず、はぁ~っとため息をつく。

まるで、「困ったもんだ」と言わんばかりに。


「東子はいいわよね……赤点とは無縁なんだから」


「こっちは、赤点取らないために必死なんだぞ?」


(……ドコが必死なんだかっ!?)


東子が心の中で突っ込みを入れる。

机の上に突っ伏して、ため息をつく“りん”に、必死に見えるような要素は皆無だからだ。


東子自身も、特別に成績が優秀なわけではない。

“りん”や沙紀と比べれば優秀……というだけに過ぎないのだ。

大体、それを言ったら、クラスの大半の生徒が“成績優秀”ということになってしまう。


この状況を打破するため、東子は起死回生の提案を試みた。


「じ、じゃあ……みんなでテスト勉強するってのはどう? 結構楽しそうじゃないっ?」


ふーむ……と、和宏は考え込む。

いくらテストがイヤだと言っても、現実には受けざるを得ない。

そして、赤点の教科が多ければ、後で追試やら補習やらで苦労することを、和宏はよく知っている。


ちなみに“赤点”とは、100点満点中40点未満の点数のコトを言う。

この赤点を取ってしまった教科が、多ければ多いほど、進級の障害になるのである。


ただ、赤点回避のためとはいえ、このメンバーでテスト勉強しても、成績が上がるとは思えない。

むしろ、何の勉強にもならずに、時間を浪費する可能性が高い。


(……誰か、頭のいいヤツを先生役にした方がいいんじゃないか……?)


和宏が、頭の中で、そういう結論に達した時だった。


「りんってさ……E組の久保さんと仲良かったわよね、確か」


どうやら、沙紀も、“りん”と同じコトを考えたようだ。

のどかは生徒会長であり、試験では、常にトップ10に名前を連ねている。

先生役としては申し分ないといえよう。


「あの人、頭良さそうだからさ……きっと私に最適なカンニング方法とか教えてくれそうな気がするわ!」


そうきたか……と、和宏は思ったが、口には出さない。

東子は東子で、もう何も言うまい……というオーラを漂わせてながら、右手で目元を押さえる。

“りん”は、そんな東子は気にせずに、独り言のように呟いた。


「まぁ、カンニング云々は最後の手段(←!?)として……問題はのどかが引き受けてくれるかどうか……?」


「別にいいけど?」


突如、すぐ背後から聞こえた聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、何故かのどかが笑顔交じりで立っていた。


(ここ……A組の教室だよな?)

(まだHRが始まる前だよな?)


そんな疑問が、瞬く間に和宏の頭の中を占拠する。


「E組はもうHR終わっちゃったんでね」


(……エスパーかっ!?)


相変わらず、人の心の中を読んだようなのどかの発言である。

これで、“りん”は、何度『エスパーかっ!?』と突っ込んだであろうか。


「んで、ちょうど“そのこと”で来たんだ」


「……そのこと?」


「ほら、今話してたテスト勉強のコトだよ。よかったら一緒にどうかなと思って」


沙紀の顔が、パ~っと明るくなった。

「神! アンタは神!」とでも言いたげな表情だ。


「私も一緒していいですか?」


「あっ! ずるい~、アタシも~!」


すかさず、沙紀が神様に祈りをささげるようなポーズでお願いすると、東子もそれに便乗する。

のどかは、そんな二人に苦笑しながら答えた。


「もちろん一緒でいいよ。カンニングを教えるのはムリだけど」


「え~~、そんなぁ~~……」


(まさか、本当にカンニングを教えてもらおうとか思っていたんじゃあるまいな……)


妙にガッカリする沙紀を見て、“りん”と東子は顔を見合わせ、のどかはクスクス笑っている……どうやら冗談だと思っているらしい。

甘い、甘いよ……和宏はのどかに心の中で訴えた。


「まぁまぁ。今回の中間テストは範囲も狭いし、事前にちゃんと勉強すれば何とかなるよ」


「ん~、確かに今回は範囲が狭いかもっ」


のどかの意見に、東子が同調する。

この二人に言われると、沙紀も和宏も「じゃ、やるか……」という気になろうかというものだ。


「じゃあ、ドコでやろうか? やっぱり図書館?」


さすが、優等生ののどからしい発想と言える。

しかし、「テスト勉強を図書館で」……そんな当たり前の発想は、和宏には通用しなかった。


「……イヤ、ちょっと……図書館はちょっと……」


和宏にしては、妙に歯切れが悪い。

両手を前に出して、それだけはやめて……とでも言いたげだ。


「どうして? 図書館は結構いい環境だと思うんだけど」


「いや……昔からダメなんだよ図書館って……その……体質的に」


「「「……体質的?」」」


和宏の妙な言い訳に、のどかだけでなく、沙紀と東子も一緒になって疑問の声を上げた。


「ほら、図書館ってさ、静かじゃん? んで、勉強するか読書するかしかないじゃん? なんかもうね……ジンマシンが出るんだよ……マジで」


……ジンマシンて。


のどかが、プーッと吹き出した。

沙紀と東子も、お腹を抱えながら、ゲラゲラと笑い出す。


「……アンタ、どんだけ特異体質なのよっ!」


「ナイスボケ! 90点っ!」


(ボケたワケじゃないんだけど……マジなんだけど……)


が、完全にボケ扱いにされた挙句に、今までで最高得点を獲得してしまった和宏。

しかし、コレだけ笑っているクセに、100点じゃないところが、お笑いに厳しい東子らしい。


みんながひとしきり笑い終えた後、東子が話を戻す。


「じゃあ、ドコでやる? 沙紀の家はどう?」


「ウチは、今親戚の赤ちゃんを預かってるのよね~。ちょっとムリよ……東子んちは?」


沙紀は、両手を広げて肩をすくめながら、東子に尋ね返した。


「今はちょっとね~……、人様にお見せできないようなものが部屋に一杯あるからムリなのっ♪」


(((……それって一体……?)))


三人が三人とも同じ疑問を持ったが、その答えが怖くて口に出せない。

私生活が謎に包まれている東子のコトだから、どんな答えが返ってきてもおかしくはないだろう。


「のどかの家は?」


今度は、“りん”がのどかに尋ねた。

もちろん、“りん”はのどかの家に行ったことはない。

それだけに、のどかがどんなところに住んでいるのか、ちょっとばかり興味はあった。


「あ、はは……ウチは友だちを呼んでいい家じゃないから……はは」


のどかが、笑っていない笑いとともに拒絶する。

なぜか、「やめろ、マジでやめろ」と言いたげな感じだ。


「りんの家はどうなのよ?」


沙紀の家も、東子の家も、のどかの家もダメ……となれば、もう必然的に“りん”の家しか残っていない。


(……そういえば、今日はことみ母さんが、職場の飲み会で遅くなるって言ってたな……確か)


それならば、多少騒いだり、遅くなっても問題ないだろう。


「今日は母さんもいないし、大丈夫じゃないかなぁ」


“りん”の返事に、沙紀と東子とのどかがニッコリと笑う。


「じゃあ、決定!」


その時、教室の戸が開いて、担任の種田が入ってきた。

立って歩き回っていた生徒たちが、慌てて席に着き始める。

そのドタバタに乗じて、のどかはそそくさと教室を出て行った……一言だけ言い残して。


「じゃ、あとでまた……ね」

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