第24話 『女ってヤツは (1)』
ここから、第2部的な感じでいきます・・・って、何も変わりませんが。
一応キャラ紹介しておきます。
【瀬乃江和宏】=本来は、甲子園を目指す高3男子だが、ある日突然“萱坂りん”になってしまった。(高2女子・A組)
【久保のどか】=和宏と同様に、ある日突然“女”になってしまっていた。かれこれもう4年前のことらしい。ちなみに生徒会長。(高2女子・E組)
【篠原沙紀】=りんの親友。和宏が“りん”になってしまってからもやっぱり親友でいてくれている。背が高くていじめっ子気質アリ。(高2女子・A組)
【阿部東子】=りんの親友であり沙紀の親友でもある。アニメの声優のような声とタレ目が特徴。お笑いにキビシイところアリ。(高2女子・A組)
月曜日の2時間目の英語の時間は、和宏にとっては熟睡タイムである。
もちろん、最初から寝る気満々というワケではないのだが、どうしても途中から眠くなってしまうのだから仕方がない。
2時間目終了のチャイムが目覚まし代わり。
日直の号令が終わると同時に、沙紀と東子が待っていたかのように声をかける。
「おはよう、りん。」
「・・・おはよ。」
「あんた寝すぎよ。マジで。」
沙紀が呆れたように言うものの、寝起きの和宏の頭は、そんな沙紀の台詞など軽くシャットアウトする。
「まぁ、沙紀もコックリコックリしてたけどね。」
絶妙な合いの手を入れるニコニコ顔の東子に、沙紀が納得がいかないと言わんばかりに口を尖らせた。
「私は、りんみたいに熟睡してないわよ。」
(・・・そういうのを五十歩百歩というのでは?)
自分にしては難しい言葉を知っていたものだと自画自賛する和宏。
しかし、沙紀にどういう仕打ちを受けるかわからないので、口に出せないのが辛いところだ。
「さ、次は体育だよ。体育館に行こっ♪」
ジャージの入った手提げを持った東子が、不毛な論争を繰り広げつつあった沙紀と“りん”を促す。
急がないと、休み時間が終わってしまう。
まだ納得のいかない顔の沙紀と、眠気を残した顔の和宏は、ともに体育館に向かった。
体育館には、全く同じ大きさの男子更衣室と女子更衣室が、それぞれ一部屋ずつ備え付けられている。
女子生徒よりも男子生徒の方が多いのに、更衣室は同じ大きさのため、いつも男子更衣室はすし詰め状態になる・・・というのが男子生徒側からよく出る不満点であった。
しかし、学校側は改善する気がないようなので、放置プレイ状態だ。
和宏は、沙紀と東子の後ろを歩きながら、すっかり眠気が覚めていた。
体を動かすのが大好きな和宏にとって、体育の授業は“パラダイス”と同義であるのだが、初体験となる“女子更衣室での着替え”を前にして緊張していたからだ。
“男”の時は、友達とふざけながら「女子更衣室を覗いてみよう。」とか「女子更衣室に入ってみよう。」とか、冗談を言い合ったことはある。(もちろん実際にやったことはない。)
だが、まさか、女子更衣室で着替える立場になろうとは、想定外も甚だしい。
(・・・っつてもなぁ・・・ヤダなぁ・・・なぁんか恥ずかしいんだよなぁ・・・。)
1人で着替える時にすら、素肌や下着姿をさらすことに気恥ずかしさを感じる和宏にとって、他人の目がある中で着替えるというのは、相当に高いハードルである。
しかし、着替えなくては体育の授業に参加できない。
覚悟を決めた和宏は、沙紀と東子に続いて女子更衣室に足を踏み入れた。
男子更衣室と違って、ムワッした汗の匂いはしない代わりに、ほのかな汗の香りとオーデコロンやらなんやらの香りが鼻をつく。
それは、イヤな匂いではなかったが、初めて経験する匂いだった。
(こ、これが女子更衣室の匂いか・・・。)
しかし、刺激的なのは、匂いだけではなかった。
着替え途中の女子生徒の下着がモロ見えだ。
白とかピンクとかのカラフルなブラジャーと素肌の色のコントラストが、和宏の目を激しく刺激する。
(・・・ぬぉお、ダ、ダメだ。直視できん!)
