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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第一部(改訂中)
20/177

第19話 『A trouble in Sunday (5)』

(・・・俺、アナタに嫌われてマスか?神様?)


思わず神様に毒づく和宏だが、当然返事があるはずもない。

男子トイレの入り口で、のどかを待っている状態の和宏は、この3人のチンピラに対して、どう対処しようかと頭をフル回転させる。


(『清掃中デ~ス!』と言ってお引取りいただくとか・・・。)

(『待ちな。ここから先へは一歩も行かせねぇぜ。』と言って立ちはだかるか・・・。)

(死んだふりをするとか・・・。)


全て却下。


和宏が、そんなムダな時間を過ごしているうちに、3人が和宏の目の前を通り過ぎていく。

もし、男子トイレの中で、女の子に見えるのどかが因縁でも付けられようものなら・・・非常にマズイ。


「ン!エヘヘン!ヘン!」


和宏は、とっさに咳払いをした。

3人の注意をひくためだったが、思いのほか効果があったようだ。


「・・・なんだよ。何か文句あんのかよ?」


(・・・キター!!)


3人のうちの一人が、少しかがみこんで、俯いたままの和宏の顔を覗き込むようにいちゃもんをつけてきた。

この男の身長は170センチくらいで、他の2人は175センチくらいと、和宏より一回り大きい。

何かスポーツとか武道をやっているような体つきではない、というのはすぐにわかったが、それは“りん”も同じだ。

おまけに3対1・・・ケンカをして勝てる相手ではない。


逃げて、この3人が追ってくれば、この男子トイレに近づけさせないという目的を達することになる。

和宏は、一歩後ずさって、踵を返して逃げようとした。

しかし、男にガッと左腕をつかまれ万事休す。


「・・・なんだよ。感じわりーな。この精神的苦痛に対する慰謝料出せや。5千円くらいでいいからよ。」


男の言葉に、他の2人が下品な感じの笑い声を上げる。


(い、今どき“かつあげ”かよっ!)


もちろん、和宏は金など出す気はない。

第一、そんな大金は持っていない。

しかし、きつく掴まれた左腕の痛みに、うめき声をガマンするだけで精一杯だ。


「なんだよ、このほせぇ腕。ちゃんとメシ食ってんのか?」


からかうような言い方に「ムッ」とした和宏だったが、やり返せる状況にないので、帽子のツバで目を隠すように俯く。

しかし、逆に、その仕草が男の気に触ったようだった。


「聞いてんのかよっ!」


男の手が、「あっ!」という間もなく、和宏の帽子を払い上げた。

帽子の中に隠していたロングヘアが、パサッという音とともに、あらわになる。


「あぁ?女ぁ?」


男たちは、一様に驚いた顔を見せた。

しかし、和宏の左腕を掴んでいる男は、力は緩ませることなく、和宏の顔をマジマジと覗き込んでくる。

男の吐く息が顔に当たり、この上もなくイヤな気分になった。


「やっべ。結構かわいいじゃん。今からどっか遊びに行こうぜ。」


(じ、冗談はヤメロ!)


下心丸出しの顔に、和宏はゾワゾワとした嫌悪感を覚える。

腕を掴んでいる男の手から、自分の身体全体にバイキンが広がってくるかのような感触に、吐き気まで催してきた。

この状況を打破すべく、男の手を振り払おうとするが、やはりびくともしない。


「へへ・・・そんなにイヤがるなよ・・・楽しくいこうぜ?」


そんな余裕綽々な男の態度が、ムカついてしょうがないのだが、いかんせん力の差がありすぎる。

和宏は、ただ・・・“りん”の非力さが恨めしい、と思うしかなかった。

しかし、男たちは、そんな和宏に下卑た笑い声を浴びせかける。


「へへ・・・、あまり胸ねぇじゃん?俺は貧乳でも結構好きだけどな。」


「おいおい、ロリコンかよ?」


「あ!お前わかってねぇ!貧乳の良さがわかってねぇ!ロリコンとは違うんだぜ?」


下らぬ会話で盛り上がる男たち。

今の和宏は、わざと小さいスポーツブラで、少々苦しく感じるほど押さえ付けているだけなのだ。

別に、貧乳というわけではない。


「ま、ちょっと触らせろよ・・・な?」


「や・・・め・・・。」


本当は、「やめろっ!」と叫びたいのに、まともに声すら出ない。

出たのは、弱々しいかすれ声だけだ。

無遠慮な男の手が、和宏の・・・“りん”の“胸”に伸びてくる。


激しく脈打つ心臓が、全身の血液をものすごい勢いで逆流させるような感覚。

心の底から「イヤだ!」と思う感情と、「怖い」と思う感情が、和宏の中でせめぎ合う。

・・・それでも、和宏の身体は、硬直したように動かなかった。


「・・・イ・・・ヤッ!」


男の手が、“りん”の胸に触れる直前だった。

和宏の左腕をつかんでいた男の体が、「ドンッ」という音とともにいきなり前に弾き飛ばされる。


(・・・っ!?)


ようやく開放された左腕の、掴まれていた部分がヒリヒリ痛い。

その部分をさすりながら、和宏は振り返った。


「のどか・・・。」


のどかが、真剣な顔つきで仁王立ちしていた。

どうやら、トイレから出てきたのどかが、男の背中にタックルをしたらしい。

足元には、そのタックルの拍子に脱げたと思われるのどかの帽子が落ちている。

帽子に隠されていたはずの、いつもの外ハネの髪の毛が、丸出しになっていた。


「大丈夫?」


「あ、ああ、大丈夫。」


お互い無事を確認し合う二人。

出来れば今のうちに逃げ出したいところではあるが、位置関係がそれをさせてくれない。

男たちは、逃げ道を塞ぐような位置にいた。

おまけに、敵意むき出しの目つきである。


「このやろー。もう一人女がいたのかよ。」


そう毒づきながら、さっきのどかにタックルされた男が、襲いかかってきた。


和宏は、どう対処していいかわからず、体を硬直させることしかできない。

のどかは、ズィッと和宏の前に出て、男に対してカウンター気味にひじ打ちを喰らわせた。

油断していたのか、それはキレイに決まり、男の体が“く”の字に折れる。

そして、のどかの身長まで下りてきた男の顔に、容赦なくひじ打ちを浴びせると、男は戦意を喪失したようにうずくまってしまった。


(なっ・・・ス、スゲェ・・・!?)


普段ののどかからは、想像もつかないような芸当に、和宏は心底驚く。

のどかは、きっと空手とかテコンドーとかをやっているんだろう、と和宏は思った。


(・・・でも、空手とかテコンドーって・・・あんなひじ打ち使うっけ?)


そう考えると、空手ともテコンドーとも違うような気がするが、さっきのひじ打ちが鮮やかに決まったのは確かだ。


のどかは、残り二人を睨みつけながら、その内の一人に狙いを定めて立ち向かう。

しかし、今度は男のパンチが、のどかのこめかみ付近にまともに入った。


「のどかっ!!」


思わず叫び声を上げる和宏。

だが、のどかは構うことなく突き進んだ。

パンチを出した男が及び腰だったためか、のどかのダメージはあまりなかったようだ。

素早く男のフトコロに入ると、みぞおちにひじ打ちを決める。


「ケホッ!!」


みぞおちをやられた男は、呼吸できずに、うめき声を上げながらうずくまった。

そして、のどかは、最後に残った一人を睨みつける。

「残ったのはお前一人だ。」と言わんばかりに。

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