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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第一部(改訂中)
19/177

第18話 『A trouble in Sunday (4)』

和宏とのどかは、迷子騒動に巻き込まれた(?)せいで遅い昼食になってしまったため、軽くハンバーガーで済ませることにした。

ちなみに、和宏はチキンバーガーポテトSセット、のどかはパンケーキとオレンジジュースである。

“男”の時なら、ポテトMセットの他にバーガーをもう一つ単品で頼んでちょうど良かったが、“りん”になってからは、そんなに食べることはできないと学習したので、さすがにそんな注文はしない。


「なぁ。そんだけで足りんの?」


和宏は、のどかのパンケーキを指差した。

手の平大のパンケーキが2枚。

それにオレンジジュースだけでは、確かにちょっと少なすぎる感じがする。


「まぁ・・・充分とは言わないけど足りてるよ。」


「ふ~ん。」


そういえば、一昨日、一緒に昼食を食べた時に持っていた弁当箱も、かなり小さかったはずだ。

「そんな小食だから背が伸びないんじゃないのか?」と言いたくもなるが、和宏自身も“チビ”と言われ続けてきたので、あえて言わなかった。

その代わり、和宏は、チキンバーガーにあむっとかぶりついて、ジュースを流し込む。


「こら。ちゃんと噛まないと食べたものが栄養にならないよ。ジュースで流し込んじゃダメ。」


「・・・きゃひゃいひょといふなほ。」


「『固いこと言うなよ。』じゃないっ!」


和宏は、「よくわかったな。」と思うのと同時に、説教くさいのどかに少しだけ辟易した。

すでに、時計の針は14時を回っている。

食べ終えた二人は、ハンバーガーショップを後にした


「ちょっとトイレに寄っていい?」


トイレの前を通りかかった和宏は、思い出したように言った。


「ああ、じゃあ行っておいで。」


「おう。」


和宏は、いそいそとトイレに向かう・・・が、ある重大な問題に気づいて足を止める。


(・・・どっちに入ればいいんだ?)


男子トイレを示す青い人型プレートと女子トイレを示す赤い人型プレート。

ここ数日、和宏は女子トイレを使っているので、女子トイレに入ることに抵抗があるわけではない(もちろん抵抗が“ない”わけでもない。)。

ただ、今は男装中である。

ヘタに女子トイレに入ろうものなら、「キャー!!」とか言われて警察のご厄介にでもなりそうだ。


(そんなことにでもなろうものなら・・・ことみ母さん泣くだろうな。いろんな意味で。)


かといって、男子トイレに入るのも勇気がいる。

第一、男が立ちションしているところに、女が入ってきたら、男としてはものすごくイヤだ。

少なくとも、和宏はそう思う。

そんな考えを頭の中で巡らせながら、トイレの前で不自然に立ち止まる和宏を見て、怪訝に思ったのどかが駆け寄ってきた。


「どうかした?」


「いや、その・・・どっちに入ろうかと。」


「・・・あー。」


(今の『あー。』ってナンデスカ?)


明らかに「そういう事態は想定していなかったよ。アハハ。」的なオーラを漂わすのどかは、ちょっと考えてから、ある答えをはじき出した。


「男子トイレでいいんじゃない?」


「え・・・そ、そうか?」


「ま、今の格好が格好だし。」


そう。男にしか見えない格好だ。

だから、男子トイレに堂々と入ってもバレることはないだろうと思うが、どうにも気が進まない。

別に個室を覗かれる訳でもないのに、妙な恥ずかしさを感じるのは、和宏にとっても意外なことではあった。


「じゃあ、もうちょっと人気のないトイレに行ってみようか。」


「そんなトイレあんの?」


「フロアマップで探してみよう。」


二人は、すぐ近くのフロアマップを見ると、よさげなトイレはすぐ見つかった。

通路の奥まったところにあり、売り場からも少し離れているので、利用者が少なそうなトイレだ。

和宏のタイムリミットが迫ってきている。

二人は、急いでそこに行ってみると、予想どおり利用客は全くいなかった。


「じゃあ、わたしは外で待ってるから、行ってくるといいよ。」


「よし・・・じゃあ行ってくる!」


和宏は、青い人型プレートのトイレ・・・男子トイレに入った。

少し俯き加減に中を見渡すと、見慣れた小便器が3つ並んでいる。

そして、大の個室が和式×1、洋式×1の計2つ。

和宏は、素早く洋式トイレに入って鍵を閉め、用を足す。

・・・タイムリミットぎりぎりであった。

一息つきながら、トイレットペーパーをカラカラ引いている最中、和宏は、誰かが入ってきた音に気づいた。


(あちゃ。タイミングの悪い・・・。)


外の気配を感じるため、耳をダンボのようにする和宏。


(なんか・・・女子トイレに忍び込んだ男の気分だな・・・。)


念のため言っておくが、和宏は女子トイレに忍び込んだことなどない。


やがて、小便器に水が流れる音。

手洗いをする音。

それらが聞こえなくなると、トイレの中はまた静かになった。

あまり早く出て行くと、さっきの男にかち合いそうだが、だからといってあまり待ちすぎると、別の男が入ってくるかもしれない。

和宏は、今のうち出ていくのがベストだと判断した。

こっそりドアを開けると、トイレの中には誰もいない。

和宏は、そそくさと手を洗い、小走りで外に出た。


「おかえり。」


腕組みをして、壁に寄りかかっているのどか。


「じゃあ、わたしも行って来るから。」


そう言って、のどかは、和宏と交代するように男子トイレに入っていった。

「大丈夫かいな?」と和宏は思う。

男に見えなくもない外見・・・ということは、女にも見えるということだ。


(アイツは素直に女子トイレでも良かったんじゃ・・・?)


ひょっとしたら、わざわざ付き合ってくれたのかもしれない。

そう思うと、和宏の胸の内に、いささかの罪悪感が湧き上がってくるが、今となっては後の祭りだ。


(とりあえず、誰も入ってこないことを祈るしかないか。)


和宏が、そう思った瞬間、3人の男がトイレに近づいてきた。

それも、不良というかチンピラというか、人を見かけで判断してはいけないのだが、コイツラだけは例外・・・という感じの3人だ。

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