見てはいけないものを見てしまったような気がして、和宏は思わず下を向く。
だが、和宏自身の着替えはこれからである。
和宏は、隅っこに陣取って、壁を向いて着替えに取り掛かろうとした・・・が、そうは問屋がおろしはしない。
「ちょっと、りん。なんでそんな隅っこで着替えるの。」
「そうそう。こっちにおいでよ。」
沙紀と東子が、“こんな時に限って”優しく声をかけてくれるのだが、はっきり言って、今の和宏にとってはありがた迷惑な話だ。
だが、そんな和宏の気持ちなど通じるはずもなく、和宏は二人に両腕を引かれ、更衣室のど真ん中に強制連行される羽目となった。
(ええい、何も考えずにパパッて着替えてしまえ。自意識過剰になるな。どうせ誰も見てないさ。)
和宏は、平静を装いつつ、セーラー服を脱いで着替え始めた。
当然、白いブラジャーと白い素肌が露わになったが、「誰も見てないはずさ。」と、さりげな~く周りの様子を伺う。
(見てるーっ!!)
沙紀と東子が、“りん”(の主に胸の辺り)を、微妙な視線で眺めているではないか。
「なななななな、何見てるんだー!!」
一瞬にして真っ赤になる“りん”の顔。
慌てて両腕で肩を抱きかかえるように胸を隠すと、沙紀が、ため息混じりに言った。
「いいわよねー、りんは。」
「そうそう。スタイル抜群だもんね。」
東子も、沙紀と同様にため息混じりだ。
「・・・と、東子だって結構胸大きいじゃん。」
ため息ばかりつかれていては、まるで悪いことでもしているみたいな気分になるので、和宏は反撃とばかりに言い返した。
「アタシはホラ、背ちっちゃいし、タレ目だし。」
(・・・この際“タレ目”は関係ないだろ・・・。)
どうやら、反撃にならなかったようだ。
実際、身長の割りに東子の胸はかなり大きいのだが、単に胸が大きいというだけじゃダメらしい。
女ってヤツは・・・全くもってややこしい生き物である。
「あ〜あ。神様って不公平よね〜。」
沙紀が、神様にまで文句を言い始めた。
和宏は、「とばっちりがコッチに来ませんように。」と願ったが、案の定そういうわけにはいかなかった。
「とりあえず、ちょっと触らせなさいよ。」
(・・・ハァ??)
どういうわけか、沙紀の目は、いたって真面目だ。
しかし、和宏としては、とりあえずだろうとなんだろうと、触らせるワケにはいかない。
和宏は、そそくさと、スクールカラーであるえんじ色のジャージを着込みながら答えた。
「・・・ヤダよ。」
「・・・なんでよ。」
(・・・『なんで』ってナンダ?)
もはや、理屈は通用しない様相である。
そこで、東子が、再び絶妙な合いの手を入れた。
「まぁまぁ。」
(そうだ東子!この変態女になんか言ってやってくれ!)
「次はバレーボールだから、勝負して決めればいいじゃない。」
(ちょっと待て〜〜ぃ!!!)
「・・・それもいいわね・・・。よし!じゃあ勝負よ、りん!」
思いもかけない東子の提案に、沙紀はノリノリだ。
予想外の展開にパニックになりかけた和宏だったが、よく考えたら、大事なことに触れられていないことに気付いた。
「・・・沙紀が負けたらどうすんの?」
沙紀は事も無げに言う。
「私が負けたら、『触らないでおいてあげる。』と言いたいところだけど、それじゃ納得しないわよね。」
(当たり前だっ!!)
「いいわよ。りんが勝ったら私の胸触っても。」
なんという衝撃的な発言であろうか。
お互い、負けた方が相手に胸を触らせてやらなくてはいけない・・・まさに五分の条件だ。
これでは、勝負を逃げるわけにはいかない。
何より、単純熱血野郎である和宏は、“何かを賭けての真剣勝負”というシチュエーションが大好きなのだ。
「でぇ〜い。その勝負受けたっ!!」
和宏が宣言すると同時に、周りからどよめきの声があがる。
驚いた和宏が、周囲を見渡すと、クラスの着替えの終わった女子たちが、3人を取り巻いていた。
(な、な、なな!?)
どうやら、この和宏と沙紀のやり取りは、いつの間にか他のみんなに注目されていたようだ。
・・・まぁ、大声で胸を触るとか触らせないとか言い合っていれば、こうなるのは自明の理。
こうなった以上は・・・もう引き下がれない!