第25話 『女ってヤツは (2)』
『ピーッ』という笛の音が、体育館に鳴り響く。
6対0……沙紀チームの一方的リードである。
ルールは、21点ワンセットマッチ・ラリーポイント制。
審判を勤めるのが、体育教師の袴田学。
その袴田の授業では、チーム分けをじゃんけんですることが多かった。
今日も、適当な相手とマンツーマンでじゃんけんをして、勝った人同士と負けた人同士が、それぞれチームを作っている。
2年A組の女子の総人数である11人の内、1人は見学なので、残りの10人が2チームに分かれて、変則的な5人バレーボールになっていた。
ちなみに、東子は沙紀チームの所属で、女子バレー部員の成田優希と北村彩が“りん”チームの所属である。
和宏は、バレー部員が2人いれば絶対に有利……と考えていたが、バスケ部で鍛えられている沙紀の運動能力の高さは正直言って誤算であった。
ブロックなどお構いなしに、170センチを超える身長と類稀なジャンプ力を活かして、ビシバシとアタックを決めてくる。
……なにより、沙紀の目が本気だ。
(……そんなにこの胸を触りたいのか……?)
和宏は、勝負を受けてしまったことを、少しだけ後悔した。
バレー部員である成田さんと北村さんは、素人のはずの沙紀に、いいようにスパイクを決められていることに、苛立ちを隠せないでいた。
そこで、成田さんがみんなを呼び集め、円陣を組んで軽い作戦会議タイムになった。
「沙紀のスパイクは、高すぎてブロック出来ないから、みんなで協力して拾っていきましょう」
成田さんの提案に、和宏を含めた一同は頷く。
「後は、私たちがトスを上げるから、萱坂さんがスパイクして」
「ええっ! お……わたしがっ!?」
成田さんの提案に、和宏は思わず「俺」と言いそうになりながら目を剥く。
「そうよ。この中じゃ一番背が高いでしょ?」
和宏の身長の162センチは、高二女子の平均よりも多少高い程度だが、このメンバーに入ると確かに一番大きい。
ただ、和宏はスパイクを打ったことがなかった。
なにせ、“男”の時に、体育の授業でやったバレーボールでは、身長が身長なのでスパイクを打つ機会に恵まれなかったからだ。
しかし、今は「やったことがない」とか、弱音を吐いている場合じゃないし、何より、低身長コンプレックスがある和宏にとって『この中じゃ一番背が高い』と言われたのがちょっとだけ嬉しかった。
「よ、よし。分かった」
みんな、和宏の返事を確認してから、コートに散っていく。
最初は、和宏と沙紀の勝負を遠巻きに面白がっていたみんなが、勝負にのめりこみ始めたのか、少しずつ真剣になりつつあるようだ。
再び、沙紀のサーブ。
さっきから、沙紀の強いサーブに手こずっていたが、今度は後衛に下がった成田さんが上手くレシーブして、上がったボールを北村さんがトスする。
ようやく“りん”チームにまわってきたチャンスに、和宏は目一杯のジャンプから腕を振り抜いた。
僅かにタイミングが合わず、ジャストミートしなかったが、上手く沙紀チームのコートにボールが落ちてくれた。
「やった!!」
“りん”チームの初得点である。
和宏は、成田さんや北村さんたちと、ハイタッチで喜びを分かち合う。
そして、ここから一気にゲームは白熱した。
沙紀用の布陣を敷く和宏チームを嘲笑うかのように、豪快なスパイクを決めてくる沙紀チーム。
女子バレーボール部の二人を中心に、丁寧にボールを拾っては、和宏のスパイクに繋げていく“りん”チーム。
点を取っては取られの一進一退が続いた。
18対13。
5点差が、なかなか縮まらない。
成田・北村コンビのレシーブ&トスから和宏がスパイクするが、ジャストミートせず、ボールがフラフラッと沙紀チームのコートに上がる。
ちょうど東子の真正面だ。
東子は、おっかなびっくりなヘッビリ腰で構える。
(あれ? そういや東子にボールがいったの今日初めてじゃね?)
みんなが注視する中、東子は、レシーブする瞬間に謎の声を発した。
「ふみゅっ!」
普通ならば、難なくレシーブできそうなイージーボール。
しかし、宙に上がることなく、東子の足元に「ポテン」と落ちたボール。
「……」
言葉で説明するのが非常に難しい……なんともいえない不思議な空気が、コート全体を支配する。
……東子は、絶望的に運動音痴だった。
18対14。
ようやく縮まった点差。
そして、ついに見つけた沙紀チームの弱点に、和宏たち5人の瞳が妖しく光った。