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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
32/177

第30話 『Baseball Queen (1)』

更新が遅れ気味になってしまい、申し訳ありませんでした。

今後は、シリーズごとの短期集中連載的なスタイルで行けたらいいと思っていましたが、私生活との兼ね合いで、間が開いてしまうことがあるかもしれません。

その時は、「ああ、この作者……今は一杯一杯なんだな……」と、生暖かい目で見守ってくださいm(_ _)m

5月の最終週には、鳳鳴高校の一大イベントがある。

学年ごとに開催される“球技大会”だ。


月曜日は1年、火曜日は2年、水曜日は3年。

種目は、野球・サッカー・バレーボールの3種目であるが、男女比が6対4から7対3のクラスばかりなので、実質的に野球とサッカーは男子の占有種目、バレーボールは女子の占有種目となっている。


そこまではいいのだが、この野球とサッカーの選手登録には“女子を1名”入れなくてはいけないという、妙なルールの存在が問題だった。

まるで、男子の中に女子が1人放り込まれるようなものなので、多くの女子から不評なのだが、男女間の(不純じゃない)交流のためという大義名分の元、学校側は頑なに変えようとしない。


その球技大会(2年)を火曜日に控えた金曜日、放課後前のHRで、A組担任の種田は、選手の選出を行っていた。


「それじゃあ、まず野球からメンバーを決めるぞ。人数を超えたらじゃんけんで決めるからな。出たい者は手を挙げろ」


種田が言った瞬間に、男子の半数以上が手を挙げていた。

やはり、サッカーより野球の方が人気スポーツなのだ……と実感させられる。

手を挙げたのは全て男子……と思いきや、女子が1名混じっていることに種田は気付いた。

と同時に、教室中のあちこちがざわつく。


「……萱坂? 野球……出たいのか?」


もともと、男子の占有種目である野球とサッカーに出たがる女子などいない。

だから、最終的には、女子同士でじゃんけんして、負けた者がメンバーになる……というのが、お決まりのパターンだった。

そんなワケであるから、“りん”の挙手は、クラス内のほぼ全ての生徒の虚をついた。

両隣の沙紀と東子でさえも。


「ちょっと、りん! いいの?」


沙紀が、泡食ったような表情で、“りん”に小声で話しかける。

まるで、たしなめるかのような口調だ。


「そうだよ! アタシたちと一緒にセパタクローに出ようって約束したぢゃないかっ!」


(……してないし)


