表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
44/177

第42話 『余波 (2)』

昨日は、2年生の球技大会だった。

そして、球技大会の最終日である今日は、3年生の出番である。


そもそも、この球技大会は、3年生の日が一番盛り上がるのが普通だった。

昨日の2年生の日が盛り上がったのは、“りん”による一時的な現象に過ぎない。


種目は、全学年同じだが、3年生の試合が持つスピード感や力感は、やはり2年生のそれとは一味違う。

ゆえに、それを見学しようと、1年生や2年生たちが休み時間を利用して試合会場に集まってくるのだ。

“りん”のA組でも事情は同じで、沙紀と東子が休み時間の度にサッカーの試合を見に行っていた。


「んじゃ、行ってくるね~」


“りん”は、「いってらっしゃい」と、手を振って見送る。

もちろん、一緒に見に行こうと誘われたものの、筋肉痛のせいで動くのがツライのでパスした。


人が、一時的に少なくなった教室。

残っているのは、一部の男子と……女子の高木舞だけ。


(そういや、高木さんは昨日の球技大会も休んでたな……)


高木さんは、サッカーチームのメンバーになったものの、当日は休んでいた。

だが、それは誰もが予測していたことでもあったので、特に問題も生じていない。

さらに言うなら、体育の時間はいつも見学だ。


(運動……キライなのかな……?)


一心不乱に本を読んでいる高木さんの横顔を眺めているうちに、ふとそんな疑問がわいたが、鞄から例の手紙を取り出して、気を取り直す。

この手紙を読むなら、人の少ない今しかない。

早速、“りん”は封を開けてみた。


中身を見ると、6通ともが女の子からのものだった。


『男の子をバッタバッタとなぎ倒す姿が、とてもカッコ良かったです!』

『試合終了の時のガッツポーズが、今も目に焼きついてます……』


そんな赤面したくなるようなことが、延々と書き綴られている。


(……ガッツポーズなんかしたかな? ……俺)


あの時は無我夢中だったので、ガッツポーズをした記憶は残っていない。


それはともかく、手紙の内容がラブレター的なものじゃなくて一安心だ。

女の子からのラブレター……男として、一度はもらってみたいが、なにせ今は和宏自身も女の身。

アブノーマルな雰囲気が漂うことこの上ない。


ため息をつく“りん”。

やっぱり、うまい話なんてないもんだな……そう思いつつ、“りん”は手紙を鞄の中にしまいこんだ。




「ただいま~」


沙紀と東子が帰ってきた。

他のみんなもポツリポツリ戻って来始め、だんだんと教室がにぎやかになっていく。

席に戻った沙紀をチラリと見やると、少し顔が上気していること気付いた“りん”は、首を傾げながら尋ねた。


「沙紀? ……何かあった?」


「べ、別にっ! 何でもないわよっ!」


と言いつつ、さらに顔が赤くなる沙紀。

明らかに、何でもないという感じではない。


「へへ~。憧れのセンパイとお話出来ちゃったもんねぇ? 沙紀?」


東子が、アッサリと理由を暴露する。


「ちょ、ちょっと東子! 余計なこと言わないのっ!」


沙紀が、慌てて東子の口を封じにかかるが、東子はタレ目をさらにタレ目にしつつ続けた。


「サッカー部のセンパイでね……名前がと……」


「ワーッ! ワーッ! ワーッ!」


沙紀が、大声を張り上げて、この場を乗り切ろうとしている。

いつになく顔を真っ赤にした沙紀は、とにかく必死だ。


(……ププッ……ククク……。コイツにも意外にカワイイとこあるじゃん♪)


普段、理不尽な怪力女の沙紀が照れに照れている様子は、非常に微笑ましい。

こんなおいしい場面を利用しない手はない……そう思った“りん”は、小悪魔のようにニヤリと微笑みながら、いつもの仕返しとばかりに、からかう気満々で東子に話しかけた。


「へぇ~? そのセンパイの名前は? どんな会話したの?」


「え~とね~、名前はと……」


「い~かげんにしなさいよっ!!!」


沙紀の必殺技であるアイアンクローが、“りん”の額に瞬時に決まる。


(な、なんで俺ぇっ!?)


しかし、容赦なく始まった締め付けにより、そんな疑問は無意味なものと化した。


「イダダダダダッ!!!」


目から火が出るような激痛。

いつもながら、沙紀の握力は強烈だ。

一体何キロあるんだろうか?


休み時間終了のチャイムが鳴ったことにより、ようやくアイアンクローから解放された“りん”。

つい今しがたまで、沙紀の指が食い込んでいたこめかみがヒリヒリ痛む。

“りん”は、その部分を両手でさすりながら思った。


(照れ隠しでアイアンクローをする女子高生ってどうよ……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