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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
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第46話 『Lover Operation (2)』

すでに、夕暮れ時すら終わろうとしている校門前。

朝は曇り空から小雨模様だったものの、すでに空から灰色の雲は去り、代わりに顔を出した夕陽が周囲をうっすらとオレンジ色に染めている。


時間は、もうすぐ18時だ。

もうあらかた帰ってしまったのか、校門をくぐる生徒はほとんどいなくなってしまった。

そんな中、村野紗耶香は、未だにひとり門柱に寄りかかりながら、“りん”を待ち続けていた。


(遅いなぁ。でも、まだ帰っていないはずだから、もう来る頃だと思うんだけど……)


そう考えた瞬間、紗耶香は、生徒用玄関から人の気配を感じた。

胸をドキドキさせながら玄関の方を振り向くと、待っていた“りん”と並んで歩く……男子生徒。


(……っ!)


紗耶香は、慌てて門柱の影に隠れる。

まさか、男子と一緒に出てくるとは予想外だったからだ。


“りん”と大村は、そんな紗耶香に気付かないフリをして、校門に向かって歩いていく。

生徒用玄関から、校門までの距離は、約20メートル程度。

“りん”は普通に歩いているのだが、大村の方は、極度の緊張のせいで歩き方がぎこちなかった。


(……そんなに緊張しなくてもいいのに……)


明らかに表情の固い大村。

“りん”は、そんな大村をチラリと見ながら、緊張をほぐすために努めて笑顔で、かつ、声を潜めて言った。


「……そんなに緊張しないでさ。この間の試合の時みたいに平常心で行こう?」


そして、“りん”は、大村の背中を軽くポンと叩いた。

しかし、女性とのスキンシップに慣れていないウブな大村にとって、この行為ですら刺激が強すぎたようだ。

演技とはいえ、“カノジョ”役の“りん”によるボディタッチによって、大村の緊張に拍車がかかってしまった。


「……うん。ガンバル。ガンバル」


(~~~ダメだこりゃ)


角ばって見えるほどガチガチに力の入った肩。

壊れたレコードのように、連呼される“ガンバル”。

先の試合中に見せた、頼りがいのある“キャッチャー大村”は、もうここにはいない……。


そんな2人の後姿を眺める残りの3人……沙紀と東子と山崎のヤキモキは、最高潮に達していた。


「ああん、もう! 恋人同士って設定なんだから、手くらい繋ぎなさいよ!」


「大村クン、歩き方ヘンだしっ!」


「……試合中は、人一倍冷静なんだけどな、アイツ」


三者三様の意見。

いろいろと問題があるように見受けられるが、何より2人が“恋人同士”に見えないのが一番痛い。

このままでは、作戦の成功……というか作戦の実施すらおぼつかない可能性がある。


だが、今さら作戦の変更も中止も出来ない。

“りん”と大村は、当初の作戦どおり、二人並んで校門をくぐった。

そして、校門を出てから数歩のところで、その声が聞こえた。


「お待ちください! りん姉さま!」


辺りに響いたのは、凛とした声だった。

その声の主は、もちろん……村野紗耶香。

“りん”と大村は、ピタリと立ち止まった。


緊迫した空気が、“りん”の背中をチクチクと刺激する。

“りん”が、そ~っと声のした方を振り返ると、真剣な眼差しの紗耶香が立って、“りん”を見つめていた。


「……その方は……りん姉さまの“お友だち”ですか?」


紗耶香の口調も……その纏っている雰囲気も、想像以上の真剣さだった。

その、あまりの真剣さに、“りん”はゴクリと息を飲んだ。


「……え、えと……その……」


「“カレシ”だよ」……そう言うハズだった。

しかし、作戦とはいえ、このシリアスな雰囲気の中で、大村を“カレシ”だと言い切るのが、少々ためらわれてしまう。


「……“友だち”じゃないわ。“カレシ”よ」


「……沙紀センパイっ!」


“りん”に代わって答えたのは……沙紀だった。

この二人には任せておけないとばかりに、“りん”たちの近くまで出張ってきたのだ。

腕組みをしながら仁王立ちをする沙紀を見て、紗耶香は明らかに驚いていた。


「りんには、もうカレシがいるの。……あきらめなさい」


沙紀は、比較的冷静に紗耶香を諭す。

だが、紗耶香とて簡単に納得するはずがない。


「……嘘です!」


「……っ!」


あまりにもストレートな紗耶香の反論に、沙紀は一瞬言葉を失った。

だが、気の強さでは、沙紀だって負けてはいなかった。


「……なんで嘘だと思うのよ?」


「……その方は、りん姉さまに似つかわしくありません!」


(なんじゃそりゃっ!)


有無を言わせぬ断定形。

だが、そんなムチャクチャな紗耶香の言い分に、誰も反論できずに口ごもってしまった。

確かに、スラリとした“りん”に、ずんぐりむっくりな大村は、お世辞にもお似合いのカップルとは言えないからだ。


“りん”は、となりの大村をチラリと見やる。

すると、痛々しいほどに首をうなだれている大村が目に入った。

今の紗耶香の発言が、相当心をえぐったに違いない。


(あちゃあ……かわいそうに……)


こんなこと頼んで、本当に申し訳なかった……和宏は、心の底からそう思った。

そして、肝心の大村がこんな状態では、作戦の続行は不可能だ。

“りん”も、沙紀も、東子も……作戦の失敗を悟った。


3人の頭の中で、「さて……この状況に、どう始末をつけたものか……」という難題が生じた瞬間、この失敗に終わりそうだった作戦を見事に蘇らせる言葉が場に発せられた。


「……実は、萱坂の本当のカレシは俺……なんだ」


突如、ポンッと“りん”の肩に置かれた大きな手。

そして、その手が、力強くグイッと“りん”を引き寄せる。


(……なっ!?)


いつの間にか、“りん”のとなりに来ていたのは、後方で事態を見守っていたはずの山崎だった。

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