和宏は、心の中で即答した。


ちなみに、セパタクローとは、手ではなく足を使うバレーボールのような競技である。

あえて言うなら、今回の球技大会種目にセパタクローはない……念のため。

どんな時にも、とりあえずボケる……そんな東子のプロ根性(?)に、和宏は呆れ……もとい感心した。


ただ、二人がいくら止めようとも、和宏の意思が変わることはない。

何せ、念願の“野球”である。

“甲子園”云々はとりあえず置いておいて、久しぶりに野球ができる……しかも女の身で大っぴらに。


「大丈夫だよ。どうせ誰かが入らなくちゃいけないんだから」


そのとおりである。

“りん”が手を挙げなければ、他のじゃんけんに負けた女子がメンバーに入らなくてはならないのだ。

二人とも、納得した風ではなかったが、それ以上は何も言って来なかった。


各種目のメンバーが、じゃんけんにより次々に決まっていく。

沙紀と東子、成田さんも北村さんもバレーのメンバーになり、サッカーの女子メンバーには、高木たかぎまいになった。


メンバーが全て決まってHRが終了した。

いつもなら、すぐに教室の掃除が始まり、部活に出る者や帰る者はさっさと教室を出て行くのだが、今日は違った。

各種目ごとに、決まったメンバーのポジションを決めるためだ。


ただし、気合が入っているのは男子だけで、女子は勝ち負けなんかどうでも良いとばかりに、男子の集まりを遠巻きにしたり、さっさと部活に行ったりでまとまりがない。

サッカーメンバーのはずの高木さんも、体の具合が悪いということで、さっさと帰ってしまった。


高木さんは病弱のため、先日の体育の授業バレーボールでも、一人だけ見学している。

おそらく、球技大会本番でも休むだろう……と誰もが思っていた。


そんな中にあって、“りん”だけは、ちゃんと野球メンバーの集まりに加わっていた。

男子の黒い制服の群れの中に、セーラー服の女子が1名混じっている様は、いささか違和感のある風景ではあったが。

それを感じたからか、沙紀と東子は、他の女子と同じように部活には行かずに、教室の隅で“りん”の様子を眺めていた。


A組の野球チームのリーダーとして音頭を取り始めたのは、野球部の大村おおむらじゅんだ。


いかにも肉体派というガッシリした体格。

印象的な太い眉毛と、朴訥で誠実そうな、四角張った顔。

その顔を支える太い首と、少し横に広い体型。


いかにも、“キャッチャー”という風貌だ。


「じゃあ、ポジションを決めるけど、希望はある?」


大村は、野太い声で全員に呼びかけた。

すると、周りの男子たちは、口々に「ライト!」とか「セカン!」とか「おれセンター!」という声を上げる。

それらの声に従って、大村が手元の紙にポジションを記入していくが、半分くらいが埋まったところで声が出なくなった。

残ったのは、サードとかショートとか、よく打球が飛んでくるポジションばかり。

野球部じゃない者からすれば、尻込みしてしまうのだろう。


「……か、萱坂さんは……どうする?」


大村が、少し照れたような聞き方をする。

周りの男子たちの視線が、一斉に“りん”に注がれた。


「え……と、ピッチャー……かな」


妙に熱い注目を浴びてしまっていることに気付いた和宏は、一歩後ずさるように答えた。


「ピ、ピッチャー!?」


大村のみならず、その場の全員が素っ頓狂な声を上げる。

教室の隅っこにいた沙紀と東子も、「何事!?」って感じで、目を丸くする。

ただでさえ、“男の中に女が一人”状態の浮ついた雰囲気が、さらに異様になってしまったようだ。


「か、萱坂さん……ピッチャーなんて……出来るの?」


大村が、当然の疑問を口にする。

経験のない者がピッチャーをしても、四球を出しまくるのがオチだからだ。


「まぁ……昔やってたから」


「昔やってた!?」


怪訝な顔で聞き返す大村。


(あわわ……“りん”が昔野球やってたって……やっぱ変だよな)


「ちょっと……だけど」


和宏は、動揺を隠しながら、フォローになってないフォローを入れる。

大村も、他の男子も、かなり意外そうな表情で、“りん”を見ていた。

“りん”のイメージと野球が結びつかないだけに、そういった見られ方をしてしまうのは、確かにしょうがないかもしれない。

そこで、和宏は、一つ提案をしてみた。


「とりあえず、ちょっとキャッチボールしてみない?」


「……!」


思いがけない“りん”の提案に、ドギマギしながら考え込む大村。


大村の、野球部での正式ポジションは、キャッチャーであるので、実際に“りん”の球を受けてみれば、どの程度の経験を持っているのかは容易にわかるだろう。

また、今日は、球技大会準備の関係で、部活の開始時間が多少遅く設定されている……ならば、今ならグラウンドと用具が使えるはずだ。

即座に、そこまで計算した大村は、“りん”の提案を受け入れることにした。


「……そうだね。それじゃグラウンドに行ってみようか」


大村の一声により、ゾロゾロと移動し始めた野球メンバーを見て、慌てて“りん”を呼び止める沙紀と東子。


「ど、どこ行くのよ、りん?」


「ん、今からグラウンドで、大村クンとキャッチボールするんだ」


「えぇ~? 大丈夫なの~?」


沙紀も東子も、本気で心配しているようだ。

和宏は、「そんなにスポーツ苦手な感じに見えるのか?」と、ちょっと不本意に思いながら、「大丈夫だよ」と答えたのだが、沙紀と東子の心配げな表情は変わらなかった。

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