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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第一部(改訂中)
22/177

第21話 『A trouble in Sunday (7)』

とりあえず、二人は、ちゃんと人通りのある休憩スペースに移動した。

さっきの場所に何時までもいたら、また仕返しに戻って来ないとも限らないからだ。


二人並んで椅子に座り、ペプシを飲んでいる和宏と、ココアを飲むのどか。

もちろん和宏のオゴリ・・・である。


「髪・・・ボサボサになってしまったね。」


二人とも、もう帽子はしていない。

のどかの髪は、もともと長くもないし、外ハネしているクセ毛だから、大して気にならないが、和宏の髪の毛はストレートのロングなので、ボサボサしていると少々みっともなく見える。

一日中帽子の中にしまいこまれていたためだろう。

のどかは、飲み終わったココアの缶をゴミ箱に捨てて、和宏の背後に立ち、ポケットから取り出したミニブラシで、和宏の髪をとかし始めた。

ぼさぼさだった髪が、ブラシをかけるごとに、キレイに整えられていく。


「キレイな黒髪だねぇ。」


「ん~・・・でも邪魔だな。」


「そうかい?」


「耳とかに髪がかかるの好きじゃないんだよなぁ。」


“りん”になってから、和宏はいつもそう感じていた。

出来ることなら、バッサリ切ってしまいたいとも思っていた。


「でもね・・・コレだけ長い髪にしているってことは、“りん”には、何か思い入れがあるんじゃないのかな?」


「思い入れ・・・?」


確かに、和宏も『髪は女の命』みたいな台詞を聞いたことはある。

和宏は、試しに“りんの記憶”を手繰ってみた。




とある病院の一室。

顔に白布を掛けられた父親。

その脇で泣き崩れる12歳の“りん”。


―――りんの髪は本当にきれいだね。

―――せっかくきれいな髪なんだから、もっと伸ばすといいよ。


“りん”の心の中に、大事にしまいこまれている、父親の何気ない一言。

でも、それは“りん”にとって、とても大切なもの。




和宏は、ため息をついた。

妙に生々しく感じる記憶。

それだけで、この記憶が“りん”の中で大切にされていることがわかる。

この髪が、“りん”にとって、とても大切なものなんだということも。


(死んだ父親、か・・・。俺と同じ・・・なんだな・・・。)


不意に、母親の顔を思い出す。

あの優しかった母さんが死んだ・・・あの日のこと。


和宏も“りん”も、それを心の奥底にしまっている。

そんな和宏に、“りん”の大切なものを踏みにじるようなことなど、出来るはずはなかった。


「・・・やっぱり、切るのはやめとくよ。」


その台詞を聞いたのどかが、嬉しそうに笑う。

そして、あらかた髪をとかし終えると同時に、のどかはあることを思いついた。


「そうだ。髪を結んであげようか?」


「・・・結ぶ?」


「そう。こんな風にね・・・。」


のどかは、ポケットから赤いヘアゴムを取り出して、妙に手馴れた手つきで髪を結び始めた。

前髪は残しつつ、横や後ろの髪を全て束ねて、一本に纏め上げる。

纏め上げられた髪の毛は、根元をヘアゴムで留められ、まるで仔馬のしっぽのように和宏の背中まで垂れ下がっていた。

いわゆる“ポニーテール”だ。


「よし、出来た!こっちの鏡で見てごらん。」


のどかは、すぐ近くのおしゃれな日用雑貨売り場の中の全身ミラーを指差す。

早速、和宏が、その鏡の前に立ってみると、また少し雰囲気の変わった“りん”の姿があった。

以前は、少しおとなしい印象だったが、今の“りん”は活動的な印象を与える。


「こっちの方が和宏っぽいかもしれないね。」


「・・・“っぽい”ってナンダ?」


和宏は笑った。

しかし、客観的に見ても、このポニーテールの方が、和宏の性分に合っている感じはする。


「これなら、髪が邪魔にならなくていいんじゃないかな?」


のどかの言葉に反応するかのように、和宏は両手で耳の辺りを触ってみた。

束ねられた髪が、真っ直ぐ後頭部の結んだ部分に向かって伸びているおかげで、耳に髪がかかっていない。

最後に、結び目の部分から、ポニーテールを触ってみる。


「・・・なんかいい感じ・・・かも。」


「だろう?」


自分の髪形の変化にキョトンとしている和宏を見て、のどかは笑った。


「最初は、うまく結ぶのは難しく感じるかもしれないけど、慣れれば簡単に出来るようになるから。」


風呂に入る時や、寝る時などには、当然結んだ髪を解かなくてはならない。

解くということは、再度結ばなくてはいけないということで、和宏は少しゲンナリする。

しかし、このポニーテールによって得られるスッキリ感は、何者にも変えがたい。

和宏は、「まぁ、慣れるしかないか。」と思った。


「・・・そういやさ、なんでのどかはそんな詳しいんだ?」


ふとした疑問。

“男”なら、知るはずのないことを、たくさん知っているのどか。

オマケに、髪を結ぶ仕草が妙に手馴れていたことにも疑問を感じる。

だが、その答えは至ってシンプルだった。


「・・・そりゃそうさ。何年“女”をやってると思っているんだい?」


「・・・。」


和宏は、二の句を告げることができずに、口をパクパクさせた。


(・・・4年・・・だったけか?)


そんな和宏を見て、のどかはニンマリと笑う。

そして、腕組みをして、和宏を見上げながら言った。


「・・・ま、センパイみたいなものだから。わからないことがあったら聞いて。」


身長が、たった145センチののどか。

おまけに童顔。


(・・・全然センパイには見えないけどな・・・タハハ。)


和宏は、思いっきり苦笑した。

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